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「ブラックカード使い放題だったのに…」セレブ妻が離婚で転落。再起をかけてあることに挑戦するが…

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「ブラックカード使い放題だったのに…」セレブ妻が離婚で転落。再起をかけてあることに挑戦するが…

「マイ・キューティー」

13歳上の夫は、美しい妻のことを、そう呼んでいた。

タワマン最上階の自宅、使い放題のブラックカードに際限のないプレゼント…。

溺愛され、何不自由ない生活を保障されたセレブ妻ライフ。

だが、夫の“裏切り”で人生は一変。

妻は、再起をかけて立ち上がるが…?

◆これまでのあらすじ

舞子に後押しされて、SNSブランディングのビジネスを始めた里香。そんな時、モサ男こと翔と遭遇し、里香はあることを願い出るが…?

▶前回:38歳弁護士とのマッチング中に…。バツイチ女の脳内に浮かんできた、ヤバい妄想



「彼氏ができました!里香さんのおかげです」

深々と頭を下げた女は、顔を上げるなり、とびきりの笑顔を見せた。最近ホワイトニングしたらしい歯が白く光る。

「里香さんのこと、友達に紹介したいんですけどいいですか?」

この女性も、たしか里香のクライアントからの紹介だ。

「ええ、もちろん。私でよければ」

こんなやり取りも、今週に入って3回目だ。舞子のSNS代行を手伝ったのをきっかけに、あれよあれよという間にクライアントが増えていき、これまでのクライアント数は100人を超える。

巷では、里香のコンサルは“彼氏ができる”と評判らしく、無事に彼氏ができたクライアントが、ありがたいことに次のクライアントを紹介してくれるのだ。

「ありがとうございます!友人の名前ですが…」

説明を始めた女性を前に、里香はコーヒーカップに手をかけながら、ふと首をかしげる。

― 私、なんでこんなことになってるんだろ。

ここ4ヶ月以上、ほとんど休んでいないくらい働き詰めだ。あれだけ前のめりだった松木とは、里香の忙しさを理由に自然消滅してしまった。

仕事など二の次。常に恋愛に生きてきた里香にとっては、かなり異常事態である。我ながら、状況を理解できていない。

「心ばかりですが、よかったらどうぞ」

女の声で、ハッと我に返る。差し出された『オーボンヴュータン』の焼き菓子を受け取りながら、里香は、あの男のことを思い出していた。


冷静な男


遡ること半年前。

「一生のお願い。私のビジネスの手伝い、してくれませんか?」

モサ男こと、翔はポカンとしたまま、里香を見つめた。普段のぶっきらぼうで無表情な彼からは想像できないほど、こう言っちゃ悪いが、アホ面だ。

普段とのギャップにくすっと笑ってしまうと、翔がギロリと睨んだ。



「退職したあと、ビジネス始めるんですね。どんな?」

翔の反応に、彼がこの話に興味を持ったのだと勘違いした里香は、調子に乗ってベラベラと話し出す。

「ビジネスなんて、そんな立派なものじゃないんですけどね。友人の婚活の相談に乗ってたのをきっかけに、その延長でSNSコンサルティング、代行を始めたんです。

そうしたらあっという間に友人に彼氏ができて、気をよくした友人から、何人かお客さんを紹介してもらって。その中のお客様のひとりから“ホームページはないのか?”って聞かれてちょうど頭を悩ませていたところなの。で、お願いできたらと思ったんです」

すべて説明してやると、翔は冷たく言った。

「僕は、経緯など聞いていません。どんなビジネスをするのか聞いたんです」

「親切に教えてあげたのに、何よ。どんなビジネスって、聞けばわかるでしょう」

物わかりの悪い翔にイラッとしながら反抗的な態度をとると、彼は平然とこう言った。

「全然わかりません。ですから、何のビジネスか聞いてるんです。ひと言でいうと、何ですか?」

「もう、知らないわよっ!」

ホームページを作ってくれそうもない。これ以上話しても無駄だと判断した里香は、勢いよく立ち上がった。



「そうやって感情的になるの、やめた方がいいですよ」

「えっ…?」

一歩踏み出そうと出していた足を、とっさに引っ込める。動揺する里香の様子に構うことなく、翔は淡々と話し始めた。

「感情的になっても、何も解決しません。話は戻りますが、自分で何をするかもわかっていない人のホームページなんて作れないですよ。ある程度はご自身で決めてもらって、指示してもらわないと困ります」

