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『アイ・アム まきもと』『フォレスト・ガンプ』『ビッグ・フィッシュ』…愛すべき変わり者に心揺さぶられる名作9選

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『アイ・アム まきもと』『フォレスト・ガンプ』『ビッグ・フィッシュ』…愛すべき変わり者に心揺さぶられる名作9選

『舞妓Haaaan!!!』(07)、『なくもんか』(09)、『謝罪の王様』(13)と、数々の話題作を手掛けてきた水田伸生監督と主演の阿部サダヲが、4度目のタッグを組んで放つ『アイ・アム まきもと』(9月30日公開)。山形県の地方都市を舞台に、市役所の「おみおくり係」に務める公務員の日常を描いたヒューマンドラマで、このタッグらしいユーモアと人間味は健在。加えて、グッと胸に迫る感動作に仕上がっている。

「おみおくり係」の仕事は、独りで亡くなった市民を無縁墓地に埋葬すること。この部署の唯一の職員である牧本壮(阿部)は、誰に頼まれたわけでもないのに自費で葬儀を行ない、遺骨はいつか遺族が引き取りに来ることを信じて納骨せずオフィスに保管しておく。空気が読めない、人の話を聞かない、友達がいない、といった具合に、周囲の人たちからすると、一見、“迷惑”な存在にも見える牧本だが、亡くなった人を大切にしようとする彼の真摯な姿は、観る者の心を温かくする不思議なパワーも感じさせる。そんな本作の魅力を紐解くため、時代を超えて語り継がれる名作たちと照らし合わせて検証してみよう。

■融通が利かないけどチャーミングな“ヒーロー”『フォレスト・ガンプ 一期一会』『アイ・アム・サム』

融通が利かない、しかしチャーミングな人間を主人公にしているという点で、真っ先に思い浮かぶのが『フォレスト・ガンプ 一期一会』(94)。アメリカの現代史を背景にした同作の主人公フォレスト(トム・ハンクス)は疑うことを知らず、どこまでも素直に生きて、奇跡的なまでに成功者への道をたどる。地方公務員として閑職に就いている牧本は必ずしも成功者とは呼べないが、悪意とは無縁のまっすぐな生き方はフォレストと共通する。見ず知らずの無縁仏であっても、亡くなった人には敬意を払い、やるべきことを粛々と行っていく。

知的障がいを持つ父親の奮闘を描いた『アイ・アム・サム』(01)の主人公サム(ショーン・ペン)にも近いものがある。サムは幼い娘を自分で育てたいが、障がいを持っているがゆえに周囲がそれを簡単には許さない。『アイ・アム まきもと』の主人公の生き方や考え方も、周囲に理解されにくいという点で類似している。天命であるかのように、牧本はおみおくり係として故人と誠実に向き合うが、新たな上司の合理化方針はそれをよしとせず、おみおくり係は廃止となってしまう。それでも腐らず、最後の仕事に臨む牧本の姿に、愛らしさを覚えずにいられない。

■前へ突き進む主人公の“夢中”を応援したくなる『コーダ あいのうた』『博士と彼女のセオリー』

最後の仕事ということもあり、牧本は亡くなったばかりの蕪木という老人(宇崎竜童)の遺族を捜すことに情熱を傾けるが、なにかに夢中になっている不器用な主人公を応援したくなるのは、優れた人間ドラマの常。第94回アカデミー賞で作品賞ほか3部門に輝いた『コーダ あいのうた』(21)は、耳の不自由な家族を支える使命感に縛られながらも歌の才能を伸ばしたい、一家で唯一の健常者である女子学生の奔走が描かれた。牧本の場合は、縛られているものがあるとすれば公務員という立場。上司に皮肉を言われながらも“最後のおみおくり”を完遂しようとする姿は、やはり応援したくなってしまう。

