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【#3】文化放送アナウンサー西川あやのの読書コラム/そうです。私が“ご飯食べ子”です。

ホンシェルジュ

生きているうちに、あと何回食事が出来るだろう……。
人生100年時代と考えて、残り70年。70年×365日で25,550日。25,550日×3食で76,650回。朝食を摂らない日も多いし、健康上の理由で食べられなくなる日が来るかもしれないから、チャンスはこの数字より遥かに少ない訳で……。
こんな計算をしていると、一食を拘らないといけない焦りや責務を感じてきませんか??

そうです。私が“ご飯食べ子”です。

文化放送と各ネット局で放送中の「桂宮治のザブトン5」(平日17:30頃〜)では、「笑点」でもおなじみ、落語家の桂宮治師匠とご一緒しています。私を食いしん坊だと認識している宮治師匠からは、“ご飯食べ子”となんの捻りもないあだ名で呼ばれており…私がもし、ご飯食べ子なら、世の中の女性みんなご飯食べ子だと思うのですが……。

ただ、普段から周囲の人に「食べることが本当に好きだねえ」と言われることが多く、飲食店を選ぶ際や食に関する会話への前のめり感から、食への愛が滲み出てしまっているのだろうとも考えるのです。入社当時から色んなパーソナリティの方から頂戴する食いしん坊イジリも、今ではありがたく受け止めています。

自分の飽くなき食への探究心はどこからくるのでしょうか。自然に湧いてくる生きるための欲求というよりは、自分ではコントロール出来ない、どこまでも続く宇宙にようにも感じるし、目の前のことを頑張るための栄養でももちろんあるので、必要不可欠でもある。とにもかくにも食=幸福なのです。

私立の小学校に通う鍵っ子だった私は、自宅の近くに友人がいなかったのもあり、専らインドア派。留守番をしながら自分がその日食べたいものを自由気ままに食べていました。長期の休みや半ドンの登校日なんかは、家でそうめんを茹でて好みの薬味と食べていたし、袋麺のラーメンを作って卵を落としてみたり、チャーハンやオムライスなどの簡単な料理は自炊をしたりしていました。自炊以外でも近くのパン屋さんへ焼きたての時間を狙って買いに行ったり、コンビニのホットスナックを選ぶ日も。小さなこだわりを持って食を充実させていました。

成長していくにつれ食の選択肢も増え、外食・自炊共に充実の幅を拡張しながら、食べることを楽しんできました。普段から「昨日食べたあれ、美味しかったなあ」「今日の夜は何を食べようかなあ」などと考えているので、何か作品を観たり読んだりしても、食事シーンにはかなり敏感です。世間に注目されているようなジブリ作品に出てくるあの一品も、村上春樹さん作品の唾がでてくるような料理描写も大好きですが、短大生時代に出会ってビリビリきたのが、向田邦子さんのエッセイです。

著者向田 邦子 出版日

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著者ならではの視点で切り取られた日常が知識やユーモアを交えながら軽やかに語られる、向田邦子さん最後のエッセイ集です。

社会的に自立した今読み返してみると、取るに足らない他人とのコミュニケーションの様子などはだいぶ身近に感じられたし、日常で顔を出してくるちょっとした自我や自省の念に共感を覚えながらも、洗練された暮らし方に心から憧れます。

中でも特に好きなのが、

親ゆずりの〝のぼせ性〟で、それがおいしいとなると、もう毎日でも食べたい。

というこれまた洒脱な一文から始まる「食らわんか」という一編です。

海外から帰ってきたら必ずのり弁。風邪気味の時は葱雑炊。人をもてなす料理のシメは海苔吸い。など向田さんの食に対するこだわりが、ハイセンス且つ丁寧に語られます。卵焼きのレパートリーについては……

去年だっただろうか、陶芸家の浅野陽氏の「酒呑みの迷い箸」という本を読んで、もうひとつレパートリーがふえた。浅野氏のつくり方は、塩味をつけた卵を、支那鍋で、胡麻油を使って、ごく大きめの中華風のいり卵にするのである。これがおいしい。これだけで、酒のつまみになる。塩と胡麻油、出逢いの味、香りが何ともいい。黄色くサラリと揚がるところもうれしくて、私はずいぶんこの塩焼き卵に凝った。

表現はシンプルで大げさなことは何ひとつ言っていないのに、こんなに惹かれる。胡麻油が香ってくるような、ふんわり卵が口の中で解けてゆくような、この描写に心打たれ、一人暮らしを始めたばかりの短大生の私はすぐにまねをしました。中華鍋は持っていなかったのですが、テフロン加工がしてあるフライパンだと油の量を遠慮してしまうと思ったので、何故か雪平鍋で……。それはそれで美味しかったけれど、実際の味覚と想像の味はやはり違うなあと思い……。この文章を読んだときの方が“美味しい”を感じたような気がする。それだけ向田邦子さんの言葉選びが素晴らしいのですね。だからこそ本の中の料理描写はいい。現実を言葉が超えてくる。

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