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「なんか、冷たい?」両家顔合わせで、婚約者の両親が塩対応。その理由とは?

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「なんか、冷たい?」両家顔合わせで、婚約者の両親が塩対応。その理由とは?

『20代のうちに結婚したほうがいい』

一昔前の価値観と言われようとも、そう考える女性も少なくはない。

そんな焦りにとりつかれ、30歳目前でスピード婚をした広告デザイナー・穂波。

しかし穂波は、すぐに後悔することになる。

「なんで私、焦ってプロポーズをうけてしまったんだろう」

私にふさわしい男は、この人じゃなかった――。

▶前回:スピード婚は後悔のはじまり…?30までの結婚を焦った女が落ちた罠



「楽しみだわ。一樹のご両親にお会いするの」

穂波は、手元の小さなミラーで化粧をチェックしながら、微笑んだ。

「…緊張してないんだ?僕は、緊張しすぎて指の感覚がなくなってきたよ」

「一樹は、こういうの苦手そうだもんね」

今日は、両家顔合わせ。

会場に選んだのは、目黒雅叙園だ。

ロビーには、同じく今日顔合わせをすると思われる振袖姿の女性が、ほかにも数人いた。

― 私が、圧倒的に目立ってるな。

穂波はひとり、得意げな表情を浮かべる。

深紅の振袖に、古風なヘアスタイル、輝く白肌。完璧だ。

― きっと一樹のご両親は驚くわね。

息子がこんな綺麗な女を連れてきたら、一樹の両親はさぞ喜ぶに違いない。

考えるだけで、気分が高揚した。

凛とした姿勢で待っていると、向こうから、自分の両親が歩いてくるのが見えた。

「あ、私の両親、来たわ」

「ほんと?僕の両親も、そこに」

待ち合わせ時間10分前の、11時50分。

穂波の両親と一樹の両親が、偶然同じタイミングで近づいてきた。

「こんにちは」

一樹が、穂波の両親にかけよって挨拶をする。

それが済むのを見届けてから、穂波も、一樹の両親に歩み寄った。


「はじめまして、穂波と申します。今日はよろしくお願い致します」

うやうやしく、深く一礼する。

「どうも、はじめまして」
「はじめまして。よろしく」

一樹の両親はそう言ったきり、スッと黙った。

― え?なんか、冷たくない?

横にいる穂波の両親は、一樹にまだ愛想を振りまき続けているというのに…。

思わぬ塩対応に、出鼻をくじかれたような気持ちだ。

驚いた穂波は、一樹に向かって「お店に行きましょうか」と声をかけた。



冷たくて、お堅い夫婦。

それが、穂波が抱いた、一樹の両親への第一印象だ。

しかしその印象は『渡風亭』の個室で乾杯をし、ひと通りの自己紹介が済んだころ、変わった。

一樹の両親は、意外にもよくしゃべる。

「一樹は小さい頃から、英語の発音がよくて…」

「剣道部時代は、関東でも名が通る存在だったんですよ」

一樹の幼い頃の話や、剣道部時代の話、大学受験や就活の話。順を追って丁寧に、臨場感たっぷりに語る。

穂波の父親は、「それは立派ですね」だの「さすがですな」だのテンポよく相槌を打つ。

大手電機メーカーで営業をしているだけあって、持ち上げ方がうまい。

一樹の両親も、ご機嫌だ。

― 全然、会話に入る隙がないわ。

そこで穂波は、会話が途切れたタイミングで、ここぞとばかりに口を開いた。

「美味しいですね、この和え物」

穂波は、一樹の両親に笑いかけたのだ。

しかし2人は小さくうなずいて、ただ咀嚼を続けた。

― どういうこと?一樹の話ばっかりで、私には冷たい!

そんな穂波の気持ちがわかったのか、穂波の父親が話題を振ってくれた。

「穂波は、高校時代は吹奏楽部だったよな」

パパナイス、と思いながら、穂波は笑顔を振りまく。

「はい。強豪というわけではないのですが、吹奏楽界では有名な学校で。私は、パーカッションをしていました」

しかし一樹の父親は「そうでしたか」と真顔で言うだけ。横にいる一樹の母親も、能面のように小さな笑みをたたえているだけだ。

会話にすらならない。



― なんか、このご両親と話していると、思い出す…。

蘇ったのは、一樹と最初に出会った日のこと。

あの日の一樹も、何を話しかけても「なるほど」などと言うだけだった。

自分に興味を持っていなそうな感じが、よく似ている。

その後も一樹の話ばかりが続き、指輪のお披露目を終えた頃には、どっと疲れがたまっていた。

― なんか、しんどい。

大好きな蟹料理が出されても、心から楽しめない。

― 普通、私の話も聞きたがるわよね?

