「絶対は、絶対にない」
参考:『新・信長公記』西畑大吾×永瀬廉の“だいれん”が活躍 原作漫画を超える怒涛の展開に
そう言われても、絶対に叶わない夢はある。どうしても抗えない定めだって、この世には存在すると思っていた。しかし、『新・信長公記~クラスメイトは戦国武将~』(読売テレビ・日本テレビ系/以下『新・信長公記』)を通して、凝り固まっていた価値観が、少しずつ覆っていくのが分かった。最終話を終えた今では、可能性を信じたくなっている自分がいるのだから、驚きだ。
物語のラストで、底辺高校に通う男子学生が、「僕でも、もっと勉強すれば宇宙飛行士になれますか?」と聞いた時。本作を観る前の筆者なら、彼のクラスメイトと同じように、「絶対になれるわけないじゃん!」と揶揄していたかもしれない。だが、今はみやび(山田杏奈)と同じく、「絶対は、絶対にない」と言い切ることができる。それは、信長(永瀬廉)をはじめとした特進クラスの武将たちが、“信じる”ことの素晴らしさを教えてくれたからだろう。
ただ、“信じる”って簡単なことではない。特に、裏切られた相手をまた信じるのは、それなりの根拠がないと難しいはずだ。けれど、家康(小澤征悦)は、信じてもらえたから、変わることができた。彼はきっと、信長に信じてもらえなかったら、いつまでも非情の男のままだったはず。「信じるだけだろ? 簡単なことだ」と言い切った信長は、“人の心を動かす→信じる”よりも、“信じる→人の心を動かす”の方が最短ルートだということに、気が付いていたのかもしれない。
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それにしても、理事長(柄本明)との最終戦を前に、「俺を置いて逃げろ」と仲間を守る発言をした家康には驚かされた。まさか、彼の口からこんな言葉が出る日が来るなんて……。戦の最中も明智(萩原利久)に「君を信じる僕を、僕は信じる」と言われ、彼をかばって刺された家康。「悪くないもんだな。誰かの盾になるのも」と苦し紛れに微笑む姿は、今までで一番輝いて見えた。銀杏高校を牛耳り、向かうところ敵なしだった時よりも。
家康を含めた特進クラスのメンバーが、最終戦前夜に盃を交わすシーンにはウルッときてしまった。秀吉(西畑大吾)が、ボトルの中身を水に変えたため、彼らが飲んでいるものはお酒ではない。それなのに、まるで酔っているかのように楽しそうに騒いでいるメンバーたち。彼らの姿を見ながら、“青春”ってこんな感じだったな……とエモーショナルな気持ちになった。お酒がなくても楽しくて、なぜだかずっと笑えて。仲間と過ごす日々が、永遠に続くと信じて疑わない。そんな短く儚い日々を、彼らはともに過ごした。なんだかこの場面は、永瀬率いる『新・信長公記』チームのこれまでが凝縮されていたようにも思えた。
何のために、生きるのか。そんなことは分からない。でも、分からないからこそ、人生は楽しいのかもしれない。“覇王”だった前世の信長。もしかしたら、また前世の記憶を呼び起こしてしまう可能性もある。けれど、今はみやびという愛すべき人がそばにいてくれる。彼女は、何度でも信長に“和の心”を思い出させてくれるだろう。
「生まれてきた意味を見つけた」とみやびに語りかけた時の信長は、確実に愛する人を見つめる瞳をしていた。凛々しさがありつつも、少年感が残っているような。いつも、信長は一人で色々なことを抱え込んでしまうけれど、みやびがいてくれたら大丈夫。みやびの前では、彼も弱くなれるのかもしれない。なんだか、安心したラストとなった。
このドラマが終わっても、特進クラスの武将たちの絆は、永遠に続いていくだろう。銀杏高校の教師になったみやびとの関係性も。このままずっと観ていたいところではあるが、ひとまずは毎週楽しませてくれた彼らに拍手を送りたい。トンチキ方向に大振りしてしまう可能性もあった本作を、“魅せる”作品へと昇華させたのは、彼らの演技力があってこそ。またいつか、“うつけ”な武将たちに会えることを願って。(菜本かな)