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仲良し夫婦を装っているが、裏はドロドロ。「おままごとみたいな家族」を続ける30歳男の本音

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仲良し夫婦を装っているが、裏はドロドロ。「おままごとみたいな家族」を続ける30歳男の本音

雑誌から抜け出したかのような、美男美女の夫婦。

豪邸に住み、家事や子育てはプロであるハウスキーパーに任せ、夫婦だけのプライベートタイムを満喫する。

世間は、華やかな暮らしを送るふたりを「プロ夫婦」と形容し、羨望のまなざしを送っている。

法律上の契約を不要と語り、「事実婚」というスタイルをとる、ふたりの行く末とは?

◆これまでのあらすじ

事実婚夫婦の慎一と美加。表向きは幸せな暮らしをしていたふたりだったが、美加は慎一ではない男の子どもを妊娠してしまう。お腹の子どもは、前夫との子ではないかと疑念を抱いた慎一は、彼女を問い詰めたが…。

▶前回:「妻のことを嫌いになりたい…」ホテルでの食事中、夫が密かに考えていたこととは



Vol.9 地獄の三者会談


「わかっちゃったか…。そう、お腹の子の父親は、前夫よ」

横浜の『ザ・カハラホテル&スイート』の一室。あっけらかんとした笑顔で、美加は答えた。

慎一が顔を背けると「黙っていたのは慎一を気遣っていたからだ」と美加は訴えた。

「だって、慎ちゃん、あのとき逗子で失踪したでしょ。これ以上刺激したらパニックになると思って、話すタイミングを探していたの」

慎一は、妙に納得してしまう。なぜなら、今まさに慎一はパニック状態になっているからだ。

「…か、彼とは、ずっと会っていたの?」

「たまにね。どうしても、離れられなくて…。これは理屈じゃ説明できない感情なの。彼じゃなきゃ私は…」

「わかったよ!」

その先を聞きたくない慎一は、遮って答えた。強めの口調だったが怒っているわけではない。

なぜなら…。


― 僕も、彼女を嫌いになれないから。

この状況ならば、誰から見ても美加が最低な女に映るだろう。だが、それでも慎一は美加に惹かれてしまう自分を感じていた。

それは、理屈では説明できない感情だった。

美加も、“前夫対する感情を“理屈では説明できない”と言っていた。

― 僕らは、似たもの同士なのかな…。

それぞれが、一方通行の片思いをしている。そんな状態が浮かび、慎一は美加の理不尽な想いにどこか共感してしまっていた。

「慎ちゃん、やっぱり怒っているよね?前も言ったけど、この関係を継続するのが無理だと思うなら、別れましょう。強要しないのが、夫婦のルールだからね」

― まるで脅しだな…。僕が美加から離れられないことを知ってるくせに。

だが、次の瞬間、慎一の怒りの矛先が、相手の男に向いた。

― いや、美加は悪くない、翻弄させた男が悪いんだ。決着をつけようじゃないか。

「僕は大丈夫。でも、一度、緑朗さんに、会わせてくれないか」



美加の前夫・緑朗は多忙な国家公務員ということもあり、時間を合わせるのに苦労した。

そして2週間後、やっと3人のスケジュールが合い、シャネル銀座ビルディングの最上階にある『ベージュ アラン・デュカス 東京』で約束を取り付けることができた。

もちろん、まだ幼い華は同席しない。図らずも事情を理解している里実に夜まで家にいてもらうことになっている。



「インスタをフォローしていますよ。今日も綺麗なボクの相方、いいなぁ」

目の前に現れた瞬間、にこやかに握手を求める緑朗はどこから見ても感じのいいビジネスマンだった。

数年にわたる北米駐在から解放され、去年から霞が関の本省にいるという彼。だが、2、3年もすればまた海を渡ることになるという。

鮮やかでフォトジェニックな料理の数々を口にしながら、緑朗のスケールの大きい自分語りが続く。どの話題も慎一へのマウントに感じ、腹立たしかった。

そして、メイン料理が出てきたところで緑朗が尋ねてきた。

「今日は写真、撮らないんですか?もしよければ、僕がおふたりを撮りましょうか?」

「え…」

「いやー。慎一さんのインスタはいつも幸せそうな写真ばかりで、世間の憧れを集めるのもわかります。ネオ・シナジー婚、でしたっけ。クールですねぇ」



素晴らしい店と料理だが、撮影する気分ではない。緑朗の言葉を、挑発と感じた慎一は、精一杯の強がりで対抗した。

「はい。実際すごく幸せですから。今日は写真のお気遣いは無用です」

美加はその横で、言葉少なにほほ笑んでいる。その様子に、慎一は苛立ってしまう。

