味方だけを乗せて航海に出ることもできるのに、暢子はそうじゃない人も自分の船に招いて夢を語る。みんな、そこで初めて暢子の“本当”を知るのだ。自ら荒波を選んで進む、ちょっと頼りなくて、だけど多くの人から愛されている暢子のことを。暢子自身もまた彼らを知り、かけがえのない仲間として大切にする。そうやって、彼女はどんどん自分のコミュニティを広げていった。
「あなたのように冒険する女の子なんて私の世界ではあり得なかった。遠い南の島から一人でやってきて、自分で船を作って広い世界に漕ぎ出すあなたが羨ましい。あなたの冒険旅行を一緒に楽しみたい、あなたの乗組員だと思っているの。あなたの冒険は、もう私たちの冒険。もちろん、晴れの日ばかりじゃない。大きな波も嵐の夜もある。失敗してもいい、立ち止まってもいい。でも、どんな時でも、食べるの。食べて休んで、前よりもっと強くなって。素敵な船長に、お母さんになってね」
そんなふうに重子から背中を押される不思議な力を暢子は持っている。演じる黒島自身もそうだ。沖縄を訪れたとき、那覇市のとある食堂のテレビで『ちむどんどん』が流れていた。そこでお客さんたちがテレビに向けていた温かい眼差しが印象に残っている。そういう地元の人からの応援や愛情を燃料に、批判にさらされながらも、変わらぬ笑顔を見せてくれる彼女に勇気と優しさを分け与えてもらった。自分を愛してくれている人のためにも幸せになろうと。そして、自分と同じように誰かに愛され、幸せになろうとしている人を大切にしようと。
この冒険を終え、黒島はまた船を変えて新たな冒険へと繰り出す。次は10月21日に放送開始となるドラマ『クロサギ』（TBS系）だ。同作で、黒島はかつて堀北真希が演じた役柄を引き継ぐ。また大変な重責を担うわけだが、その度にもっと強く、もっと素敵な船長になっていく彼女を見守っていきたい。（苫とり子）
