鶏の皮目を見て驚いた。このツヤ、この厚み、この弾力。触ってはいない。目にした写真から伝わってきたのだ。即座に予約し、足を運んだ。
筑波大学のお膝元、天久保に出現した滷味と四川家庭料理の店
『麻辣十食』は、筑波大学のお膝元・天久保エリアにある小体な四川料理店だ。
店内はテーブルを3~4卓並べた、簡素な食堂風の佇まい。店内の冷蔵ケースにはおつまみにぴったりの滷味(ルーウェイ:lǔwèi:複数の香辛料を入れた煮込み汁・滷水(滷汁)で食材を煮込んだもの)がずらりと並ぶ。




滷味というと鶏の足、手羽先、砂肝、鴨の首、鴨の舌、豚足、豚耳、牛ハチノス、うずらの卵、蓮根などが定番だが、この店はそれだけに留まらない。滷味の中に、他店ではあまり見ることのないスペシャルな一品があるのだ。それが冒頭でご紹介した鶏料理、麻辣鶏(マーラージー:málàjī)である。
鶏は締めたて、皮はむっちり。納得のいく麻辣鶏ができるまで
実はこの料理、店主の孫麗さんが生まれ育った四川省南部・瀘州市(ろしゅうし)古藺県(こりんけん)の郷土料理。現地では古藺麻辣鶏(古蔺麻辣鸡:グーリンマーラージー:gǔlìnmálàjī)と呼ばれ、100年以上作り継がれる名菜となっている。
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ちなみに瀘州といえば酒の街。日本の中国食材店にほぼ漏れなく並んでいる白酒『瀘州老窖(ろしゅうろうこう)』を見たことがある方もいるのではないだろうか。そして古藺は、四川省や貴州省ならどこでも見かける『郎酒』の産地だ。要は、白酒好きにはこの上なく有名な場所である。

さて、そんな故郷の麻辣鶏を日本で再現するのに、孫麗さんには外せないこだわりがあった。
まず、鶏は四川同様に締めたてがいい。身は部位それぞれに歯ごたえがあるのがよく、さらに理想をいえば、煮込んでもボロボロと崩れない、ハリのある皮を持つ鶏を使いたい。そして、日本の丸鶏というと首から上は切り落とされているのが普通だが、“おかしら”も欠かせない。
「鶏を丸ごと調理するのに、頭がなくては完成しません。日本でも、大きな鯛を丸ごと料理するのに、頭が落ちていたら残念でしょう?“おかしら付き”は縁起がいい。その考えに似ています」
