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手紙を通じて感じた「愛すべき家族を紛争で殺された者」の憤り

幻冬舎ゴールドライフオンライン

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ある日文通サイトにアクセスすると…日本と北アイルランドで育まれた、青年2人の友情物語。※本記事は、オハラ ポテト氏の小説『未来旅行記 この手紙を君へ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

第一章 巡り合い

そんな彼の趣味の一つが、読書であった。中でも彼は、感情的で、人間性を追求したヨーロッパ文学と違い、控えめで美しい日本文学に興味を抱いていた。私は自身が元気づけられた、ある日本の作家の本を、彼を元気づけたくて、国際郵便で送り続けた。

東洋の英知に彼も興味を示してくれ、毎回送る英語版の翻訳本を彼は読み続けてくれていたのである。彼の家系は敬虔(けいけん)なカトリックであった。にもかかわらず東洋思想に興味を持ち、読み続けてくれていたのである。

そもそも北アイルランド紛争は、宗教紛争といわれる。キリスト教のローマ教皇の教会に属するカトリック系住民と、英国国教会に属するプロテスタント系住民による殺し合いだった。北アイルランドは、アイルランド共和国と陸つながりであるが、イギリス領である。

もとをただせば、アイルランド島全てがイギリスの植民地であった。しかしアイルランド全島は、古くからローマカトリックが支配的であり、グレートブリテン島より、英国国教会を信仰するプロテスタント系の、いわゆるアングロサクソン人などによる侵略によって、勢力図に変化が生まれた。

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そして近代になって、今の国境ラインが敷かれた。北アイルランドだけを見れば、プロテスタント系住民の方がカトリック系住民より多い。しかしアイルランド全島で見ると、カトリック系住民の方が圧倒的に多いのである。そんな中、テロが一九九〇年代まで続いていたのである。ロバートの長兄チャールズが亡くなったのは、休戦協定が結ばれる一年前の、一九九七年のことであった。享年二十六、愛する妻に息子、家族を残して。

二〇〇三年私たちが文通を始めて間もなく、アメリカをはじめとする多国籍軍によるイラク戦争が始まった。そのことに彼は酷(ひど)く心を痛めていると、ニュースを見ながら私に手紙を書いてくれた。

「健、どのメディアもアメリカをはじめとする多国籍軍に偏った見方を示している。戦争に勝者も敗者もない。いやむしろ皆敗者だ」

ロバートは憤(いきどお)っていた。それは自分の愛すべき家族を紛争で殺された、当事者の嘆(なげ)きであった。強い憤りであった。

その手紙を読んだ私は、心に深く突き刺さっている、目に見えない矢があることを自覚できた。人間という生き物は、どこかに偏見(へんけん)という矢が突き刺さっていて、自分の都合の良いように、その矢を放った人間を蔑視(べっし)して差別化を図ろうとする。これが商品なら良い。差別化することによって、より良い商品が生産されるからである。

しかし、これが人間に対して差別化するということは、自分と自分の属するコミュニティ以外は悪であると決めつけて、激しい暴力が生まれ、戦争になることさえあるのである。

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