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平日は即レスなのに、週末は連絡がない女。実は、男に内緒であることをしていて…

東京カレンダー

― イイ男はすでに売約済み ―

婚活戦国時代の東京で、フリーの素敵な男性を捕まえるなんて、宝くじに当たるくらい難しいと言っても過言ではない。

待っているだけじゃ『イイ男』は現れない。

超絶ハイスペックな男性が寝顔に惚れ、キスで目覚めさせてくれてゴールイン…なんて、おとぎ話もいいところ。

現実は、うっかり寝ている間に誰かにさっさと取られてしまう。

これだと思う人を見つけたら、緻密な戦略を立ててでも手に入れる価値がある。たとえその人に、彼女がいても…。

◆これまでのあらすじ

大手外資IT企業に勤める凛(30)は、独身で彼女なしのイイ男がほとんど残っていないことに愕然としていた。そんな時、憧れだった悠馬に再会するが、やはり彼女がいるという。それでも惹かれてしまう凛は略奪恋愛を真剣に考え始める。

▶前回:「出会いがない」と嘆く30歳女。“イイ男がいる”と友人に意外な場所に連れて行かれ…



「涼子さん!私に、略奪恋愛の極意を教えてください!」

赤坂の『クレアバックス』。

美しい苺とシャンパンのスムージーに、感嘆のため息をもらした直後、凛は今にも土下座をしそうな勢いで涼子に言った。

先日「略奪する覚悟があるなら相談にのるわ」と涼子に言われてから、凛はずっと気になっていたのだ。

「極意?まあ私も略奪恋愛ばかりしていた訳じゃないけど、奪ったり奪われたりした経験から言うと…」

サラッと“奪われたことがある”なんて言ってのけるあたり、やはりモテる人は違う、と凛は感心する。

「極意は…“彼女持ちの男はスズメと思え”かな」
「スズメ、ですか…?」

また突拍子もないことを、と思うも、今の涼子を有難いお言葉をくれる教祖のようにしたう凛は、その真意に耳を傾けた。

「そう。スズメを捕まえたかったら、まずは餌を自分の庭にまく。でも、自分は存在を知られないように遠くで見守るの。

そしてだんだん慣れてきたら自分の近くに餌を置く。もっと慣れたら手の上に置く。そして…」

そういうと涼子は、左の手のひらを上に向け、そこに半球状にした右手をポンと素早く被せた。

「ほらね。こうやって捕まえるのよ」

ニヤリと笑う涼子に「一体何の話をしているんだ?」と凛はポカンとする。


「初めは“私はあなたに興味がありません”という体で近づくの。だけど…仕留めるときは一瞬でポンっとね」

“仕留める”という言葉が、何だかもう恋愛要素ゼロのような気がしたが、凛は涼子の言いたいことを理解した。



「だから長期戦は覚悟して。そして最高の居心地や新鮮さという“餌”を与えながら、相手に罪悪感を持たせないように“興味がありません”って顔で近づく。でも、相手を落とす時は短期間で」

