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阿部サダヲの存在感と演技力 『アイ・アム まきもと』が起こす“奇跡”に心癒される

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©︎2022 映画『アイ・アム まきもと』製作委員会

 阿部サダヲがすごい。いや、阿部サダヲはずっとすごいのだが、特に近年は無双状態に入っているように感じる。それぐらいすごい。

参考:松下洸平演じる神代刑事がナレーションを担当 『アイ・アム まきもと』Web限定予告公開

 特に2022年から2023年にかけては、映画に3本も立て続けに主演している。それがまったくタイプの異なる役柄なのが凄まじい。

 2022年5月に公開された『死刑にいたる病』(櫛木理宇原作、白石和彌監督)で演じたのは、人当たりの良いパン屋の店長を装いながら少年少女を20人以上も拷問・殺害した稀代の連続殺人鬼・榛村大和。2023年2月に公開予定の『シャイロックの子供たち』(池井戸潤原作、本木克英監督)で演じているのは、不祥事を解決しようと奮闘するベテラン銀行員・西木雅博。サイコパスの連続殺人鬼と部下に慕われている銀行員を、それぞれ主人公として演じてしまうのは阿部サダヲぐらいなんじゃないだろうか(ただ役柄のタイプが違うだけでなく、観終わった後、「ああ、阿部サダヲを観たなぁ」と思うところが何よりすごい)。

 そして、9月30日公開の『アイ・アム まきもと』(水田伸生監督)で阿部サダヲが演じる主人公の役柄も、『死刑にいたる病』と『シャイロックの子供たち』とまったく異なる。『アイ・アム まきもと』の主人公・牧本壮は、善意とまっすぐさとはた迷惑さでできているような純朴な男なのである。

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 山形県のとある市役所で働く牧本は、まったく空気が読めず、何かを察することもできないが、自分の職務は忠実に果たす男。彼は市民福祉局の中にある「おみおくり係」をひとりで担当している。孤独死した人を無縁墓地に埋葬するのが彼の仕事だ。

 ところが、牧本はなかなか遺骨を無縁墓地に持っていかない。市役所にある彼のデスクのまわりには遺骨の入った骨箱がところ狭しと並んでいた。ちょっと尋常じゃない光景だ。いったいなぜなのか。牧本は、孤独死した人が見つかるたびに、誰にも頼まれていないのに葬儀を自費で行い、遺骨を遺族に引き取ってもらうために奔走していたのだ。警察から孤独死した人に身寄りがないと言われても、自力で遺族をなんとか探し出そうとまでしていた。

 孤独死の場合、葬儀に遺族が来ないだけでなく、遺骨さえ引き取ってもらえない場合が少なくない。火葬代を出したくないというお金の問題もあれば、親子の断絶などの遺恨の問題もある。牧本はなんとか遺族を説得しようとするが、冷たく拒絶されることが多い。

 遺体の保管期限を過ぎて刑事の神代(松下洸平)に怒鳴られながらも、牧本は自分の仕事に邁進する。すべては亡くなった人への思いからだ。自分自身も身寄りのない牧本は、無機質な部屋で孤独死した人たちの写真をスクラップするのを日課としている。一人で亡くなり、アパートの大家や近隣の人たちだけでなく、家族や親類からも厄介ごととして扱われる彼らにも、生前は一人の人間としてそれぞれの人生があった。牧本はそれを慈しんでいるのだ。牧本は孤独死があたり前になった現代社会における「おくりびと」である。

 しかし、市役所に合理化を進める新しい局長・小野口(坪倉由幸)がやってきて、非効率的な「おみおくり係」は廃止されることに。牧本は最後の仕事として、孤独死した老人・蕪木(宇崎竜童)の関係者を訪ね歩きはじめる。蕪木のかつての同僚・平光(松尾スズキ)、漁港で暮らす元恋人・みはる(宮沢りえ)と漁師たち、蕪木に命を救われた老人・槍田(國村隼)、河川敷の路上生活者たち、そして断絶していた娘の塔子(満島ひかり)。余談だが、宮沢りえが孫のいる役を演じていて、デビュー時から彼女を見ていた身としては少し感慨深くなってしまった。

 彼らのもとへ押しかけ、多少迷惑がられてもやや強引に、蕪木についての話を聞き出していく牧本。彼らの口から語られているのは、自分に正直に、そして他人のために生きた不器用な男の人生だった。観ている我々も牧本と一緒に、「孤独死した身寄りのない老人」というレッテルを貼られた無機質な存在が、実は血の通った多くの人とかかわりのある人間だったということを理解していく。やがて蕪木の人生を知った“変わりもの”の牧本自身にも変化が現れる。

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