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「これってさ…」新婚生活4日目の夜。夫が食卓に並んだ料理を見て放った、衝撃的な一言

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「これってさ…」新婚生活4日目の夜。夫が食卓に並んだ料理を見て放った、衝撃的な一言

『20代のうちに結婚したほうがいい』

一昔前の価値観と言われようとも、そう考える女性も少なくはない。

そんな焦りにとりつかれ、30歳目前でスピード婚をした広告デザイナー・穂波。

しかし穂波は、すぐに後悔することになる。

「なんで私、焦ってプロポーズをうけてしまったんだろう」

私にふさわしい男は、この人じゃなかった――。

◆これまでのあらすじ

穏やかで稼ぎも十分な銀行員・一樹にアプローチし、スピードプロポーズを叶えた穂波。
しかし両家顔合わせの食事会で、一樹の両親の古風な考え方に強烈な違和感を抱く。

▶前回:「なんか、冷たい?」両家顔合わせで、婚約者の両親が塩対応。その理由とは?



「はぁ…」

穂波は、今週何度目かわからないため息をつく。

あの顔合わせから、1週間が経過。

一樹の母親の言葉が、まだ頭から離れない。

“どんなときも、なにがあっても、一樹の前でだけはいつも笑顔でいてくださいね。一樹の人生を、あなたの生きがいにしてくださいね”

…一樹の母親が言うような献身的な妻になど、なれる自信はなかった。というより、なりたくもない。

『とんだ時代錯誤の夫婦』。

それが、穂波が一樹の両親に抱いた印象のすべてだった。

― 私にとっては、一樹の母親の生き方なんて、全然理想じゃない!次に一樹に会うときに、ちゃんと話そう。

じっくり話す時間をろくにとれないまま、入籍準備だけが着々と進んでいる。

新居として、彼の実家が持っているという麻布のマンションに引っ越すことも決まった。

そのとき、LINEの着信音が鳴る。一樹からだった。

「あ、もしもし?引っ越す前にさ、一度間取りを見に行こうか。明後日の土曜、あいてるよね?」

「あいてるよ」

「よかった。じゃあ、そのときに、婚姻届も書いてしまおう」

「うん」と、覇気のない声で返事をする。

しかし、この低いテンションはあるコトをきっかけに、簡単にひっくり返ったのだった──。




土曜日。

マンションを下見する日がやってきた。

「とっておきの部屋だよ」

一樹の手が、カギを回し、大きなドアを開ける。

その瞬間、穂波の心臓はドクンと跳ね上がった。

玄関から伸びる、長い廊下――。

進んでいくと、3面採光の広すぎるリビングに、大理石でできた大きなカウンターキッチンがある。

― こんなお部屋が、私の自宅になるの…!

穂波の稼ぎでは、到底手の届かないような部屋だ。



― このお部屋はまさに…私にふさわしいわ。一樹を選んで、よかった!

気づけば30歳の誕生日まで、あと5日。

もう後がないかもしれないのに、何を迷っていたのだろう。ここで一樹を手放してしまったら、悔やむ日が来るに違いない。

穂波は、部屋を見回しながら、そう確信した。

だから、ある種の覚悟とともに、一樹に寄り添う。

「私、本当にしあわせ者ね…」

「僕もだよ。…そうだ、婚姻届持ってきたから、書こう」

カウンターキッチンにまっさらな婚姻届を広げて、顔を突き合わせながら記入していく。

「よし、あとは証人の欄だけだな。提出は、穂波の誕生日当日にしよう」

こうして、よく晴れた9月半ばの休日。

穂波の30歳の誕生日当日に、港区役所に婚姻届を提出。

翌週に、新居へ引っ越した。

まさにとんとん拍子で手に入れた、新婚生活。

…しかしタイミングの悪いことに、同居開始早々、穂波の仕事が忙しくなった。

急な締め切りの案件が3件も入ってきたのだ。



― あー、もうこんな時間!

