『ハナレイ・ベイ』に出てくる音楽は何を意図する?松永大司監督に訊く「キャラクター造形で大切な要素」
『ハナレイ・ベイ』に出てくる音楽は何を意図する?松永大司監督に訊く「キャラクター造形で大切な要素」
村上春樹の短編小説を、吉田羊、佐野玲於、村上虹郎らをキャストに迎えて映画化した『ハナレイ・ベイ』。ハワイのリゾート地、ハナレイ・ベイで、サーフィン事故で死んだ息子への様々な感情を抱えながら、10年にわたって同地を訪れる女性・サチ(吉田羊)の姿を追った物語。
この映画はヒロインの成長ドラマとしてだけではなく、劇中に使用されている音楽、そしてサチが読む本などからも、登場人物の心境や物語の軸を読み取ることができる。

メガホンをとったのは、『トイレのピエタ』などで知られる松永大司監督。今回は松永監督に話を訊きながら、『ハナレイ・ベイ』の魅力をディテール面から紐解いていく。

まず同作で見逃してはいけないところが、冒頭だ。パンクロックの帝王、イギー・ポップの名曲『ザ・パッセンジャー』が流れる中、サチの息子・タカシ(佐野玲於)はハナレイ・ベイでサーフィンに出て、そしてサメに襲われて死んでしまう。日本から同地を訪れたタカシ、そして悲報を受けてそこにやって来たサチは、まさにパッセンジャー=旅客だ。

「今回の映画において、音楽面でのチャレンジは非常に大きいです。映画は、音楽との親和性を切っても切り離せない。しかし邦画では、シビれるような外国音楽を使用するにはハードルが高い。予算的な問題も大きいですし、あと日本映画に洋楽を重ねるというアンバランスさもあります。しかしこの映画はハナレイ・ベイが舞台だし、何よりも自分が『これだ』と思う音楽を使いたかった。シナリオの時点から使用したい洋楽をピックアップし、その中でも『ザ・パッセンジャー』を絶対に使いたかった。おっしゃったように、映画のテーマをあらわすのにもっとも効果的な曲です。この曲を(物語の)アタマから聴いてもらったら、伝わる意図が大きい。『こんな邦画は観たことない』という印象も与えられたと思います」

『ザ・パッセンジャー』はバックミュージック的な使われ方だけではなく、中盤、死んだ父親(栗原類)が愛聴し、そのカセットテープとウォークマンを息子が持ち出して聴き継いでいることが描かれる。『ザ・パッセンジャー』の歌詞に出てくる人物は流れ者的なイメージがあり、その行くあてのなさが、父親、息子、そしてサチにも投影できる。

「そこはかなり狙ってやっています。原作の設定では、父親はオーバードーズで死んでいます。この曲の歌詞の内容を知っていると、親父から息子がその曲を引き継ぐという流れは、それだけで意味と説得力を出せると思いました。そこは、音楽プロデューサーを今回つけているので、かなり綿密に話し合いましたね」

息子の死後、サチはハナレイ・ベイの砂浜でビーチチェアに座り、本を読む。その本というのが、エドガー・アラン・ポーの『黒猫』だ。この小説は、飼い主が、愛猫・プルートーへの愛が深すぎたがゆえに殺してしまい、プルートーにそっくりの猫を再び見つけてくる話だ。飼い主をサチに置き換え、猫たちを父親、息子というふうに深読みすることができる。

「あのシーンでは、読んでいる本をあえてはっきりと映していないんですよね。でも、先ほどの音楽の話もそうですが、それぞれの人物が何の曲を聴いていて、どんな本を読んでいるかは、映画におけるキャラクター造形として、もっとも大切な要素です。サチが今、読んでいる本から、どういうことが分かるのか。伝わる人には伝わってほしいなという気持ちです」

また、主題歌となった主題歌:『愛の喜びは -Plaisir d’amour-』 は、劇中でも4度流れる(ちなみにこの曲を原曲とした、エルビス・プレスリー『好きにならずにいられない』は、ハナレイ・ベイを舞台とした映画『ブルー・ハワイ』でも使用されている)。この曲は、人を愛する喜びと苦しみについて歌われたものだ。サチは、息子・タカシのことを「嫌いだったけど、しかし愛していた」と複雑な心境を吐露する。親子関係の溝の深さがたびたび描かれるが、 この『愛の喜びは -Plaisir d’amour-』が、彼女の“言葉にしない本音”をあらわしているかのように聴こえる。

「この曲はサチが幼少期から大人になるまで、ずっと弾き続けている曲なんですよね。まずそこから紐解くと、サチはなかなか自分を変えられずに生きてきた女性であることが分かります。そんな彼女が、息子の死を受けてどう成長していくのか。そういったキャラクターとのリンクをおこないました。また、愛ということへの捉え方について描きたかった。先ほどの『黒猫』もそうですが、人の感情は表裏一体。愛情が深いからこそ憎しみ、悲しみも深い。それでもなお、人間の根源にある大きな感情は愛であると僕は信じたい。憎しみは、愛の転換である。好きだからこそ、嫌いにもなる。サチ、タカシの関係から、そういった部分を感じ取ってもらえると嬉しいですね」

映画『ハナレイ・ベイ』は全国公開中。
(更新日:2018年10月29日)

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