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「くるみが頑張っているから、自分も頑張ろうとずっと思ってきた」土居美咲と奈良くるみ、コート上で今までの関係性を語リ合う<SMASH>

THE DIGEST

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「くるみが頑張っているから、自分も頑張ろうとずっと思ってきた」土居美咲と奈良くるみ、コート上で今までの関係性を語リ合う<SMASH>

 クリーンに放たれたソフィア・ケニンのフォアハンドボレーが、1時間11分の濃密な一戦に、そして、奈良くるみの約15年に及ぶ競技生活に、終止符を打った。

 対戦相手と主審との握手を越えてベンチに戻った彼女は、即座にタオルに顔をうずめると、しばらくそのまま動かない。その顔を上げた時、広がっていたのは、清々しいまでの満面の笑み。そして、隣に座る「みっちゃん」こと土居美咲に声をかけ、また二人して、涙した。

「みっちゃんには、『ありがとう』という言葉しか最初は出てこなくて」

 試合と、それに続くコート上での引退セレモニーの、およそ1時間後。一通りの感傷を出し尽くしたかのような表情の奈良は、記者会見に同席する土居に視線を送って、そう明かした。

「最後の場で一緒にコートに立てたことが本当にうれしかったし、これ以上の終わり方はなかったので、本当にありがとうという言葉を伝えては、二人で泣いていました」

 キャリアの最後の日を、土居とコート上で迎えること——それは引退を決意した時から、奈良が望んだ理想のフィナーレだった。
  奈良と土居は、ともに1991年生まれ。グランドスラム本戦デビューは、二人揃って予選を突破した2010年の全仏オープン。

 最高ランキングは奈良が2014年に記録した32位で、土居は2016年の30位。WTAツアーシングルス初優勝は、奈良が2014年で、土居は2015年。ランキングでも戦績でも、二人は互いの背を目印にするように、抜きつ抜かれつ、常にその存在を隣に感じながら走り続けてきた。
 
 奈良は関西、土居は関東と生まれ育った地は離れた二人の足跡が、初めて交わったのは小学6年生の時。全日本小学生テニス選手権の、3回戦での対戦だった。

 ただ、当時から多くのタイトルを取っていた奈良に対し、少女時代の土居は、全国タイトルとは無縁。

 そのような両者の立ち位置は、それぞれの「相手の第一印象」にも反映される。「当時から奈良くるみ選手は、めちゃめちゃ強くて、雲の上の存在というイメージでした。

 たしか6-1、6-1とかで負けたと思うんですが、その時に……全小の試合会場は白のウェアで試合しなくちゃいけないのに、彼女は5分間のウォームアップだけ真っ赤なウェアで登場して! 『え? 強い人ってこうなのかな?』って」

 茶目っ気たっぷりに笑いながら、土居が19年前を昨日のことのように語る。会場内でひと際目立つウェアの少女は、「将来プロを目指す強い人」の漠然とした畏敬と交わり、一層強固なイメージを結んだ。

 

 対する奈良が覚えている土居の第一印象は、実際の出会いから1~2年後。14歳以下選手の強化遠征で、ヨーロッパに旅立った日のことだ。

「みっちゃんは……今でこそアレですが、昔は人見知りがすごかったので。最初は、この子と仲良くなれるのかなと不安になった、成田空港での遠征の待ち合わせをすごく覚えています」

 はたして、空港で会った時の挨拶もそこそこ。飛行機の中でも一言も話すことのない、不安的中の遠征のスタートとなる。ただその後の5~6週間の遠征を通じ、「本当に仲良くなった」と二人は声を重ねた。

「何よりその当時から、テニスの考え方や価値観が、この子とは合うなーというのが印象に残っていて。13歳からずっと一緒ですが、そこからすごく二人で成長できてきたかなと思います」

 奈良が声を弾ませれば、「そこから切磋琢磨というか、くるみが頑張っているから自分も頑張ろうとずっと思ってきた」と土居が続ける。

「くるみとずっとやってこられたことは、選手として幸せだったな」。今や言葉も表情でも内面表現が豊かになった、かつての“人見知りの子”は、万感の想いを一語一語に丁寧に乗せた。
  奈良から、最後のダブルスパートナーの依頼を受けた時から、土居は、「どんな感じでこの試合を迎えるのだろう」と、ずっと考えてきたという。

「感傷的になり、ちゃんと試合になるのかな?」そんな不安も抱いたが、いざコートに立った時には、感傷に浸る暇もないほどに、二人で勝利を模索した。

「終わっちゃったな……。いつか終わる時が来るとは思っていたんですが、最後のダブルスで、最後のポイントまで諦めないで勝ちを信じて戦い抜けたのは、わたしたちらしいなって」。声を震わせ振り絞った土居の言葉が、共に歩んできた17年の日々を、色濃く浮かび上がらせた。

 9月21日が、競技者としての奈良の最後の日になったが、テニス人としての道は途絶えはしない。土居はこの先もまだ当分、競技者として自分の可能性を、そしてテニスの楽しみを探求し続けていくだろう。

「選手生活は終わりますが、これからもテニスに関わって、またみなさんにお会いできたらと思います」

 引退セレモニーの最後に、奈良は集った多くのファンに、そして門出を見送る仲間の選手たちに約束した。形や関係性は変わりながらも、二人の肩を並べながらの旅は、この先も続いていく。

取材・文●内田暁

【PHOTO】奈良くるみのコースを狙ったサービス、ハイスピードカメラによる『30コマの超分解写真』
 

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