慎一といるときの彼女は、のびのびとしていて、おしゃべりで、空気の主導権を握っている。

だが、緑朗の前だとどこかしおらしい。そして、女性の瞳をしている。

― そうか、なるほど…。

慎一は、うっすら理解した。


― 美加がキャリアと育児を両立しながらも、変わらず艶っぽいのは、彼にずっと恋をしているからなのかもしれない。

慎一は悔しさを覚えながらも、素直にそう感じてしまった。

ただ、緑朗の態度には納得がいかなかった。今後の方針について、緑朗に説明した時も、どこか軽いノリだったからだ。

「なるほどね。じゃあ、君と美加はそのまま夫婦生活を続けるんだね。よかった、これからも彼女をよろしく頼むよ!」

まるで、美加が自分の所有物であるかのような言いようだ。

― 今の夫は僕なのに…。受け入れている美加も美加だ。

慎一は、内心毒づいた。

「は、はあ…」

慎一は頷きながらも、だんだんと心がすり減っていくのを感じていた。

― ああ、もう疲れた…。

果たして、この精神状態で美加と今まで通りの結婚生活を継続できるのか、慎一は疑問を抱き始めていた。

実は慎一は緑朗に会ったら「一発殴ってやろう」とか、「美加と自分との崇高な関係を見せつけてやろう」と息まいていた。

だが、逆に緑朗が発する言葉のひとつずつに、ぼこぼこに殴られている慎一がいる。

ノックアウト。

「限界かもしれない」と慎一は、そう考えていた。





「おかえりなさいませ!」

暗い顔で帰宅したふたりを出迎えた里実の口元は、微妙に緩んでいた。

「里実ちゃん、遅くまでごめんね。慎ちゃん、もう遅いし家まで送ってあげたら?」

そう言いながら、美加が慎一の背中を押した。

「ありがとうございます。夜道、心細かったんです~」

里実は声を弾ませる。慎一は仕方なく彼女を送っていくことにした。

美加の顔がどこかホッとしたように見えたのは、彼女もひとりになりたかったのだろうと慎一は思った。



里実は幡ヶ谷の都営住宅に住んでおり、慎一の家まで自転車で通っている。

少し長い距離を歩いて送ることになるが、慎一も美加と離れて気晴らしをしたかったのでちょうどいいと感じていた。

「ハァ…」

慎一は、里実の自転車を押しながら、何度も繰り返しため息をつく。

「どうでしたか?修羅場ディナーは」

何も会話しないつもりの慎一だったが、里実のひと言をきっかけに感情が噴き出してしまった。

「えっ!美加さんのお腹の子の父親って前夫さんなんですか?私が見たあの大男が?超サイアクですね」

半笑いだが、今の慎一にとっては里実のリアクションは心地いいものだった。慎一も心なしか、気が緩み、顛末をすべて話してしまっていた。

「おかしいよな、本当に。やっと気づいたよ」

「ま、慎一さんと美加さん、そもそもが両方ともおかしいですけどね」

「事実婚だから?」

尋ねると、里実は少し考えて首を振った。

「なんだか、おままごとみたいな夫婦。見せ物としては完璧ですよ」



慎一と美加は、まるで「ファミリー向けマンションの広告に出てくる、雇われ家族みたい」だと里実は例えた。

広告ではネガティブな状況を、ポジティブなワードに置き換えたポエムが並ぶ。坂の上をヒルトップ、僻地を自然あふれる環境、というように。

美加と慎一は、ずっとそんな印象だったと、里実は遠慮なしに断言した。

「でも、僕らは心でつながっているから」

カチンときて、そう訴えるも、現に美加が前夫と子どもを作った事実は、その説得力を希薄にさせる。里実は大笑いだ。

「てか、ネオ・シナジー婚って、なんですか?勝手に最先端気取ってセンスない名前を付けがちなのって、やっぱ、元広告屋さんだからですか?」

慎一は、勝手に自分をカテゴライズされるのが大嫌いだ。そんなことを知ってか知らずか、彼を刺激するように、里実は今までの苛立ちを次々とぶつけてきた。

「本当はドッロドロなのに、綺麗なふりをするのって楽しいですか?」

里実の猛攻は止まらない。彼女は退職が近くて自棄になっているのかもしれない。

「そうだな…」

だが、里実の言葉に、妙に納得してしまっている慎一がいた。

腹立たしさはあったが、言い返す気にならなかった。


▶前回:「妻のことを嫌いになりたい…」ホテルでの食事中、夫が密かに考えていたこととは

▶1話目はこちら:1度結婚に失敗した女が次に選んだのは、収入も年齢も下の男。彼とだったら、理想の家庭が…

▶Next:9月14日 水曜更新予定
悪女・美加の笑顔の裏にあった新たな事実。慎一はそれを知りながらも…


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