ただし、今回彼が並んだのは、あらゆる二刀流記録で名前の出てくるベーブ・ルースではない。20勝&20三塁打というレア記録の持ち主だったのはジョニー・クーニーで、この人物の野球人生がなかなか興味深いのだ。
父ジェームズもメジャーリーガーであり、兄弟4人がプロ野球選手という野球一家に育ったクーニーは、ルースと同じく左腕投手だった。1920年には、オフの間にルースをヤンキースへ売り払い、低迷のさなかにあったレッドソックスから入団の誘いを受けた。だが契約条件で合意に達せず、代わりに同じボストンを本拠としていたブレーブス(現在の本拠はアトランタ)に入団。翌21年に20歳でデビューし、22年に初勝利を挙げた。 続く23年は投手として23試合に登板する一方、外野などで19試合に起用され.379(66打数25安打)の高打率を残すと、24年は外野手として開幕を迎えた。だが16試合で打率.217と低迷すると、投手に再転向。以後は閉幕まで投手オンリーで、規定投球回にも達して8勝を挙げた。
25年は唯一の2ケタ勝利となるチームトップの14勝、防御率3.48もリーグ8位。投手として完全に開花したかに思えた。だが26年に肩を痛めてしまい、その後は30年まで5勝を追加したのみ。メジャーでの投手としてのキャリアは34勝44敗、防御率3.72で終わってしまった。
だが、その後もクーニーはマイナーリーグで野球を続ける。31年、ブレーブス時代の僚友だったケイシー・ステンゲルが監督を務めるトリード球団に加わり、同年と32年は2年続けて2ケタ勝利。打者としては35年に142試合で224安打、打率.372。両部門でリーグトップの活躍が認められ、同年9月、ステンゲルが監督となっていたブルックリン(現ロサンゼルス)・ドジャースで、5年ぶりにメジャー復帰を果たした。
翌36年はドジャースの正中堅手に定着。36歳にして初めて規定打席に達し、自己最多の143安打を放つと、37年もレギュラーとして126安打。翌38年はレオ・ドローチャーとのトレードでカーディナルスへ移り、開幕前に解雇されたが、ステンゲルが移籍していたブレーブスにコーチ兼任選手として拾われると、40年は39歳にしてリーグ3位の打率.318。投手を諦めて10年後、ついに打者としてリーグトップクラスの数字を収めた。39歳以上で初めて3割(400打席以上)に達した選手は、クーニー以外に一人もいない。
41年は2位の.319とさらに成績を伸ばして、『スポーティング・ニューズ』誌のファン投票で「最優秀ベテラン選手賞」を受賞した。また、この年は正規の審判団が遅刻したため、初回の1イニングだけ球審を務めたこともあった。選手+コーチ+審判の三刀流はさすがの大谷でも無理だろう。
身長178cm、74kgの軽量級だったクーニーは、とにかく当てるのが上手い打者だった。その証拠に、39~40年は合計806打席で17回しか三振しなかった。ただし長打力はほとんどなく、メジャー通算3675打席でホームランは2本だけ。面白いのは、その2本を39年9月24~25日に2日続けて打っていることだ。なお、投手としてはもともと速球派だったが、モーションの途中でいったん停止する“ヘジテイション・ピッチ”を用いて、打者のタイミングを外すのも得意だった。 このように、プレースタイルは大谷とは対照的でも、私生活では喫煙や飲酒と無縁の真面目男。トレーニングと長時間睡眠によってベストコンディションを整えていたストイックさは、大谷と通じるものがあった。
41歳になった42年は打率.206の不振で、43年は6年ぶりにドジャースへ。翌44年、ヤンキースで10試合出たのがメジャーでは最後になった。打者としては通算965安打、打率.286。それでも45年はマイナーでの27試合で打率.343を記録した。この時の監督もステンゲルで、彼の下ではメジャー、マイナー合わせて4球団でプレーした。のちにヤンキースの名監督として名声を得たステンゲルは、クーニーに一番近い選手としてジョー・ディマジオを挙げている。
46年からはコーチとしてブレーブスに戻り、48年にリーグ優勝。49年は殿堂入り監督のビリー・サウスワースがシーズン中に引退したため、代理監督として残り46試合の指揮を執った。59年にはホワイトソックスのコーチとして、ステンゲル率いるヤンキースを倒して優勝している。
クーニーの成績は大谷とは比べものにならないし、同時期に投手と野手をしていたわけでもないから、真の意味での二刀流でもない。けれども40代半ばまで現役を続け、その後もずっと球界に携わり続けた野球愛の深さはひけをとらないだろう。
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。