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「え、物価が高すぎ!」寿退社しニューヨーク駐在妻になったものの、こんなはずじゃなかった…

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「え、物価が高すぎ!」寿退社しニューヨーク駐在妻になったものの、こんなはずじゃなかった…

高度1万メートルの、空の上。

今日もどこかへ向かう乗客のために、おもてなしに命をかける女がいる。

黒髪を完璧にまとめ上げ、どんな無理難題でも無条件に微笑みで返す彼女は「CA」。

制服姿の凛々しさに男性の注目を浴びがちな彼女たちも、時には恋愛に悩むこともあるのだ。

「私たちも幸せな恋愛がしたーい!」

今日も世界のどこかでCAは叫ぶ。

◆これまでのあらすじ

ファーストクラスに乗務した七海。機内サービスを拒否する小泉という乗客がいた。片道100万超えの運賃を払って寝るだけって、この人何者?と不思議に思う七海。

そして、ニューヨークに到着し…。

▶前回:「え、そんなことで離婚したの?」35歳女が浮気よりも許せなかった“夫の生活習慣”とは

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Vol.6 ニューヨークで再会


ニューヨーク16時。

スマホのアラームで、七海は仮眠から目を覚ました。

11時ごろにJFK空港に到着し、デブリーフィング(振り返り)をしてから、シャトルバスでマンハッタンにあるホテルに移動。

梨奈とホテルの近所にあったデリで軽食を食べて、部屋に戻ったあと、シニヨンを解くこともせず、七海はベッドに突っ伏していた。

― 出かける前にシャワー浴びなくちゃ。

入り口に置きっぱなしになっていたリモワのスーツケースから、化粧ポーチや着替えを取り出す。

ようやくシニヨンを解き、髪にブラシを入れる。

ケープのスーパーハードで固めた黒髪は、まだシニヨンの形状を記憶してうねっている。

― あぁ、毛穴にケープが詰まって苦しい…。

CAは体以上に頭皮を酷使する職業だ、と七海は思っている。

その時、LINEの通知音が鳴り七海はスマホをチェックする。

『瑞穂:今日、現地待ち合わせでいい?18時30分にレストラン予約したよ』

瑞穂は、CAの同期で、3年前に6歳上のメーカー勤務の男性と結婚を機に退職。今はマンハッタン在住の駐在妻だ。

『七海:もちろん!会うの久しぶりすぎて楽しみだよー』

七海が返信すると、スタンプと共にGoogleマップのURLが送られてきた。

― やったー!瑞穂、オイスターバーを予約してくれたんだ。




18時30分に『Grand Central Oyster Bar』に着くと、瑞穂はすでにバーカウンターでシャンパングラスを傾けていた。

ここはかつて夏休みを利用して2人で旅行に来た時に入った思い出のレストランだ。

今夜も新鮮な牡蠣を求め、観光客やニューヨーカーたちで賑わっている。

「瑞穂ってば、すっかりアメリカに染まったね」

明るいブラウンにカラーリングされた髪、よく日焼けした肌…。2年ぶりに会う瑞穂に、かつて日系航空会社に勤めていた時の、大和撫子的な印象はもはやない。



「健康的、と言ってよ」と笑って髪をかき上げる薬指には、結婚指輪がきらりと光っている。

「夫の正司が、もう少ししたら合流するけどいい?」

「もちろん!結婚式の時に会ったきりだし、楽しみ!」

七海も同じシャンパンをオーダーし、喉を潤す。明日は特に予定を入れていないから、心置きなく楽しむ予定だ。

「ところで、どう?優雅な駐在妻の生活は?毎日何して過ごしているの?」

七海が興味津々に聞くと、瑞穂は「それがさ…」と視線を落とした。

「思っていた以上に、地味で暇でやることないのよ…」

駐在妻のコミュニティーはあるが、一昨年は、コロナでほとんど家から出られなかったし、少し収まったと思ったら、夫は仕事でほとんど家にいないと瑞穂がボヤく。

「最近、物価の上がり方が尋常じゃなくてね、ちょっと友達とランチをしようものなら、1万円くらいいっちゃう。

友達と会う時も、誰かの家でポットラックばっかり。だから、今日の外食は、久しぶりだからめちゃくちゃ楽しみにしてたの」



久々に会う古くからの友達に、まるで溜まっていた鬱憤を晴らすかのように、瑞穂の話は止まらない。

「それにさ。夫が子どもが欲しいってうるさくて」

「瑞穂は欲しくないの?」

七海が聞くと、瑞穂は「そういうわけでもないんだけど」と口を濁した。

瑞穂によると、CAという大好きだった仕事を辞め、彼についてアメリカにやってきた。

ニューヨークの空気や人は好きだけど、駐在妻として入国しているからビザの都合上仕事もできず、かといって、習い事に精を出すという気分でもない。

「時間を持て余しているなら、子どもでも産んだらみたいに言われたのが、私的にちょっと…」

