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2ヶ月ぶりに元カレから連絡が。ゴハンに行こうって言われたけど、これって…

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2ヶ月ぶりに元カレから連絡が。ゴハンに行こうって言われたけど、これって…

高度1万メートルの、空の上。

今日もどこかへ向かう乗客のために、おもてなしに命をかける女がいる。

黒髪を完璧にまとめ上げ、どんな無理難題でも無条件に微笑みで返す彼女は「CA」。

制服姿の凛々しさに男性の注目を浴びがちな彼女たちも、時には恋愛に悩むこともあるのだ。

「私たちも幸せな恋愛がしたーい!」

今日も世界のどこかでCAは叫ぶ。

◆これまでのあらすじ

ニューヨークで小泉からアテンドを頼まれた七海。チェルシー地区で、小泉と絵画や彫刻を見て回り、充実した1日を過ごした。だが、用事が終わると、あっけなく解散。もしかして私って本当にただのアテンド要員だった?

▶前回:「こんなもの買うなんて…」ファーストクラスに乗る35歳男。CAも驚く、お金の使い方とは

▶あわせて読みたい:次の週末は“韓国グルメ旅”をしてみては?たった2時間半で行ける、CA厳選の最旬スポット16選



Vol.8 断るって難しい


「先日は、弊社の社長の小泉が大変お世話になりました」

小泉の秘書を名乗る男性は、物腰穏やかに切り出した。

「お世話になっております。あ、あの…私に何か?」

「はい、ニューヨークでは通訳とアテンドをしていただき、大変助かったと小泉が申しております。つきましては…」

― つきましては?って、まだ何かあるの?

いきなり秘書が電話をかけてくるくらいだから、何かしらの用事があるのだろうと七海は身構えた。

「小泉がとても感謝しておりまして。御礼を受け取っていただけないかと思いお電話させていただきました」

「えっ?御礼ですか?そんなのいただけません。お気持ちだけで!」

七海は通訳をしただけで、行く場所などはすべて小泉が段取っていた。疲れはしたけれど、カフェや食事はご馳走になっている。

「そう言われましても、受け取っていただかないことには…。ご都合の良い日時をご指定いただければ、こちらから伺いますので」

― わざわざやってきて渡すってことは、多分お金よね?

小泉に言われたことだから、受け取ってもらわなければこちらも困ります、という真壁。

「あの、本当に大丈夫です。現地での行動は自由なんですが、御礼とかもらうのは会社的にちょっと…なので本当に結構です。

そんなつもりでアテンドを引き受けたわけじゃないですし。それに、フライトでほとんど家にいないんです」

七海は丁重に断り電話を切る。

とはいえ、現地ではあんなにあっさりと別れただけに、感謝されているとは意外だった。

そして、そのギャップも七海には面白く映っていた。




9月下旬。

「私、この店初めてー。莉里ちゃん来たことあるの?」

七海は莉里子と同じフライトで、北海道に来ている。今夜は空港近隣のホテルにステイし、明日のお昼には羽田に戻るスケジュール。札幌市内まで足を延ばすほど時間はないから、今日は千歳周辺でクルーたちと夕食を共にすることになったのだ。

