今月末に迫る「FIBAワールドカップアジア地区予選Window4」へ向けて仙台でイランとの強化試合を行った日本代表チームは、先月のアジアカップで敗れているイランを相手に連勝という結果を得た。
無論、勝てばいいというわけでもない。今回のイラン代表が本来の主力ではない若手を多く採用したチームだっただけに、なおさらだ。日本にとって、世界的にも稀なトム・ホーバスHCの採用するスタイルのバスケットボールに選手たちが順応することが問われる中で、肝要なのは中身だ。
ではその中身において、今回の強化試合で日本はどのような収穫を得て、課題を残したのか。
◆ファイブアウトオフェンスが成熟
収穫は、コートに立つ5人がアウトサイドに位置取りペイントアタックと3ポイントシュートを中心とした「ファイブアウト」のオフェンス戦術をさらに習熟したところだ。日本は1戦目で35本、2戦目では40本の3ポイントを放っている。少なくとも試投数は、彼らの求める基準値に達している。成功率は1戦目の37.1パーセント、2戦目の30パーセントというのは、相手が本来の主力チームではないことを鑑みても物足りないが、それでも全体の得点の効率性は上がりつつある。
ホーバスHCは女子と同様、アナリティック・バスケットボールを標榜し、3ポイントやフリースローからの得点を多くすることでより効率的に点を取ることを重視している。そのことを表すもののひとつであるPPP(ポインツ・パー・ポゼッション、1ポゼッションあたり何点取れるかの期待値)という指標があり、1.0点を超えると良いとされる。
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日本は、ホーバスHCの初陣となったワールドカップ予選Window1の中国との2戦、PPPは初戦が0.75で次戦が0.77だった。それがアジアカップあたりから1.0前後と上がっており、イランとの強化試合は2戦とも1.0だった。ちなみに日本バスケットボール協会の出しているテクニカルレポートによれば、2019年の日本の平均PPPは0.799、昨夏の東京オリンピックでは0.896で、金メダルに輝いたアメリカ(1.093)、スロベニア(1.055)、オーストラリア(1.099)の3チームが1.0を上回った。
もちろんこうした指標は対戦相手のレベルに左右されるものだが、八村塁(ワシントン・ウィザーズ)らいわゆる「海外組」を大半の試合で欠くなど選手選考において苦慮してきた中で、ホーバスHCの目指すバスケットボールがチームに浸透し始めていることが見て取れる。
◆各選手が役割を徹底
個々の選手の強化試合でのプレーぶりを見ていても、ホーバスHCの求める役割の徹底が進んでいると感じた。そこはプレーぶりにも出ており、例えば西田雄大(シーホース三河)や須田侑太郎(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)、井上宗一郎(サンロッカーズ渋谷)らは同指揮官から3ポイントを打つことを明確に指示されてきたため、今ではそれが体に染み付き、迷いなくシュートを放っている。
そのあたりは、馬場雄大や比江島慎(宇都宮ブレックス)らが、3ポイントラインの外でボールをもらった時にどうしてもドライブインを意識する動きを無意識にしてしまっていたのが対照的だった。
もっとも、馬場も比江島も個の能力が高く、イラン戦で両者とも活躍をしている。とりわけNBA入りを目指す馬場は、身体能力とGリーグやNBLで培ってきた経験が、あらためて日本代表に貴重なものであると示している。