七海は、瑞穂が何を言いたいのかわかったような気がした。

「仕事を辞めた今、何のために自分はアメリカにいるんだろう?って瑞穂は思っちゃったんだよね?」

「そう!子どもを産むために結婚したわけじゃないとか、色々考えちゃってさ。彼のことは嫌いじゃないのに」

瑞穂は、ふとスマホの画面を確認する。

「もう少しで夫が着くみたい。来たら、メインダインニングに移ろうか」



20分後。

「瑞穂、遅れてごめん。七海ちゃん、久しぶり」

背後から声をかけられ振り向くと、瑞穂の夫、正司がスーツ姿で立っていた。

「お久しぶりです!」

「せっかくの機会だからニューヨーク楽しんでね」

そして、メインダイニングに移るために立ち上がった時、正司が入り口に向かって手を上げた。

「あ、来た来た。1人僕の友達を呼んでるけどいい?」

その場に現れた人物に七海は一瞬フリーズする。

― えっ?うそ!

「初めまして。小泉です」

カジュアルなジャケット姿で現れた長身、細身の男性は、紛れもなくあの、ファーストクラスにいた小泉だ。


「こんばんは。正司の妻・瑞穂です。こちらは、友人の七海です」

瑞穂に紹介され、「こんばんは」と挨拶するが、向こうは、自分が搭乗していた飛行機のCAだとは気づいていない様子だ。

― 自分から言うべき?それとも向こうが気づくまでそっとしておく?

普通の乗客なら「昼間乗ってらっしゃいましたよね?」などと言うのだが、七海は、彼のぶっきらぼうな態度を思い出し、今回は向こうが気づくまで言わないことにした。

席に着くと、正司が白ワインをボトルでオーダーした。

「まずは、生牡蠣じゃない?あとマンハッタンクラムチャウダー。ジャンボシュリンプカクテルも!七海何か食べたいの、ある?」

「な、何でもいい!」

無意識に2オクターブは高い声が飛び出してきて、七海は恥ずかしくなる。



― ヤバい。食事に集中できないから、自分から言おう。

七海が決心し「あの…」と切り出そうとした時、正司が「そういえば」と切り出した。

「小泉、お前の目の前にいる七海ちゃんは、CAなんだ。今日NYに到着したばかり」

すると、小泉は涼しげな目元をわずかに緩ませた。

「そうなんだ。じゃあ、ニューヨークは詳しいですね。僕は初めてなんです」

― え?気づいてない!

ワインを飲んでいるせいか、小泉にキャビンで見せたような気難しい雰囲気はない。

それならこのまま気づかないふりを貫くのがお互いのためかな、と七海は思った。

「小泉さんは、ニューヨークへはお仕事ですか?」

瑞穂が聞くと「いや、僕の仕事、そんな国際的な仕事じゃないから」と言いながら、生牡蠣を1つ口に滑り込ませた。

横から正司が口をはさむ。

「小泉の実家は、ホテル経営をしていて、彼自身も箱根、長野、別府とかあちこちにラグジュアリーホテルを持ってるんだよ」

― えっ?名簿にはITって書いてあったけど?

七海は心の中で突っ込みながら、大きな海老のカクテルを口に入れた。すると、正司が心の声を聞いたかのように説明を始める。

「もともとはホテルの予約とか顧客名簿を管理するIT系の会社だったんだけど、宿を1つプロデュースしてみたら、話題になって、どんどん増えたんだよな?」

「まぁ…そうだね」と小泉がぶっきらぼうに答える。

「で、新しくオープンする宿に飾るアートを探すために、アートフェアに行く予定で来たんだけど、コーディネーターが昨日コロナに感染しちゃってさ」

小泉はニューヨークが初めてで、英語も日常会話程度。困ったな…と思った矢先、青山学院大学時代の友人である正司がニューヨークにいることを思い出し連絡をとったそうだ。

「ね、七海ちゃん、明日1日空いてるんでしょ?小泉と一緒にアートフェア行ってやってよ」

正司が、想定外の提案をした。

「わ、私ですか?」

また、オクターブ高い素っ頓狂な声が出てしまった。

― む、無理!だって、お客さまだし。それにむしろ人として苦手なタイプだし…。

「と、言われましても…かえってご迷惑かと…」と七海は口ごもる。

すると、小泉がおかしそうに笑いながら言った。



「あの、別に高度な通訳が必要なわけじゃないですし、嫌じゃなければ、チェルシー地区のギャラリーやアートフェアに一緒に行ってもらえませんか?」

― え?笑った?なにこの人。

特に明日は予定もないし、断る理由は見つからない。

「あの、私でよければ…」七海は答えると、グラスに残った白ワインを飲み干した。


▶前回:「え、そんなことで離婚したの?」35歳女が浮気よりも許せなかった“夫の生活習慣”とは

▶1話目はこちら:機内で名刺をもらった28歳CA。ステイ先で連絡したら…

▶NEXT:9月15日 木曜更新予定
ファーストクラスの男、小泉とチェルシー地区に出かけた七海。彼って本当はどんな人?七海の好奇心は膨らみ…


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