不思議になって、一樹の母親の方を見る。

すると、タイミング悪くばっちり目が合ってしまった。

「…穂波さん?」

「…はい」

「わたくしから、ひとつだけ、よろしいですか」


一樹の母親は、上品な薄い笑みを浮かべている。

「一樹からね、穂波さんは献身的で、素晴らしいお嬢さんだと聞いております。一樹のこと、よろしくお願いしますね」

「はい。もちろんです」

「よかったわ。どんなときも、なにがあっても、一樹の前でだけはいつも笑顔でいてくださいね。一樹の人生を、あなたの生きがいにしてくださいね」

― なにがあっても、笑顔で…?一樹の人生が、生きがい?

なんだか、あまりに古風ではないか。

― いつの時代だと思ってるのよ。私には私の人生が…。

違和感は、次第に穂波の中で納得感に変わり、怒りになった。

わかったのだ。

一樹の両親は、古い考えの人だ。

だから、夫婦の主役は一樹で、穂波は脇役だと思っている。

このような場では、一樹の話ばかりするのが当然だと思っているのだ。

「私も、この人を3歩後ろから支えて参りましたのよ」

「はあ…」

思わず顔が歪むが、ここで文句を言うわけにもいかない。

不服ではあったが、笑顔でうなずくしかなかった。



食事を終えると、穂波は一樹に目配せし会計を済ませてもらい、互いの両親をタクシー乗り場まで見送る。

表面では愛想を振りまくが、内心怒り心頭だ。

それぞれの両親を乗せた2台のタクシーが去っていくやいなや、穂波は口を開いた。

「ねえ、ちょっとびっくりしたわ」

「え?」

「一樹のご両親、なんか…」

そこまで言ったとき、一樹は穂波の言葉をさえぎって、嬉しそうに言う。

「いい親でしょう?僕の自慢なんだ。理想の夫婦像でもある」

「…へ?」

「はは、こうやって言葉にすると恥ずかしいね」

うつむいて照れている一樹を、白い目で見ることしかできなかった。

…穂波にとっては、あんな古風な夫婦、理想でもなんでもない。

「穂波は、母さんにちょっと似てるところがあるでしょう?実は、それが結婚を決めた理由なんだ」

「似てる?どこが」

「いつも笑顔で、献身的なところ」

― 確かに、プロポーズされたくて、一樹の理想を演じたけど…。

あれはただ、プロポーズのために必死で取り繕っていただけ。穂波は実際には、献身的な人間ではない。

3歩下がって誰かを支えるだけの人生なんて、まっぴらごめんだ。

「さあ、帰ろうか」

「うん…」

しぶしぶとタクシーに乗り込むが、足はずっしり重たい。数時間前とはまるで違う、沈んだ気分だ。



上質なスーツの膝元に揃えられた、一樹の手。

― この手がシワシワになるまで支える…?どうしよう、想像がつかない!

小さくため息をもらすと、一樹が顔を覗き込んでくる。

「どうしたの?穂波、しんどそう」

― ちょっとくらい察してよ。

眉間にシワをよせながら無言で見つめる。

一樹はしばらく考え込んだあと、中指でメガネの位置を直してから微笑んだ。

「ああ、振袖か。しんどいよね。重いし、暑いんじゃない?」

一樹は、タクシーの運転手に空調の温度を下げるようにお願いをした。

それから、おどおどしながら背中をさすってくる。

その優しさに、泣きそうになった。

― ああ…。一樹にも、ご両親にも、きっと悪気はないんだわ。

穂波を傷つけようとして、ああいう態度をとったわけではないのだろう。

ただ、悪気なく、古い理想を持っているのだ。

― そんなの、一番たちがわるいわ。

怒りのやりどころを失った穂波は、なんだか疲れてしまって、一樹とは反対のドア側にもたれかかった。

沈んだ気分を元に戻したくて、先ほどお披露目をしたばかりのハリー・ウィンストンの指輪を見つめる。

― 大丈夫よ。私は強運なんだから、絶対にこの結婚は正しいわ。

しかし穂波は、こんなふうに自分を無理やり納得させたことを、後悔することになる。

それは、入籍後。新居に引っ越してから4日目の、夕食時のことだった――。


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新婚生活早々、食事中の一樹の発言に耳を疑う


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