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キリンが独自素材を日本コカ・コーラに提供。「敵に塩を送る」狙いとは

日刊SPA!

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キリンが独自素材を日本コカ・コーラに提供。「敵に塩を送る」狙いとは

―[あの企業の意外なミライ]―

◆ライバル関係がまさかの提携

 キリンホールディングス株式会社(以下、キリン)が、独自素材「プラズマ乳酸菌」を日本コカ・コーラ株式会社(以下、コカ・コーラ)に提供することが発表されました。

 キリンとコカ・コーラは2社合計で日本の清涼飲料水の約4割のシェアを占めるなど、いずれも日本を代表する企業です。

 同時に業界内では競合となり、シェアを競い合うライバル関係。つまり、今回のような技術提供は非常に珍しいケースとなります。

 キリンはなぜコカ・コーラに「プラズマ乳酸菌」を提供するのか?

 まるで孫悟空とベジータ、大阪桐蔭と横浜高校。ライバル関係のまさかの提携、その狙いを解説しましょう。

◆きっかけはビール離れにあり。打開策としてのプラズマ乳酸菌

「プラズマ乳酸菌」の提供の意図を知るために、まず見るべきなのがビール市場です。

 なぜビール?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、「若者のビール離れ」が今回の提供の根底にあります。

 ビールはピーク時の1994年には日本国内で約705万キロリットルと膨大な量を消費していましたが、2015年段階で537万キロリットルまで減少しています。

 まだ大きな市場であることは間違いないですが、毎年のように前年割れと縮小傾向です。ビール離れとは漠然としたイメージではなく実際の数字に現れており、ビール販売各社にとっては悩みの種となっています。

 これは「一番搾り」ブランドを展開しているキリンもご多分にもれずです。

 今後、キリンはビールと並ぶ、あるいはビールを超える別ジャンルでの新商品を開拓しなければ長期的な展望は危うくなる可能性があります。

◆健康・医薬分野に注力

 そんなキリンが新たに力を入れているのが健康・医薬分野です。実は、健康・医薬分野はキリンの中で現段階でも大きな存在感を持つほどに成長しています。

 キリン傘下で健康・医薬分野を主戦場としている協和キリン株式会社の2021年の事業利益は612億円。現段階でもグループ全体の3割を占める事業利益を叩き出しています。さらにより大きな伸びしろを見込んでおり、2022年の業績予測は730億円と成長が目に見える分野です。

 調査会社のグローバルインフォメーションの調べによると、健康食品の世界市場は2020年段階で7642億ドルです。日本円換算で約87兆円。さらに2027年には1兆1000億ドルまで伸びると予測しています。こういった市場自体の伸びも背景に、キリンの磯崎功典社長は健康・医薬分野の開発のために1000億円を投資する意向があると取材でも答えています。
 
 キリンは長きにわたってビールをはじめとする酒類を主力としていましたが、それが徐々に健康・医薬分野に移りつつあるのです。そんなキリン躍進の鍵を握るのが「プラズマ乳酸菌」なのです。

◆免疫の維持をサポートする効果

 では「プラズマ乳酸菌」とは一体なんなのでしょうか。

「プラズマ乳酸菌」は2020年に免疫に関する商品として日本で初めて機能性表示食品の届出が受理されたことで注目を集めました。

 私たちの身体は外敵から身体を守る免疫機能によって健康を維持しています。そして、「プラズマ乳酸菌」はpDC(プラズマサイトイド樹状細胞)と呼ばれる免疫の司令塔に直接働きかけることで、免疫の維持をサポートする効果が期待されています。

