top_line

【 最新ニュースをアプリでサクサク読むなら! 】

隠し袋で円を持ち出す?1964年、海外旅行解禁に沸いた日本

幻冬舎ゴールドライフオンライン

×

若き建築家の卵としてヨーロッパの様々な街をめぐり、パリやロンドンに滞在した著者。そこで体験した事がら、出会った人々との交流を、情感あふれる筆致で描いたヨーロッパ青春漂流・滞留記。※本記事は、鈴木喬氏の書籍『遠き時空に谺して』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

Ⅰ ヨーロッパ

(一)君へ

君はもう外国を見たことがありますか。まだだ、というかな、もう当然だ、というかもしれないね。でも今から半世紀以上前に若者だった我々にとっては、外国は今では想像できないような遠い存在だったのだ。

私は1965年の4月に大学の建築科を卒業するはずだったが、卒業せずに4年生に在籍のまま1年半あまりヨーロッパに行っていた。それは留学などというものではなく、よくいって修業、実態は働きながらの漂泊・滞留だった。そして帰ってきて大学を卒業したのは同期の友人達より2年遅れになった。

その時のことを書いておこうと思ったことは何度かあったのだが、当時の資料というものがほとんど残っていない。それは私のものぐさのせいで、その時のことを書き留めておくことがなかった。家に書き送った手紙類もあるはずなのだが、今やどこにいったのか定かではなくなってしまった。

広告の後にも続きます

家捜ししてみると、かろうじて当時の写真(当時はカラーフィルムの焼き付けは高かったからほとんどスライド用だ)が少しと、様々な街の地図を見つけることができた。もう半世紀以上が過ぎているので、記憶は曖昧で時系列も定かではなくなっている。

その様な状態で当時のことを書くとすると、どうしても自己満足の思い出話になってしまいそうで、あまり気が進まなかった。しかし、その時の様々な体験、多くの人々との得がたい出会いが、その後の私の生き方に影響を与えたことは確かなのだから、ボケないうちにできる範囲のことを書いておこうと思い立った。

そしてそれを書こうと思い立ったのには、自分の過去を振り返るということばかりではなく、別の思いもあった。それは、そこで体験した心の遍歴とでも呼べばよいようなものは、今の若い君の心情とあまり変わらないのではないかと思ったからだ。

私の体験したものは、決して君に特別な話題を提供するものではない。まして、その後の私の成功物語に続くものでもないのは確かだ。ただ半世紀以上前の1人の若者の青春の日々が、今の君の心にある共感の小さなさざ波を呼び起こすことがあるなら、私にとってこれほどうれしいことはない。先ずは始めることにしよう。脱線路線になるかもしれない。

(二)イアエステ

2021年夏、2回目の東京オリンピックが1年遅れで、新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言下という異常事態の中で開催された。それより半世紀以上前の1964年の秋に1回目のオリンピックが東京で開催された。

  • 1
  • 2

TOPICS

ジャンル