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ずん・飯尾和樹、笑いを封印。『沈黙のパレード』で見せた俳優の顔「正直、この話は自分には無理だなと思った」

MOVIE WALKER PRESS

天才物理学者、湯川学が難事件の真相を解き明かしてみせる東野圭吾原作の「ガリレオ」シリーズ。『容疑者xの献身』(08)、『真夏の方程式』(13)に続く劇場版第3弾『沈黙のパレード』が公開中だ。9年ぶりに人気キャラクター、内海薫が復帰。湯川役の福山雅治、警視庁捜査一課所属の内海役の柴咲コウ、刑事で湯川の親友でもある草薙役の北村一輝の久々の三つ巴が話題を呼んでいるが、影の主役とも呼べるキーパーソンとして高評価を得ているのがお笑い芸人、ずんの飯尾和樹である。最愛の娘を殺された、定食屋「なみきや」店主役。完全黙秘を続ける容疑者への憤りを募らせ、父親として湯川とは別のやり方で事件の真相を探る役どころだ。笑いを封印したガチ演技で作品を支えた日々を聞いた。

■「申し訳ないですけど相方のやすを想像で殺してみたんですが、どうしてもヤツは起き上がってきちゃう(笑)」

――『沈黙のパレード』のなみきやの店主役への抜擢は、飯尾さんがレシピ本も出版されるほどの料理好きであることが大きかったと聞いています。オファーが来た時の心境を教えてください。

「正直に言いますけど、この話は自分には無理だなと思いました。話を聞くと、思ってもみないかたちで娘を亡くす父親役。この役を引き受けるとなると、心境が理解できないとダメだなと思ったんです。事務所の先輩で、恩人でもある関根勉さんに、『もし、娘さんの麻里ちゃんが…』って聞きかけたんですけど、そんな事態を考えさせるのも嫌だなと思って聞けなくて。その次に、イワイガワのジョニ男さんに、大学生の娘さんがいるなと思って聞きかけたんですけど、やっぱり聞けなくて。最後に、野性爆弾のくっきー!さんにも女の子のお子さんがいるなと思って近づいて行ったら、その日に限って、くっきー!さんのほうから日常の娘さんのかわいい話を始められて…いや、これは聞けないなと。よく、子役の子が『なにを思って泣きましたか?』と質問されて、『飼っていたハムスターが亡くなったのを思って泣きました』、なんていうじゃないですか。それで、中学の時に飼っていた犬のフジ丸のことを思い出してみようと思ったんですけど、想像上でも殺すのがいやで。結局、申し訳ないですけど相方のやすを想像で殺してみたんですが、どうしてもヤツは起き上がってきちゃう(笑)」

――そんななかこの役を引き受けられたわけですが、大変ハマり役だったと感じました。最終的に並木祐太郎という人の心境になれたのは?

「スタジオに作られたセットですね。店の奥が生活スペースになって、そこにそれまでの家族の歴史がいろいろと刻まれているんですよ。昼と夜の休憩時間の時に、戸田菜穂さん演じる奥さんとひと息つけるような小道具が置かれていて、壁や柱には2人の娘が10年前に貼ったであろうシールがあったり。もう美術部さんと装飾部さんが積み重ねた“並木家の歴史”の作り込みがすごくて、あの空間を観ているだけで、家族のこれまでの人生が妄想できてしまう。びっくりしましたね。また、祐太郎が毎晩立ち続けている調理場の設計もすごくて、本当に自分がここに20年近く住み続けてきたと錯覚するくらい住み慣れた配置がされていた。冷蔵庫を開ける、中のものを取る、料理したものを妻に渡す、それを客まで持っていくという導線の配置も無駄なく作られていて、見事なんですよ。冷蔵庫の中には本物の新鮮な食材がぎっしり入っていて、お刺身の仕上げとかを僕が本番でするんですけど、手元は見えていなくてもちゃんと作っている動きが撮影されている。このチームはすごいなと思いました」

――祐太郎の妻・真智子役は戸田菜穂さんで、2人の娘は川床明日香さんと出口夏希さんが演じられています。家族総出でにぎわうお店を回している風景など、本当に幸せそのものですよね。

「それはもう、戸田さんと川床さんと出口さんが家族の空気を作ってくれたおかげです。彼女たちはもちろん、『なみきや』の常連役の吉田羊さんもすごくてね。アドリブで、ちょこちょこ調理場にやってきて、『いまから唐揚げ作れる?』『いや、今日はもうなくなっちゃったな』『じゃあ、なにをお客さんにお勧めできる?』とか、いつまでもやり続けられるんですよ。すごいでしょ。で、そういうさり気ない家族や常連とのやりとりと雰囲気が、本当によかったんですよね」

■「調理中の出汁のいい匂いが現場に充満していて、本当に美味しそうでした」

――ちなみに飯尾さんが「なみきや」の常連でしたら、どの献立を真っ先に頼みますか?

「そりゃ、湯川先生が頼んでいた野菜の炊きあわせです。コロナ禍での撮影で、リスクも考え、試食は最低限の回数に抑えられていたので、あれは本当に湯川先生しか食べることができなかったんですけど。調理中の出汁のいい匂いが現場に充満していて、本当に美味しそうでした」

――飯尾さんはご自身のネタでもたびたび、映画をネタにされていますが、今度、「ガリレオ」シリーズをネタにするとしたら?