涼子の話を真剣に聞いていた凛だったが、長期戦という言葉が引っかかった。

「長期戦ってどのくらいですか…?私もう30歳なので、あんまりチンタラしてられないんです」

すると、涼子はふーっと深くため息をつく。

「人にもよるけど、3ヶ月で落ちる人もいれば、2年以上かかる人もいるわ。でも、そこを覚悟できなければ、そもそも略奪恋愛なんてしない方がいい。

自分の恋愛黄金期を費やしてでも奪う価値のある人じゃなきゃ、略奪なんてするべきじゃないわ」

そう言って、涼子は優雅な所作で目の前の白ワインを一口飲む。

悠馬は自分の理想に合致しているうえに、不思議と縁を感じている。やはりどんなことをしても手に入れたいと思う凛は、覚悟を決めた。

「あの、具体的な行動はどうしたら…?」

それから凛は、涼子に教えてもらったアドバイスを細かくスマホのメモアプリに書き留め、どうやって実践しようか頭の中で何度もシミュレーションするのだった。




作戦1:女を見せないこと


「よし、悠馬さん来てる!」

午前7時。早朝だというのに、ジムはビジネスマンたちでにぎわっている。その中に、ランニングマシンに乗っている悠馬の姿を見つける。



凛は、Lululemonのジョガーパンツとタンクトップに着替え、サッと髪をポニーテールにして、さり気なく悠馬の近くで自分も汗を流す。

帰り際、凛に気がついた悠馬が声をかけてきた。

「あれ、凛ちゃんお疲れ。これから出社?」
「あ、はい。悠馬さんも?」

そうして凛は、出社までの道のりを悠馬と一緒に歩くことに成功した。

凛は、涼子に教えられた作戦の一つ目を復唱する。

「まずは、作戦1:女を見せないこと。警戒心を解くために、初めはこれを徹底する。連絡先を聞く時はさりげなく」

“女を見せない”の部分は、幸か不幸かクリアしている。先輩後輩という間柄、凛は女の部分を見せることに抵抗感があったし、悠馬も凛に、女性というよりは後輩として接していた。

そして、いまだに連絡先を聞けていなかった凛は、涼子のアドバイスどおり、相手に自分の好意を悟られない方法を考え、こう聞き出した。

「そういえば、同じサークルの恵美が今、OBの幹事をしているんですけど、悠馬さんの連絡先が分からないらしくて…。教えてもらえたら連絡しておきますよ」
「そう?助かるよ。そういえばアメリカに行ってから幹事の連絡先が分からなくなって」

あっさりとLINEや番号を教えてもらい喜んでいると、凛の右側にいた悠馬がさりげなく左側に移動した。不思議に思って彼の歩く先を見て、思わずドキッとした。



― 水たまりだ…。私が濡れないように、気遣ってくれたのかな?悠馬さんらしい…。

悠馬は昔から男女問わず優しく、細かい配慮のできる人だった。

お酒が弱い凛に、無理に飲ませようとする先輩から「飲めない子に勧めるのはルール違反です。代わりに僕が付き合いますから」と、いつも助けてくれた。

体調が悪い時や落ち込んでいる時には誰よりも早く気がつくし、みんながやりたがらないことも「自分の経験値を上げるため」と積極的に引き受けていた。

今も大学の時と変わらない彼の素敵な人柄に、凛はますますハマっていった。




作戦2:連絡はタイミングが肝


「LINEは週末・ゴールデンタイム×、通勤時間・昼休憩△、寝る前○。短文で即返信」

その日の夜、スマホのメモアプリを開き、涼子に言われた“作戦2”の内容を確認する。週末やゴールデンタイムは彼女と一緒にいる可能性があり、相手に罪悪感を与えないために絶対送ってはいけないと言っていた。

また、朝や昼休憩も仕事に集中しているだろうから、理想は寝る前がいい、というのが涼子の持論だ。

23時。悠馬は早朝から行動していることから、24時過ぎには寝ていると想定した凛は、早速LINEを送ってみた。

「恵美に悠馬さんの番号、連絡しておきました。『久しぶりに何人かで集まりまたいね』って話していました」

もし寝ていたら迷惑だろうか、と心配したが、すぐに返信が来た。

「ありがとう。集まりたいね。俺も集まれそうなやつに声かけておくよ」

デートのOKをもらった訳でもないのに、前向きな返信内容に、凛はフェイスパックをしながら小躍りした。

― やった!恵美に協力してもらった甲斐があった。これで用事もできたし連絡をとる口実になる。

凛は涼子に言われた通り、すぐに返信を送った。

「ありがとうございます。私も声かけてみますね。また具体的な日時は後日決めましょう」



“返信は少し焦らした方がいい”というのが通説だと思っていた凛だが、涼子に「小悪魔テクなんていらない。そんなの、馬の目の前にニンニクぶら下げるようなもの。それよりも最高の居心地が肝心」と言われたからだ。

独特なセンスの例えが気になったが、どうやら“興味のない相手から欲しくもない物を与えられても迷惑なだけ”ってことらしい。

この教えを忠実に守ったおかげか、その後も軽く雑談のLINEが続いた。

そして最後の「じゃあ、寝るわ。おやすみ」という文言に、凛は悠馬の彼女を疑似体験できた気がして、夜中にひとり、ニンマリとほくそ笑むのだった。


▶前回:「出会いがない」と嘆く30歳女。“イイ男がいる”と友人に意外な場所に連れて行かれ…

▶1話目はこちら:「何考えてるの!?」食事会にしれっと参加する既婚男。婚活を妨げ大迷惑なのに…

▶︎NEXT: 9月25日 日曜更新予定
悠馬と徐々に仲を深めていく凛。2人はいい雰囲気になるが、あることが起きて…。


 
   

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