東京2020パラリンピックから1年。パラカヌーの選手たちも、それぞれの目標に向けて漕ぎ出している。
カヌー競技(スプリント種目)のナショナルトレーニングセンターである木場潟カヌー競技場(石川県小松市)で行われた「令和4年度日本パラカヌー選手権大会」。
例年通り、日本カヌースプリント選手権大会と同時に開催された。パラカヌー大会当日の9日は、雨がパラパラと降る時間帯もあったが、多くの選手にとって漕ぎなれた競技場であり、各選手が現状を確認できる大会になった。

見据えるのは来年の世界選手権
タイムは55秒047。この日、朝一番のレースに出場し、先頭でフィニッシュした、東京パラリンピック日本代表の加治良美(女子KL3)は、パリ2024パラリンピック出場を目指している。
「52~53秒はせめて出したかった。スタートを失敗し、そこから挽回しようとピッチを上げたら、後半バテてしまった」と、反省を口にし、優勝にも喜びはなかった。

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昨年秋以降、持病の頚椎のヘルニアが悪化。シャフトを握る左の握力は15㎏程度まで落ちた。今年1月まで乗艇練習ができず、一時は「引退」の二文字も頭をよぎったという。
それでも、東京大会でパラカヌーの認知度が上がったことで、地元の人たちからの応援を実感。元学校教諭の加治は、教え子たちから「頑張って」とメッセージをもらうこともあるそうで、それらがカヌーを漕ぎ進める“追い風”になっているという。愛知の自宅からほぼ毎日、1時間以上かけて岐阜の練習場に通う加治。「伸びる要素はたくさんある。あとは自分のフィジカルを強くしていきたい」。3月の海外派遣選手選考会、そして8月に予定されている世界選手権で50秒台をマークできるよう、練習を重ねるつもりだ。

スタートを悔やむ加治とは対照的に、「いつもスタートで失敗することが多いが、今回は成功できた」と話すのは、強化指定選手の中でも伸び盛りの宮嶋志帆(女子KL2)だ。
1分08秒852は、宮嶋自身の2番目にいい記録だといい、「7月からスタート時に右足で思い切り蹴るようにしたことが大きい」とほほ笑んだ。
この1ヵ月前、カナダで行われた世界選手権に出場し、自己ベストの1分05秒80を出して9位になった。
「去年も、今年も、世界選手権に出るたびにベスト(タイム)が出ている。世界選手権でしっかり漕げばベストが出るんじゃないかと思うことができているので、自信になっていると思う」
来年12月の世界選手権(ドイツ)では1分を切りたいという宮嶋。「とにかくタイムを縮めていかないと、絶対にパラリンピックには出られないので」。そう語る瞳の奥に、強い決意がにじんでいた。