 近年、「プラズマ乳酸菌」を取り入れた商品も販売されており、iMUSEシリーズとして飲料、ヨーグルト、ゼリーと幅広く展開されています。

 コンビニや自動販売機などで「プラズマ乳酸菌」を取り入れた商品を目にしたことがあるという方もいるのではないでしょうか。

◆森永製菓、カンロ…他メーカーに提供している「プラズマ乳酸菌」

 そして、この「プラズマ乳酸菌」は実は他社と提携した商品販売に意欲的です。

 すでに、キリンは森永製菓、カンロ、大正製薬などに「プラズマ乳酸菌」を提供しています。森永製菓の「inのど飴<りんご味>」や「健康のど飴たたかうプラズマ乳酸菌iMUSE」などは販売も開始されています。その他、ファンケルの流通営業とも連携することで、通販チャネルにおいて新規顧客の獲得と定期顧客化が好調です。

 そしてこの提携が同社の売上を後押ししているのです。2020年の関連商品の売上は100億を超え、さらに2027年までに500億円まで伸びると予測しています。

 現段階で他社への提供の経験があり、売上にも貢献しているという土台が「プラズマ乳酸菌」にはあります。

 しかし、コカ・コーラへの提供はこれまでとは全く違う意味を持ち、同列で語ることはできません。コカ・コーラは完全に同業のため、例えばコカ・コーラが「プラズマ乳酸菌」を活用した飲料水を販売して、キリンの売上を奪う可能性も十分に考えられます。

 こういった懸念がある上で、なぜコカ・コーラに「プラズマ乳酸菌」を提供するのか。その理由はリスクを上回るリターンを見込んでの判断があります。

◆キリンがほしいのは認知度

 キリンが見込んでいるリターンは認知度の向上です。

 コカ・コーラは清涼飲料市場において第1位のシェアを持ちます。つまりキリンの商品よりもコカ・コーラ商品の方が、多くの人が目にし手に取る機会があるということです。このコカ・コーラのブランド力を利用することで「プラズマ乳酸菌」の認知度を向上させることこそがキリンの狙いです。

 実際にキリングループの2022年-2024年中期経営計画において、日本国内のプラズマ乳酸菌機能認知率の45%達成が非財務目標として掲げられています。さらに、この数値は2027年までに50%達成を目標としています。

 機能認知率とは、名称を知っているだけでなく効果や効能までを把握している割合です。つまり、キリンは「プラズマ乳酸菌」とはどういったもので、どのようなメリットがあるのかを2027年までに2人に1人が知っている状態をつくろうとしているのです。

 健康食品の分野では、どういった効能があるのかがわからない商品、信ぴょう性が高くない商品を購入したいと思う人は決して多くはありません。

 スピード感を持った認知度向上が健康食品素材を軌道に乗せるためには非常に重要な要素となります。

◆2024年までに「認知度15%アップ」が目標

 なお、現段階における「プラズマ乳酸菌」の機能認知率は約30%。

 先ほど紹介した森永製菓、カンロ、大正製薬などへの提供も、売上だけでなく認知度向上も当然期待しています。仮にキリンのみで展開していたらこの数値は恐らくもう少し低い状態になっていたでしょう。そして、ここから2024年までにさらに15%伸ばすための起爆剤がコカ・コーラ社への提供なのです。

 認知拡大のスピードアップのために、競合飲料メーカーに供給することも辞さない。それがキリンの覚悟なのです。

 自社の優位性を損なうリスクよりも、認知度の向上というリターンの方がより大きいとキリンは判断したのでしょう。

 危ない橋を渡ってでも認知度をあげる。ライバルにもプラズマ乳酸菌を広めてもらう。

 果たして、プラズマ乳酸菌は普及するのか? 今回のライバル関係会社との提携に、その命運がかかっていると言っても過言ではないでしょう。<文/馬渕磨理子>

【馬渕磨理子】
経済アナリスト/一般社団法人 日本金融経済研究所・代表理事。(株)フィスコのシニアアナリストとして日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでベンチャー業界のアナリスト業務を担う。著書『5万円からでも始められる 黒字転換2倍株で勝つ投資術』Twitter@marikomabuchi

―[あの企業の意外なミライ]―

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