top_line

【 最新ニュースをアプリでサクサク読むなら! 】

「こんなもの買うの?」ファーストクラスに乗る35歳男。CAも驚く、お金の使い方とは

東京カレンダー

×

「こんなもの買うの?」ファーストクラスに乗る35歳男。CAも驚く、お金の使い方とは

高度1万メートルの、空の上。

今日もどこかへ向かう乗客のために、おもてなしに命をかける女がいる。

黒髪を完璧にまとめ上げ、どんな無理難題でも無条件に微笑みで返す彼女は「CA」。

制服姿の凛々しさに男性の注目を浴びがちな彼女たちも、時には恋愛に悩むこともあるのだ。

「私たちも幸せな恋愛がしたーい!」

今日も世界のどこかでCAは叫ぶ。

◆これまでのあらすじ

ニューヨークステイ中、元同僚の夫婦と食事に出かけた七海。そこで往路のファーストクラスに乗っていたちょっと変わり者の乗客・小泉と再会する。

小泉にニューヨークのアテンドを頼まれた七海だったが…。

▶前回:「え、物価が高すぎ!」寿退社しニューヨーク駐在妻になったものの、こんなはずじゃなかった…



Vol.7 ニューヨークでのお買い物


朝10時。

七海はミッドタウンにあるホテル『セントレジス・ニューヨーク』までやってきた。

― へぇ…ここ、たしか5つ星よね。

5番街に位置し、観光スポットや高級ブランド街も目と鼻の先の好立地。

仕事柄、1ヶ月の3分の1はホテルステイをしている七海だが、こういった超高級ホテルには縁がない。

かつてファーストクラスのお客様から、ニューヨークの常宿だと聞いたことがある。意外にもさほど広くないロビーラウンジの一角に立ち、周囲をぐるりと見回す。

そして、小泉に「今、ロビーに着きました」とLINEを送った。

すぐに既読になり「今降ります」と返信が来た。

数分後、カジュアルなジャケットを着た小泉が現れた。

「すみません、お待たせして」

「いえ、おはようございます」と七海は挨拶をしたあと、お互い沈黙してしまう。

― あ~どうしよう。なんか話がかみ合う気がしないんだけど…。そうだ、話に困った時は天気の話題!

お客様に声をかける時、話題がなければ天気か現地の予定について聞くことにしている。

「お天気よくて、気持ちいいですね」と七海が声をかけようとしたとき…。

七海の様子を気にすることなく、小泉が「じゃ、いきましょう」とエントランスに向かう。

「タクシーでいいですよね?」

「あ、はい!」と答えながら、七海はアテンドを引き受けたことをすでに後悔し始めていた。

― なんかこの人、せっかちで合理主義の匂いがプンプンするー。アートフェアとやらに付き合ったら、さっさと帰ろう。




「次に行きたいのは、チェルシーのギャラリー『デビット・コルダンスキー』」

小泉は、ニューヨークは初めてだというわりに、Google マップをひょいひょいと操り、次はここ、その後はここ、とフットワーク軽く七海を連れまわす。



小泉は、最初に訪れたアートフェアで3万ドルの絵画を即決購入した。

― ブラックカードで高額なアートを買っていることも驚きだけど…。

それ以上に、七海は、彼の美術品への造詣の深さに驚いていた。アートのこととなると、アーティストの背景も含め自分の思いを滑らかに語り出すのだ。

「コンセプチュアル・アートをコレクションしてるんです。アートの技巧とかはよくわからないので、技術的な習熟度よりもその作品に込められているコンセプトと、第一印象を重視して…」

一緒に回っているうちに、七海も絵や彫刻を見るのが楽しくなってきていた。

ニューヨークには過去何度も来ているが、小泉のおかげで今まで経験したことのない過ごし方ができた。

― 帰りは、MoMAに寄ってから帰ろうかな…。

「私も一度にこんなたくさんのアートを見る機会は滅多にないので楽しいです」

これは七海の本心だ。それに、今後お客様との会話する際に役立つことがあるかもしれないと七海は思っていた。

歩き回って疲れた2人は、ギャラリーを出ると近くのコーヒースタンドに入り、一息ついた。



すでに14時を過ぎている。ランチも取らず2人でアートを見続けていたことになる。

「お腹すいたな…。なにか食べましょう。どこかオススメはありますか?あまりかしこまっていないところがいいな」

「かしこまっていないところ、ですか。小泉さんって、ファーストクラスに乗っていらっしゃったのに、面白いですね」

七海がうっかり口を滑らせた。

「あ、しまった!」と思ったが、小泉も七海の言葉に気づいたようだ。

「やっぱりね。行きの飛行機のCAさんだ」

「すみません、レストランで食事の時に言うタイミングを失ってしまって…」

七海は申し訳なさそうに、言い訳めいた理由を並べる。

「いや、僕の方こそ。印象最悪の客でしょ?」と茶目っ気を帯びた笑顔で聞いてくる。

「えっと…それは…」

答えに窮する七海。

だが、この後、小泉が発した一言に、七海は撃沈する。

「大丈夫!今後は、ファーストクラスには乗りませんから」

― えっ?ファーストクラスには乗らない?サービスが気に入らなかったとか?