今日も夢中で残業をしていた穂波は、PCを片づけ、急いで会社を出る。

一緒に暮らし始めて、今日で4日目。連日、帰るのが21時近くになっていた。

― 一樹、ご飯を待ってくれているのに。

金銭的な負担はすべて一樹が負う代わりに、家事全般は穂波の担当。そう決めたばかりなのだ。

申し訳ない気持ちで家に着くと、時刻は21時半。

一度はキッチンに立ったものの、料理をする気力がない。そこで、冷凍庫にストックしていたパスタとスープを温めて食卓に出した。

「いただきます」
「いただきます」

2人で手を合わせ、数口パスタを頬張ったそのとき、一樹が不意に切り出した。

「あのさ…」

「なに?」

「穂波は、仕事、いつまで続けるのかな?」

「ん?…辞めてほしいの?」

「というかね、あんまり必要じゃないと思うんだよ」

「…必要じゃない?」

一樹は、いつになく優しい表情だ。その目は、お皿の上を凝視していた。


「だってさ、穂波が働くのは、コストパフォーマンス的に微妙だよね。こういうご飯にも、なるわけだし」

「こういうご飯?…すっごく美味しいよ、最近の冷凍食品」

「うん。美味しい。でも、理想的ではないよね」

「…」

「僕の家で、こういう夕食が出されたことは、一度もなかったな」

「はあ?」と言いかけたが、落ち着いて口角をあげる。

「で、でもね。私はこの時間まで働いたんだよ。もう気力も体力もない…。それに、今は特別忙しいけど、ずっとこんなに遅くなるわけでもないし」

「だから、無理せずやめていいんだよ?もう、僕の妻になったんだから」

一樹は、極めて穏やかな表情で諭すように言う。

…彼の慈悲深い表情を前に、反論する言葉がなにも出てこなかった。


翌日のランチタイム。

昨晩の違和感を聞いてもらおうと、仲良しの同僚・花苗をランチに誘った。

「聞いてよー。花苗」

「なになに、入籍早々ケンカ?」

穂波は、昨晩の一樹の発言について、一通り話した。

「どう思う?ありえなくない?」

すると花苗は、なぜか目を細める。

「うーん…。私は、うらやましいな」

「え?」

「私、いつか結婚して、相手にそう言われたら喜んで家庭に入るかも」

花苗は、オムライスを一口食べてから目をキラキラさせる。

「だって、いまどきいないよ。男性だって、結婚相手に高収入を求める時代。家庭に入れなんて、恵まれてるって」

「…そうかな」

「穂波は、これから挙式準備もあるでしょ?デザイナーとしては、実力も受賞歴もあるんだし、1回辞めてもまた簡単に復帰できると思うよ。しばらくは家庭に入ってみるのもありじゃない?」

― なるほど…?

確かに、挙式には全力を注ぎたい。

…なにしろ、自分にふさわしい最高の式を作らなくてはいけないのだから。



『恵まれている』

そんな花苗の一言が背中を押し、数日悩みに悩んだ結果、穂波は腹をくくった。

― 花苗の言うように、挙式準備に専念するのはいい選択だわ。キャリアについては、落ち着いたら考えればいい。学歴も実績もあるし、拾ってくれる会社は山ほどあるはず。

上司には引き止められたが、月末で退職させてもらうことで話が落ち着いた。



「お仕事、月末でやめるわ。今日上司にも話してきた」

夕食時に伝えると、一樹は、ほっとした様子で顔を上げる。

「よかった。これで家事に専念できるね」

「うーん。というより、結婚式の準備を始めたいの。挙式会場は何軒も回って、じっくり決めたい。一樹も休日は一緒に見学しようね?」

とにかくここからは、挙式準備に励むのだ。そう思うと、自然に気分が高揚する。

しかし一樹は、まるで予想外の反応を見せるのだった。

「挙式なら、出雲大社がいいよ」

「え?」

「両親が、出雲大社で挙げてたんだ。ほら、あの2人、松江支店で出会ってるからさ。ああ、父さんも母さんもきっと喜ぶな。うん、出雲大社にしよう」

一樹はひとりでしきりにうなずいたあと「ごちそうさま」と笑顔で立ち上がった。

そしてソファに座り、分厚いビジネス書を開きはじめる。



― 今、一樹は私の意見をなにも聞いてくれなかった。というか、そもそも、いつもあんまり私の意見を聞いてくれないかも…。

空になった一樹の食器は、箸を置いたままのかたちで残されている。

「せめてキッチンまで持っていってよ…」

小声で口に出しても、一樹はまったく聞いていない。満たされた表情で、笑みまで浮かべながら本のページをめくっている。

「…うそうそ。家事は私の仕事だもんね」

唱えるように言いながら、大きな食洗機にお皿を入れていく。

― 最悪。

喉の奥でつぶやいたとき、不意に穂波のスマホが鳴った。

その1通のLINEメッセージが、穂波の鬱屈した新婚生活を、大きく変えることになる──。


▶前回:「なんか、冷たい?」両家顔合わせで、婚約者の両親が塩対応。その理由とは?

▶1話目はこちら:スピード婚は後悔のはじまり…?30までの結婚を焦った女が落ちた罠

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思い描いていたものとは程遠い新婚生活。しかし、ある一筋の光が差す。


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