すると翔は、自分のノートPCを開いて何かを準備し始めた。

「もしかして、手伝ってくれるの…?」

淡い期待を抱きながら問うと、翔は3秒ほど里香をじっと見つめて、小さくうなずいた。

「もちろん報酬はいただきますが。僕のポートフォリオにもなるので」

「ポートフォリオって何…?って、ごめんなさい。私、今すぐにはお金は用意できないんですけど」

キーボードを打っていた翔の手が、ぴたりと止まる。

「報酬なし?」

目を大きく見開いた翔は、理解不能だという視線を里香に向けた。

それも無理ないだろう。報酬なしで仕事を引き受けてくれるなんて、そんな人間がどれほどいるだろうか。思いつきで依頼してしまった里香だが、ダメもとで翔に懇願する。

「出世払いってことでどう!?ご存じの通り、私、あなたの会社はあと2週間で退職するし、あとがないのよ」

翔は黙ったまま、里香をじっと見つめる。

断られて当然、無理な話だ。諦めかけた、そのときだった。


奇妙な関係


「わかりました」

― へっ!?

「わかりました」が、何を意味しているのかわからない。里香が翔の様子をうかがっていると、彼はノートPCの画面をくるりとこちらに向けた。

「ヒアリングしていきますから、答えてください。まず…」

一体何が始まったというのだ。里香が慌てふためくと、彼は「やめるんですか?」と、冷たく言い放った。

そこでようやく、翔がホームページ制作に取り掛かろうとしていることに気づいた。

「作ってくれるの?」

おそるおそる、でも確信を持ちながら尋ねてみると、翔は「はい」と答えたあと、こう続けた。

「僕も将来的に独立を考えているので、実験台になってもらえるなら、Win-Winですし」

「実験台って、相変わらず失礼ね。もう少し言葉を選びなさいよっ!」

こうして里香は、SNSコンサルティング、ブランディングのビジネスを本格的に始めたのだった。





グダグダのスタートから、半年後。

『ル・パン・コティディアン』のテラス席。

週末の朝、軽く打ち合わせをしようと集まったものの、気づけば11時だ。

翔は意外にも積極的に手伝ってくれていて、彼の仕事終わりや休日にこうして打ち合わせを重ねている。

積極的な姿勢から、「もしかして私のことが好きなのかも?」などと勘違いしたこともあったが、日々淡々と業務をこなしているあたり、彼は里香をただの実験台としか思っていないようだ。

そのため、打ち合わせが終わればその場で終了。夕食に誘われたこともない。そのため、翔がどこに住んでいるかもいまだ知らないくらいだ。

ただ、とにかく仕事はできるので頼りにしている。奇妙で健全な関係なのだ。

「あー、もう頭パンクしそう!ちょっと休憩。糖分補給しないとやってられないわ」

里香がコーヒーをすすりながら、本日2個目のパンオショコラをかじっていると、翔がパソコンの画面から目も離さずに淡々と告げた。

「15分前にも同じこと言ってますけど。ほんと、集中力ないですね」

「もう、いちいちうるさいわね!私だって頑張ってるのよ。クライアントだってこんなに増えたの、知ってるでしょ!?あなたと違って、燃費も要領も頭も良くないの」

鼻息をフンフンさせていると、翔が何かを思い出したように、「そういえば」と、切り出した。

「これ、参加してみたらどうですか」



“SNSを活用したPR業務 公募型プロポーザル”

それは、里香の出身地である神奈川の自治体が募集しているコンペだった。

「何よ、これ」

意図することがわからず、里香が首をかしげると、翔が顔をしかめた。

「だから、言った通りです。参加してみたらどうですかと」

ざっと書類に目を通した里香だが、お役所資料のような堅いものは得意ではない。顔を上げて変な声を出した。

「うげっ、私にこんなことできるわけないじゃない。相手は、お堅い、お堅い自治体でしょう?私みたいなのが受け入れられるはずないのよ」

突っぱねると、翔がジロっと睨んだ。

「だからやるんですよ。里香さんのビジネスは、傍から見て、正直よくわからない。SNSブランディングとかコンサルティングって、眉唾物だと思われがちなんです。

だから、“きちんとしたお仕事”をすることで、箔を付ける必要がある。意外かもしれませんが、自治体のコンペは、大企業や名の知れた人物が有利というわけではないんです。プロポーザル次第では、我々にもチャンスがある」

「マ、マユツバ…!?いつも通り失礼なのよ!」

里香がたまらず身を乗り出して反応すると、翔は書類をすっと差し出した。

「…どうしますか?」

「わかったわよ、やるわよ!こうなったら勝ち取ってやるわよ!」

挑発に乗せられた里香を、翔は鼻でフッと笑った。


▶前回:38歳弁護士とのマッチング中に…。バツイチ女の脳内に浮かんできた、ヤバい妄想

▶1話目はこちら:「噂通り、頭が悪いんですね」突然家に来た夫の浮気相手に挑発された妻は…

▶︎Next:9月15日 木曜更新予定
次週、最終回。コンペに向けて本気になる里香。そこで、最悪な展開が発生する。なんとあの男が現れる…!?


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