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「もう駄目だ。こいつを抹殺し、写真機をぶち壊すしかない」

幻冬舎ゴールドライフオンライン

ひょんなことがキッカケで、自分の中に眠る凶暴な一面に気づいた芦原。人は“定められし運命”から逃れることはできないのであろうか――。苦悩と葛藤を抱えながら、懸命に生きる男の物語。※本記事は、楢井春生氏の小説『パペットのように』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

一部 ボートショーは踊る

俊夫はハンカチで汗を拭きながら中に入って行った。奥の方で、鼻眼鏡をかけたどこか飄々ひょうひょうとした雰囲気の老人が狭い受付のカウンターの向こうで腰を下ろして本を読んでいる。

「ビザ用の写真をお願いしたいんだが。すぐお願いできますかな。急いでいるんだが」

老人は鼻眼鏡の蔓つるに手を添えて俊夫の方を振り向いた。

「どうぞ、こちらへ」

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俊夫は奥の部屋に招き入れられた。古びた脚立付きの写真機が一台あるだけのがらんとした部屋だ。俊夫を椅子に座らせ、老人は脚立の上に乗せた古びた写真機をいじり、ファインダーを覗き込んだ。何が気に入らないのか老人は脚立をいじったり、写真機を取り外してファインダーを調整し直したりし続ける。

「ちょっとお待ちを」

そういって老人は自分の頭を黒いフードの布の中に隠した。俊夫は足を組み直したり、ちょっと表情を取り繕ってみたりしながら待った。

「ちょっと、左の足の位置を変えて」

「どのように」

「ご心配なく。足は写しませんよ。でも、顔の表情とか、生きた人間の姿に撮るには写らない部分も絵的にはすべてが完璧でありませんとね」

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