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MVPは大谷かジャッジか……元MLB通訳が裏読みする「史上初のW規定達成」vs.「米国民の抱く特別なストーリー性」

SmartFLASH

 カギはやはり本塁打にある。日本でも最近よくいわれているのは、筋肉増強剤との兼ね合いでの議論だ。MLBで62本以上の本塁打を記録したのは、バリー・ボンズ選手、マーク・マグワイア選手、サミー・ソーサ選手の3名のみで、この3名はいずれも筋肉増強剤を使用していたという疑惑(マグワイア選手は公式に認めて謝罪した)がある。

 

 これら3名の記録は除外されるべきという意見も多く、そうなると現時点では、ロジャー・マリス選手の61本が事実上の歴代1位ということになり、それを超えればジャッジ選手が新記録という議論である。つまり、ジャッジ選手が62本塁打以上を記録すれば、それはたんにAL新記録というだけでなく、筋肉増強剤に頼らずに達成されたなかではMLB新記録ということになる。

 

 もう1点、見逃せないのは、MLBでのシーズン本塁打記録の歴史である。1998年に更新されるまでのMLB記録は、1961年のマリス選手の61本。その前の記録は、1927年のルース選手の60本。20世紀のMLBにおいては、このルース選手の記録は神聖視されていて、マリス選手が記録を破ったときは「*」印をつけられて公式記録とされなかった。

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 ルース選手が60本を打った年はチームの試合数が154試合での達成だったが、マリス選手が61本を打った年は161試合だったというのがおもな理由のひとつである。その後、1991年になってようやく公式記録と認められるまで、じつに30年間もマリス選手の記録は「*」がついていたのだ。その後「61*」というタイトルで映画化もされている。

 

 また1961年は、マリス選手の同僚であるミッキー・マントル選手も、自己最多の54本塁打を打っているのだが、マントル選手がヤンキース一筋のフランチャイズ・プレイヤーであったのに対し、マリス選手は1960年シーズンから加入した“外様”だった。メディアに対して饒舌なマントル選手に対して、寡黙なマリス選手という好対照な構図もあって、マリス選手の人気はいまひとつだったという。このあたりの事情も、公式記録として認められるまでに時間がかかった理由のひとつかもしれない。

 

 いずれにせよ、ルース選手の「60本」が神聖視され、マリス選手の「61本」も偉大な記録だと認められたなかで、筋肉増強剤を使用した選手たちが、それらを超えてしまった。神聖な記録が薬物に汚された、と考えるファンや関係者が多いことは理解できる。だからこそ今年、ジャッジ選手が61本を超えれば、今回こそが正真正銘、本物の新記録だとする意見も根強くなる。

 

 そもそもMLB、いやアメリカにおいて、ニューヨーク・ヤンキースは特別なチームといえる。そのヤンキースで活躍したルース選手の記録を、同じヤンキースのマリス選手が塗り替え、記録が薬物に汚された期間もありながら、ついに同じくヤンキースのジャッジ選手が更新する、というのは、特別なストーリー性がある。1927年以来の長い歴史を鑑みればなおさらだ。

 

 こう見てみると、MVP争いはジャッジ選手が有利かと思えるのだが、そうとも言い切れない。2021年シーズン終盤のことだったが、シカゴでの中継を聞いていたところ、2021年の成績から10%程度低下したとしても、2022年のMVPは大谷選手で決まり、と話をしていた。もちろんそのときは、ジャッジ選手が「新記録」を樹立するかもしれないとは夢にも思わなかっただろうが、エンゼルスの地元ではない都市で、解説者たちがこのような話をしていたのだから、全米の多くのファンや関係者の声を代弁していたように思う。

 

 2021年の大活躍の翌年なので、慣れてしまうかもしれないが、大谷選手が達成している数々の記録は史上初のものばかりだ。ベースボール史上初の偉大な選手であることを忘れてはいけない、と考えるファンや関係者も多いだろう。そもそも、2021年にあれだけの活躍をしたうえで、2022年も投打に一流の活躍を見せたことは、前年以上の偉業だともいえるのだ。

 

写真・USA TODAY Sports/ロイター/アフロ、AP/アフロ 文・小島一貴

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