実話に基づく『博士と彼女のセオリー』(14)は世界的な物理学者、スティーヴン・ホーキング博士の若き日を描いているが、これもまた情熱が重要な要素となる。終わりのない病と闘いながらビッグバン理論を築いた天才。これに比べると、牧本の“おみおくり”は世界を動かすようなものではない。だが、亡くなった人1人1人と真剣に向き合い、小市民なりに好奇心を燃やし、遺族捜しに東奔西走する。その人並ならぬ情熱が、観る者の心を震わすのだ。

■“旅”の新しい出会いで世界が広がる『ビッグ・フィッシュ』『レインマン』

牧本は遺族捜しのささやかな旅のなかで、蕪木と関わりのあった様々な人たちに出会っていく。呑み屋を切り盛りする訳ありの女将、故人のケンカっ早い性格を笑いながら語るかつての同僚、故人を命の恩人と語る老人など。牧本が出会う人々は、どこにでもいるフツーの人々だが、どこかユニークで印象に残る人物ばかり。これと同様に、ティム・バートン監督の『ビッグ・フィッシュ』(03)は、空想好きの老人が息子に語ってきた“冒険”がビジュアル化され、個性的な人々との出会いがドラマをおもしろくした。『アイ・アム まきもと』の結末には本作と共通する要素もあるので、ぜひ、その目で確認してみてほしい。

“旅”はまた、人々に新たな発見をさせる教科書でもある。『レインマン』(88)でトム・クルーズ扮する自分勝手な青年が、ダスティン・ホフマンが演じた自閉症の兄との6日間の旅を通して変化していく姿は例に出すまでもないだろう。クルーズ演じる若き青年に比べれば牧本は中年で、成長の伸びしろの大きさという点では及ばないだろう。それでも、彼の旅は見識をより広げるものとなる。出会った人たちから聞く蕪木の人柄は乱暴者で、お世辞にも好かれているとは言い難い。しかし、好奇心旺盛な牧本はその過去をさらに掘り下げ、蕪木が実は正義感が強く気持ちの優しい人間だったことを知っていくのだ。謎に包まれた故人の人物像が、牧本の旅を通じて露わになっていく。

■“生と死”の向き合い方について考えさせられる『リトル・ミス・サンシャイン』『グリーンマイル』

本作を深みのあるドラマとしているのは、生と死の関係性に違いない。死はいつでもどこでも起こり得る。それに対処するのが生きている者の仕事。『リトル・ミス・サンシャイン』(06)では、子ども美人コンテストに出場することになった娘と、その家族の車でのドタバタの旅を描いていたが、孫娘を愛していたヤンチャな祖父が道中で死亡するというアクシデントが発生する。家族は、この身内の死に、それぞれに向き合わねばならない。これは『アイ・アム まきもと』で描かれる故人の家族や知人の心模様にも通じるものがある。

死について深く考えることになるのは、これまでに多くの死者と接してきた牧本もまた同様だ。仕事として大勢の無縁仏を見てきたが、故人のことを知れば知るほど情のようなものが湧いてくるのは必然。これはスティーヴン・キング原作による『グリーンマイル』(99)で、トム・ハンクスが演じた死刑囚監房の看守長を思い起こさせずにおかない。彼は死刑囚を“おみおくり”しなければならない立場にあるが、殺人犯らしからぬ静かで落ち着いた気性、そして不思議な力を持つある囚人との出会いによって、心に波風を立たせることになる。彼は死ぬべきなのか?自分は生きているべきなのか?『アイ・アム まきもと』に比べるとヘビーな展開ではあるが、生死の意味を問いかけてくる点では確実に通じるものがある。

日本における孤独死は過去15年で2倍に増えていると言われている。そんな社会問題に目配せしつつも重くなることなく、感動のエンタテインメントへと昇華させた『アイ・アム まきもと』。主人公、牧本の生き方をたどった笑いと涙の物語は、高齢化社会に加えてパンデミックにも覆われ、死がより身近に存在している現代になにを伝えるのだろう?例に挙げた作品をヒントにしつつ、笑って泣けるヒューマンドラマをじっくりと味わってほしい。

文/有馬楽

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