★福建の旅前編「海鮮が呼んでいる!長崎ちゃんぽんのルーツに出会う福建省福清市」から読む方はこちらからどうぞ。
中国料理で、圧倒的に贅を尽くしたスープといえば佛跳墻(ぶっちょうしょう|fótiàoqiáng|フォーティャオチァン ※佛跳牆の表記もあり)でしょう。
丸みを帯びた壺の中に、干し鮑、ふかひれ、なまこ、魚の浮袋、干し貝柱などの高級乾物がぎっしり。仕込みには何日もかかり、長時間かけて山海の美味から食材のエキスを抽出したスープは、幾重にも旨みが折り重なる贅沢なうまみに満ちています。食べることが好きな方なら、きっと一度は味わってみたい料理ではないでしょうか。
佛跳墻の器。中華料理人の視点からみても、こうした料理には憧れがあるものです。事実、僕が20代の頃は、乾物がきちんと扱えるようになるのが夢でした。なぜなら、見習いの料理人が高級な乾物を扱える機会はなく、仕込みから調理まで、料理長がやることを指をくわえて見ているだけだったからです。
振り返ると、“乾物仕事”に魅せられ始めたのは約20年前。都心の高級ホテルに転職し、乾物の戻し作業を担当させてもらえるようになったことで、僕はその世界の扉を開きました。
広告の後にも続きます
現場で学んだのは、ふかひれや干し鮑、なまこなどにも沢山の種類があり、戻し方にも様々な方法があるということ。加えて、目利きも非常に重要であることを当時の料理長から教えていただきました。
乾物は自然界にあるものなので、1つ1つに個性があります。実際に扱ってみると、それぞれ戻り方も違えば、食感も異なり、心を込めて的確に戻し作業を行えば、その気持ちに応えるかのように、立派に戻ってくれるのが“乾物仕事”の醍醐味。
やるほどにに魅せられ、産地を訪れたり、専門書などを読んで調べているうちに、これはなんとしても食べてみたい…!と思う料理がありました。それが冒頭に申し上げた乾物のスープ、佛跳墻(ぶっちょうしょう|fótiàoqiáng)」。
現在は中国全土を代表する料理となっていますが、そのルーツは福建省。なかでも発祥の店として名を馳せているのが、今回ご紹介する『聚春园(聚春園|じゅしゅんえん|jùchūnyuán)』です。
100年続く名菜!紹興出身の女性と鄭春発の手腕で生まれた、佛跳墻誕生ストーリー
今回の福建旅行の目玉でもある『聚春園』は、福建省の省都・福州市にある老舗のレストラン。その近くには三坊七巷(サンファンチーシァン|sānfāngqīxiàng)という古い街並みを残した観光地がありますが、こここそが福州の歴史と文化発祥の地とされています。
福州市の三坊七巷(サンファンチーシァン)。佛跳墻の誕生のエピソードには諸説ありますが、かつて街の北側には楊橋巷官銀局(貨幣鋳造の金融機関)があり、清朝(1644-1912年)末期、ここに勤める役人が、布政司長官(現在の省のトップに匹敵する地方官僚)の周連を自宅でもてなしたのがきっかけといわれています。