七海は、次の言葉が出てこない。カップを手にしたまま、黙ってうつむく。

「どうかしましたか?」と小泉が七海の様子に気づき声をかける。


「あの…申し訳ございません。やはり、私たちのサービスで何かお気に召さない点がございましたか?」

無意識に七海の“お仕事スイッチ”が入る。

だが、七海の心配をよそに、小泉はくすくすと笑っていた。

「いや、違いますよ。僕の場合、ファーストクラスに乗る意味がないってこと。CAさんのサービスがダメだったとか、そういうことじゃないです」

ファーストクラスは、場合によっては、ビジネスクラスの倍以上の料金を支払う。しかし、シートが2倍の広さになるわけでもなく、トイレのスペースも変わらない。

「ラウンジが別だったり、食事の内容がよかったり、ファーストクラスの良さは確かにあるけど、僕みたいに機内で寢るだけのタイプには、ビジネスの方がコスパはいいですよね。

それに、ビジネスクラスは、仕事したり寝てたりする人がほとんどだから静かだし」

「さすが、合理主義の男!」と七海は心の中でつぶやいたが、実際、小泉の言うとおりだ。

「ファーストクラスの場合、飛行機に乗って移動する時間自体を楽しまれる方が多いから、賑やかかもしれませんね」

海外に住む孫に会いに行く老夫婦、ハネムーンのカップル…彼らは一様に楽しそうにお酒を飲み、食事をし、CAとも積極的にコミュニケーションをとる。

「でも、CAの皆さんのおもてなしは、リゾートホテルを経営している身としては、とても勉強になりましたよ」

「ありがとうござい…」と七海が言いかけた時、小泉が言葉をかぶせそれを遮った。

「お腹すきました。とりあえずここを出ましょう」

小泉はスマホの画面を手繰りながら、すっくと立ち上がる。

「この近くに美味しいイタリアンがあるみたいだから、そこでいいですか?」

「は、はい!」

ニューヨークは初めてで、なんの下準備もせずに来たという小泉だが、七海がこの場にいる意味も虚しく、小気味良く物事を決断していく。

― なんか、落ち着かないわ…この人といると…。

そんなことを考えながら、七海は小泉の後を追った。

すると小泉がクルッと振り返り、付け足すように言ったのだ。

「七海さんが一緒だと言葉に困らないから楽ですね。食事したら、MoMAに寄ってもいいですか?」

― えっ?MoMA、寄ろうとは思っていたけれど…。

断る理由もないので、七海は瞬時に顔を上げ、笑顔を作った。

「はい、ぜひご一緒させてください」



遅い昼食のあと、2人でMoMAに立ち寄った。

小泉のあとについて絵画や彫刻を鑑賞したら19時になっていた。夕食も一緒に食べる流れになるのかな、と思った七海の予想に反し、あっけなく現地解散となる。

「ここからは歩いて戻れますから」

そう言って、小泉は軽く会釈をしホテルに戻っていく。

― 私って、本当にコロナになった“アテンドの代理”だったのね…。

少しほっとしたような寂しいような気持ちで、七海は、近くのフードトラックでハラルフードを購入し、ホテルに戻り1人で食べた。





ニューヨークから戻ったあと、七海は3日間のオフだった。

同僚の莉里子と、オフの日が重なったので、品川の『オーバカナル』でランチをすることにした。

「超合理主義!面白すぎー。でもホテルチェーンの御曹司なんですよね?」

小泉という思いがけないネタに、莉里子はひとり盛り上がっている。

「で?次の約束は?」

前のめり気味に、莉里子は聞いてくる。

七海にはそんなつもりはない。というか、そもそも小泉の方だって、七海のことを現地のアテンドくらいにしか思っていない感じだった。

「悪い人じゃないんだけど、いつも頭の中で同時進行していることがあるみたいで、なんか落ち着かなかったわ」

それに、ファーストクラスに乗り、高級ホテルに宿泊しブラックカードで高価なアートを躊躇なく買っていた小泉と自分とでは、住む世界が違うと七海は感じていた。

「確かに、超優良物件なのに、35歳でまだ独身なんですよね?なんかあるのかも」

勝手に独身と決めつけている莉里子だが、七海も「一理あるかも」とは思ってしまう。

「クレームアメリも食べちゃおうかな」

七海はメニューを手に取るが、海外フライトで失われた栄養を取り戻すべく、山盛りのシーザーサラダを平らげたばかりだ。

と、その時、テーブルに伏せた七海のスマホから振動が伝ってきた。

見ると、見覚えのない電話番号が表示されている。

― 誰だろ?

通話ボタンを押し、スマホを耳元に寄せた。

「突然のお電話で申し訳ございません。私、小泉の秘書をしております真壁と申します」

― えっ?秘書がなんの用事?

驚きを抑えつつも「お世話になっております」と返す七海だった。


▶前回:「え、物価が高すぎ!」寿退社しニューヨーク駐在妻になったものの、こんなはずじゃなかった…

▶1話目はこちら:機内で名刺をもらった28歳CA。ステイ先で連絡したら…

▶NEXT:9月22日 木曜更新予定
突然の小泉秘書からの連絡。そして、もう一人別の男性からも七海に連絡が…。


TOPICS

ランキング(エンタメ)

ジャンル