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結婚してまだ1ヶ月なのに…。退屈を持て余した新妻が、男友達と飲みに行って感じたこと

東京カレンダー

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結婚してまだ1ヶ月なのに…。退屈を持て余した新妻が、男友達と飲みに行って感じたこと

『20代のうちに結婚したほうがいい』

一昔前の価値観と言われようとも、そう考える女性も少なくはない。

そんな焦りにとりつかれ、30歳目前でスピード婚をした広告デザイナー・穂波。

しかし穂波は、すぐに後悔することになる。

「なんで私、焦ってプロポーズをうけてしまったんだろう」

私にふさわしい男は、この人じゃなかった――。

◆これまでのあらすじ

穂波は、一樹が持っているマンションで、新婚生活を開始した。綺麗な部屋にうっとりしたのは束の間、想像とはまったく違う毎日に不満がたまっていく。

▶前回:「これってさ…」新婚生活4日目の夜。夫が食卓に並んだ料理を見て放った、衝撃的な一言



穂波は、カレンダーを見ながらひとり驚く。

― えっ。一緒に住み始めてから、まだ1ヶ月しか経ってないの?

憧れの新婚生活は、想像とはまるで違った。

広くて綺麗な部屋に、新品の家具や食器…物質的には、とても満たされている。しかし、とにかく毎日が退屈なのだ。



鬱屈した気持ちのまま、最終出社の日を迎えた。

「穂波さん、お疲れさまでした!退職おめでとうございます」

上司や部署のみんなからの拍手のなか花束を受け取るが、退職の実感はまだ湧かない。

挨拶をしてみんなで記念撮影をすると、花苗が声をかけてきた。

「穂波、寂しくなるね…。でも寿退社なんてうらやましい。これからもちょくちょく会おうね」

「うん、もちろんよ」

「そうだ、さっそくなんだけど」

花苗は、小さなチケットを差し出した。

「今週の土曜、渋谷の書店で広告デザインのイベントがあるの。よかったら一緒に行かない?」

「いいね。行きたい」

イベントの詳しい内容も聞かずに、穂波は即答した。

とにかくどこかに出かけたかったのだ。休日に一樹と自宅にいると、息がつまるから。



土曜日。

穂波は、花苗と並んでイベントの客席に座っていた。

配布されたパンフレットを見て、イベントの内容を初めて知る。

「え…」

「ん?穂波、どうしたの?」


「この秋岡って人、私の知り合いかも」

登壇予定の3人のうち1人の名前に、見覚えがあった。

秋岡颯斗。

肩書には、広告事務所の社長をしていると書かれている。

「なんの知り合い?」

「大学時代の、学部の同期」

― でも、ほんとにあの秋岡颯斗かな?どうも、社長になるような感じには、思えないけど…。

疑いながらも客席で待っていると、本当に知り合いの秋岡颯斗が登壇してきた。

― うわあ、なんかキラキラしてる。昔より全然!

ブラウンのスーツに、ゆるいパーマヘア。

穂波は、颯斗のまとう輝かしい雰囲気に息をのんだ。



大学時代、颯斗と穂波は、隣同士のマンションに住んでいた。

それを理由に授業後、よく一緒に帰ったものだ。ついでに2人で食事をすることも多かった。

「穂波とは、すっごく気が合う」

会うたびにそう言ってくれる颯斗に、嬉しい気持ちになったのを覚えている。

恋愛感情はなかったものの、明るくて楽しい、いい飲み友達だった。

しかし、卒業してから、自然に疎遠になっていた。



イベントが終わると、穂波は颯斗の方に駆け寄り、声をかけた。

「穂波です。…覚えてる?」

「え。まじか、ひさしぶり!」

颯斗は、目をぱちくりさせながらも嬉しそうに言った。

「マスクしてたから、全然気づかなかったよ」

「すごいね、颯斗。社長さんになるなんて、びっくり」

颯斗は、学生時代からは想像がつかないほど、堂々とした魅力的な大人になっていた。

「まだ小さい会社だけどね。…このイベントに来てるってことは、穂波も広告系の仕事をしてるの?」

「うん、今はデザイナーやってる」

― 先週退職したばかりだが、あえて言う必要もないだろう。

「そっか。色々話聞きたいな。飲み行こうか?」

「うん、ぜひ」

「このあとは?」

― 今日?

とっさに頭に浮かんだのは、家で待っている一樹のことだった。

― でも、せっかく久々に会えたし、颯斗と話したい!