「難しいなあ!玄関を開けて、そこに脱いだ靴の状態を観て、誰のかがわかる…という持ちネタを、湯川先生が見てる体でとかでやるかもしれないですね、『うむ、これは几帳面な履き主だな』とか…」

――見てみたいです(笑)。一方で、俳優さんたちと話すと、よく「笑いを封印した芸人さんの演技にはかなわない」という話が出るんですけど、今回の飯尾さんはまさにそうでしたね。

「いや、一回だけ、本番中に笑いを出しちゃったんです。川床さんが演じる長女の佐織が歌手になりたいと、彼女の才能を見込んだ人たちがスカウトをしに店にやってきた時。まあ、娘たちは乗り気で、次女とか『すごい!お姉ちゃん』ってすっかりその気になっているんですけど、祐太郎はがんこ親父で、話を聞きながらもどんどん機嫌が悪くなっていく。その時、お茶を飲んでるんですけど、いつもの癖とノリで、お茶を触った瞬間、『あっちぃ!』と大げさなアクションをとってしまって。現場ではウケたんです。でも、すぐに西谷弘監督が飛んできて、『おもしろい!おもしろいけど、ここは封印してください』と。祐太郎は芸能界を水商売ぐらいに思っているほどの堅物で、歌手なんて許さない、進学しても最寄駅から3駅くらい離れるぐらいしか認めない…みたいな感じでね。はしゃいでる娘にちょっとハラハラしているんですけど、それでもその後の展開を考えると、まだ平和な時期なので、ちょっと張り詰めた空気を崩したくなっちゃったんです。反省して、その後、笑いを一切封印しました」

■「本当に大切なものが守れなかったりすることの悔しさを、この映画が描いていますよね」

――その後、長女、佐織の失踪と死を経験することになるのですが、その死に関わっているのではないかという男が見つかりますが、彼が黙秘して語らないことで罪に問えないという展開になっていきます。
「祐太郎を筆頭に、佐織を大切に想っていた人たち全員の気持ちはわかるし、容疑者に黙秘されると罪を立証できなくて、“疑わしきは罰せない”ということになるんだと、改めて思いしりました。警察ではかつて無理に自白をさせていたということがあっての反省と、人権を守るためにそうなったんだけど、法の隙間をねらって利用する奴がいるんだと。本当に大切なものが守れなかったりすることの悔しさを、この映画が描いていますよね。だから北村一輝さん演じる草薙さんに申し訳なくてね(笑)。本当に草薙さんに当たり散らす役柄でしたから。(北村さんは)会うたびにやつれていって、ひげもどんどん生えていって…見ているこっちもつらいですけど、草薙さんのつらさが手に取るようでしたよ」

――飯尾さんは福山雅治さんと同学年ですが、同級生として見た福山雅治、湯川先生はどういう存在でしたか?

「福山さんは柔軟な方ですよね。それと、現場で全然座らないんですよ。僕なんて、休憩時間は先ほど言った店の奥のスペースでくつろいでいるのに、福山さんはずっと立ったまま。それで椅子を薦めたら、『湯川は服にしわがなくぴっちりしているイメージで、座ってしまうとしわが出来ちゃうから大丈夫です』って。まあ、同じ学年ということで現場ではいろいろ妄想しましたよ。もし同じクラスだったら、同じグループになった自信はありますけどね(笑)。名前は下の名前で呼び捨てされて、俺は『まさやん』とか…。で、女子から呼び出されて、『ごめん、飯尾君って雅治と仲がいいでしょ。彼、どういう女の子がタイプかな?』と聞かれて恋の橋渡しをするんじゃないかな、なんて」

■「完成した作品を観て、まだ観客としてこの映画に浸っているんですよ」

――すごく楽しそうです(笑)。同じクラスに私もなりたいです。これまでも映画には出演されていますが、『沈黙のパレード』では被害者の父親役として肝となるポジションで、この映画を支えられて、これを機にシリアスな役柄のオファーが殺到するんじゃないかと想像もするのですが、ご自身は俳優の仕事に対してはいま、どのような考えですか?

「これは人様が決めることなので、自分では全然、決めることではないと思いますね。完成した作品を観て、まだ観客としてこの映画に浸っているんですよ。ああ、あれがあったから、後半のあれになるのか、はあ、あの時、監督が言っていたのをわかったつもりで『はい』と言っていたけど、大スクリーンの何倍もの解析度で見ると、ああ、西谷監督にはこういうねらいがあったんだなと、いまになってわかりますね。また、この映画に出られた方たちの姿勢がすばらしくてね。例えば、酒向芳さんは現場で水を一切、口にされないんですよ。体調に良くないんじゃないかと思って水を持っていくと、『喉を湿らせると、さっきの場面と声質と変わってしまうので』と遠慮されて。そこまで考えて演技をされているんだなと驚きました」

――『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)や『ターミネーター2』(91)を“毎年観るほど好きな映画”ともおっしゃっています。今回の『沈黙のパレード』の出演発表の際のコメントでも、「最低3回観ていただけるとうれしいです」と答えられていたのが印象的でした。飯尾さんにとって、“同じ映画を繰り返し観る”楽しさって、どんなところにあるんでしょうか?

「映画の見方がそのたびに変わるから、また新しい発見ができるじゃないですか。『ゴッドファーザー』のような名作でもなんでも、最初は主人公目線で見るけど、次は脇のあいつの目線で観てみようとか。そうすると、観るたびに、前回とはまったく違ったものが見えてくるんですよね。だからおもしろくて、何度も見直してしまいます。『沈黙のパレード』も、登場人物が多く、まさにどの人物の目線でこの事件を見るかで、全然違った風景が見えてくると思います」

取材・文/金原由佳
 
   

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