「一度ありますよ。やっぱ北海道に来たら海鮮ですよね。今日はキャプテンが予約してくれたみたいです」

3人がいるのは、千歳市内の『鮨処 北の華』。

莉里子と後輩の早希と3人で一足先に入店し、みんなの到着を待っていた。



「キャプテン、面倒見いいよねー」

今回のフライトのキャプテンは、七海もよく一緒のフライトになるが、コーパイ(副操縦士)やCAからの信頼も厚く、腕もいい。

「キャプテンか…」

だが、早希1人、浮かない顔をしている。

「早希ちゃん、満席だったし疲れたよね?もうすぐみんな来るから、美味しいものたくさん食べて元気出そ!」

七海が早希に声をかけると、横から莉里子が「そういえば、七海さん!」と口を挟んだ。

「結局、あれからファーストクラスの彼とはどうなったんですか?」

そうか、莉里子と一緒の時に電話があったんだ、と思い出し、七海は「あれっきりよ」と答えた。

「え?御礼は要りません、って断ってそれっきり!?なーんだ」

「当たり前じゃない。要りません、って断ったんだもの」

後輩、早希は2人のやりとりを真顔で聞いている。

莉里子がその様子に気づき、声をかける。

「ねえ、早希ってばさっきからぼーっとしてどうしたの?」

早希は25歳。色白で華奢、日頃から元気が弾けるようなタイプのCAではないが、美人だからお客様からもしょっちゅう声をかけられている。

「断るって難しいですね…」

そう言ってため息をつく。

「聞くけど?」と莉里子が言うと、「あの…キャプテンなんですが…」と早希が口を開いた。

早希によると、この前フライトで一緒の時も「食事を予約しておいたから行こう」と言われたそうだ。

てっきり今日みたいにクルー全員で行くものだと思ったから、「今日、何料理予約したか知ってます?」と仕事中ギャレーにいた3つ上の先輩に聞いた。

ところが、彼女は「私、誘われてないけど?」と言う。

「もしかして誘われていたのは私だけ?」と気づいた時はすでに遅し。

結局そのフライトでは、トレイの回収や、パスコールの対応、ラバチェックなどすべて、先輩に全部押し付けられ、現地に到着した時にはヘトヘトだったそうだ。



「キャプテン、上司としては素敵だと思っていたので、食事をご一緒したのはいいんですが…『今度温泉に行こう』と誘われてしまって」

「キャプテン…裏でそんなことを」

「意外と“エロ”キャプテンですね」

七海と莉里子は、キャプテンの裏の顔に唖然とする。

「私たちの業界ってさ、恋愛におおらかな人、多いよね」

七海が言うと、莉里子が「不倫も多いもんね」と同意した。

「ねえ、莉里ちゃん、そもそもキャプテンって結婚してなかったっけ?」

「元グラホの奥さんとは去年、離婚してますよ」

2人のやりとりを聞いていた早希が、言いにくそうに切り出した。


「実は今日もこの後、部屋でコーヒーを飲もうと言われていて…どうやって断ったらいいですか?」

「早希ちゃん的には、やっぱそういう対象じゃないってことよね?」

「はっきり言って…キモいです…。私、食われたくないです。でも上司ですし、断りづらくて」



早希が申し訳なさそうに言う様子がかえっておかしくて、七海と莉里子は吹き出して笑った。

「そうよねぇ、だってキャプテン42歳でしょ?」と七海。

すると、莉里子が「あのさ、実は…」と言うと、一瞬周りを気にしたから、七海と咲希のほうに顔を寄せた。

「この手の話聞くの、実は初めてじゃないんだよね。多分、彼は常習。おとなしめの若手CAに目をつけては同じことやっているはず」

「え、意外すぎる。そして、早希ちゃんと同じく、キモいんですけど」

時々一緒に飛ぶ頼りになる上司像がガラガラと音を立てて崩れていく。

「まだ誰も来てないから、早希ちゃんは店を出たほうがいいよ。みんなには、彼氏が出張で北海道に来てるみたいで、そっちに行ったって言っておいてあげる」

七海が機転をきかせ、早希を帰らせることにした。

彼氏が来ている、と言えば、さすがにキャプテンだってわかるだろう。今夜彼女は部屋に来ないと。

「七海さん、ありがとうございます!」

早希はバッグを手に立ち上がると、大急ぎで店から出ていった。

「よかった。みんなが来る前で」と言いながら、七海はスマホを手に取った。

すると、画面にLINEの通知が。

― 誰だろ?

なんとなく気になって開く。そして、七海は呆然となった。

― 新太…!?

2ヶ月前に別れた元彼からだった。

『新太:久しぶり?元気?仕事で北海道に来た。飛行機乗ったら七海のことを思い出してLINEしてみた』

七海はじっとスマホの画面を見つめていた。既読無視するつもりはないが、「私も今、北海道」と返信するのをなぜかためらっていた。

― 今さら、なんで?

入り口がガヤガヤと騒がしくなり、クルーたちが入ってきた。

「お疲れさまです!」と笑顔を向け、スマホを伏せる。

― 後で部屋に戻ってから返信しよう…。



2時間後。

七海はホテルのベッドの上で悶々と考えていた。



『元気だよ。仕事頑張ってるよ』と打ち込んだ後、それを一文字ずつ消し、今度は『フツーに元気です』と打ち直す。

― 元気は元気だから、どっちでもいっか。

すると、送ったメッセージはすぐに既読になり、ほぼ同時にLINE電話の着信音が鳴った。

― えっ?新太?どうしよう…。

一瞬迷って、七海は通話ボタンを押した。

「七海?ごめんね、急に電話して」

スマホから聞こえる新太の声に、なぜだろう、昔の知り合いみたいな懐かしさを感じる。

「どうしたの?急に」と返すが、その後の言葉が続かない。

「いや、急に七海の声が聞きたくなって…」

新太は言いづらそうに、言葉を繋いでいた。

七海は新太の声を聞きながら、フライトから帰ってきたあの日、彼の私物がすべて消えて無くなっていた部屋の匂いを思い出した。

数日分の湿気を蓄えた、暑く澱んだあの日の部屋の空気を。

「いきなりいなくなるなんて…。それも私がフライトで留守にしている間に」

声を絞り出した途端、七海の頬を涙が伝う。

「今度ゴハンでも行かない?」

― ゴハン?

あの日のつらさを思い出し、なぜか「うん」と即答できない。

「俺に言い訳の機会を与えてほしい。一度会えるかな?東京に帰ったら」

お詫びの機会ではなく、言い訳の機会、という言い方が彼らしいと七海は思った。

「月末のスケジュールみないと予定がわからないから」

端的に答えると、「そっか、そうだよな」と妙に納得したようだった。

そして、新太が「じゃ、俺その頃また電話するわ」と言った時、七海の耳に、彼の声とLINEの通知音が重なる。

「じゃあ、また」とそっけなく電話を切り、LINEのホーム画面を開く。

最上段の「夜分遅くすみません」から始まる、LINEのメッセージを見て、七海は一瞬ドキッとした。

― 小泉さん?なんの用かしら?

新太への迷いを引きずったまま、七海はスマホをじっと見つめていた。


▶前回:「こんなもの買うなんて…」ファーストクラスに乗る35歳男。CAも驚く、お金の使い方とは

▶1話目はこちら:機内で名刺をもらった28歳CA。ステイ先で連絡したら…

▶NEXT:9月29日 木曜更新予定
元恋人新太と会う約束をした七海。一方、小泉からもある誘いを受け…


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