結局、穂波はうなずいた。

「このあと、空いてるよ」



書店の近くにあったイタリアンバルで待ち合わせをして、ビールで乾杯をする。

改めて見ると、颯斗は本当に垢抜けた。

― こんなにかっこよかったっけ。

凝視していると、颯斗は「あ」と言った。穂波の左手についている指輪を見ている。

「穂波、いつの間にか結婚したんだ…」

「あ、そうなのよ。この間結婚した」

「おめでとう!え、今日突然誘っちゃって大丈夫だった?」

穂波は「全然問題ないよ」と微笑む。

本当は一樹が家で待っている。先ほどLINEを入れたが、急なことに怒っているかもしれない。

しかし、気をつかわせたくないので嘘をつく。

「夫も今晩は用事があって、出かけてるの」

「へえ、お互い自由なかんじ?最高だな。結婚しても自分の人生をとられないっていいよね。俺もそういう結婚がしたい」

「うん。いいでしょ。結婚最高」

実際は、自分の人生は一樹にとられっぱなしだ。

それでも嘘をついて笑顔を見せるのは、不幸そうな自分を見せたくないからだ。そんなことは、穂波のプライドが許さなかった。

「ねえ、穂波」

カルパッチョを一口食べたとき、颯斗が身を乗り出し、意外な質問をした。


「プロポーズは、もしかして夕方の海岸だった?」

「え?」

突然なにを言うのだろうと首をひねる。

「あれ?穂波、大学生の頃はずっと言ってたよ。プロポーズは絶対に、海岸で、サンセットを見ながらされたいんだって」

言われて、突如思い出す。

そうだ。ずっとそう思っていた。高校生のときに見た映画のワンシーンに憧れてから、ずっと。

― 結婚に焦るあまり、理想のプロポーズなんて忘れてた…。



「ああ」

穂波は笑顔を作る。

「うん、そう。ちゃんと海岸でしてもらったよ」

実際にプロポーズされたのは公園だったが、公園だなんて言いたくなかった。

見栄を張る穂波に気づかず、颯斗は「そうか」と笑顔になる。

「理想が叶ったんだね。さすが穂波」

「う、うん。…でも颯斗、そんなことよく覚えてたね?」

「まあね」

颯斗はビールグラスに口をつけてから、ふっと笑う。

「今だから言えるけど、当時俺、穂波のことちょっと、いや、かなり気になってたからさ」

「え」

まさかの告白に思わずドキドキしてしまう。

「勝手に想像してたんだ。夕方の海岸で、穂波に花束を渡す俺を…」

冗談なのか本当なのか、判別がつかない。

「でも穂波はモテモテだったからさ。俺の出る幕なんてなかったし、おとなしく友達でいたんだ」

― 確かにモテたし、当時の颯斗には、恋愛感情は抱けなかったわ…。まさかこんなに素敵な大人になるなんて…。

話のテーマはそれから、デザイナーの仕事にうつる。

穂波が賞を取ったことを話し、スマホでその作品を見せると、颯斗は感心したように深くうなずいた。

「すごい。いいの作るね」

褒められると、頬がゆるんだ。

一樹は、穂波の仕事についてまったく興味を持ってくれないから、なおさら嬉しかった。

思い出話や、なんでもない日常の話で笑い合っていると、あっという間に時刻は22時を回っている。

「そろそろ帰らないと、さすがにまずいよね?」

「…そうね」

まったくもって帰りたくなかったが、仕方なくうなずいた。



「穂波、今どこに住んでるの?」

「麻布十番」

「おお、方向一緒だしタクシーで送るよ。…って、既婚者に、こういうことしないもの?」

「え、嬉しい。少しでもしゃべりたいし」

帰り道のタクシーに乗り込むと、颯斗はしっとりとした声で言った。

「穂波、すげーな。あの頃からデザイナーになるって言ってて、ちゃんと叶えて賞もとって」

「ありがとう」

「再会できて嬉しいよ。よかったら、またご飯行こう」

「もちろん」

話をしていると、これまたあっという間に、自宅付近に着いてしまった。

なんとなくマンションのすぐ近くまで行くのはためらわれ、少し手前でタクシーを止めてもらう。

「本当に今日は楽しかった。ありがとね」

「こちらこそありがとう。旦那さんに、よろしく」

最高の夜だった。

― こんなに笑ったのはいつぶりだろう。もっと一緒に過ごしたかった。

こんな別れがたい気持ちを、一樹に対して感じたことはない。

― まさか、颯斗こそ、私にふさわしいオトコだった?

手を振ってタクシーを見送りながら、強烈な後悔に襲われる。

「なんで、颯斗にしなかったんだろう…」

マスクの中で、ついそうつぶやいてしまった。


▶前回:「これってさ…」新婚生活4日目の夜。夫が食卓に並んだ料理を見て放った、衝撃的な一言

▶1話目はこちら:スピード婚は後悔のはじまり…?30までの結婚を焦った女が落ちた罠

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帰宅後、穂波は一樹に失言をしてしまう


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