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「NBAは“マフィア”だから」ヨーロッパ人HCが誕生しない理由を、欧州の名将たちが語る<DUNKSHOOT>

THE DIGEST

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「NBAは“マフィア”だから」ヨーロッパ人HCが誕生しない理由を、欧州の名将たちが語る<DUNKSHOOT>

 ヨーロッパで生まれ育った選手がNBAで活躍することは、今や珍しくなくなった。というより、2018-19シーズンから4年連続でNBAのシーズンMVPを独占しているのは、ヨーロッパ出身のヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス/ギリシャ/2019、20年)とニコラ・ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ/セルビア)だ。

 しかし、そんな彼らを育てた欧州の指導者たちがNBAの球団を率いる例はほとんどない。唯一の例外は、セルビア人のイゴール・ココスコフ(現ブルックリン・ネッツアシスタントコーチ)。彼は2018-19シーズン、北米以外で生まれ育った指導者として、NBA史上初めてフェニックス・サンズのヘッドコーチ(HC)に任命された。

 ただ、指導者としての彼の活動の場はアメリカで、まだ駆け出しだった頃に現地に渡り、カレッジバスケットボールからNBAにステップアップ。そこで18年間、計6球団でアシスタントコーチとして経験を積むという、例外的なキャリアを経ての採用だった。ちなみにこの時は19勝63敗という球団史上ワースト2位の成績でカンファレンス最下位に沈むと、1シーズンのみで解任されている。
  そんななか、現在NBA入りの噂が絶えないのが、トルコ人のエルギン・アタマンだ。彼は昨季、アナドルー・エフェスをユーロリーグ2連覇に導き、同リーグの年間最優秀監督にも選ばれた、今ヨーロッパでもっとも勢いのある指導者だ。

 しかし、兼任するトルコ代表のヘッドコーチとしてユーロバスケット(9月1~18日)に向けたキャンプ中のアタマンHCは、トルコメディアに「NBAに行くという目標が達成される可能性は低くなってきた。それは、NBAが別世界だとわかったから」だと発言。アタマンは以前からNBAチームを指揮することに意欲的だったが、複数の球団と実際に話し合いを持ったことで得た感触を赤裸々に語っている。

「私は常々『NBAのチームからオファーが来たら迷わず行く』と言っていたが、相手にはそんなつもりはないようだ。ただ『何年かここでアシスタントコーチをやってくれ』と言われるだけ。(NBAの)ヨーロッパ人ヘッドコーチに対する見方は非常に異なっている。事実、ヨーロッパ人のコーチが、欧州からNBAにヘッドコーチとして行ったことはない。NBAの歴史においてゼロだ」
  2014年にマッカビ・テルアビブでユーロリーグに優勝したデイビッド・ブラッドは、翌シーズンにクリーブランド・キャバリアーズのHCに招聘された。しかしイスラエル国籍も持つ彼は、ボストン生まれのアメリカ人だ。

「複数の球団と話をしたが、どこも同じことを言った。『まずはここに来て、しばらくコーチしてみることだ』ってね。なるほど、それはありがたい。しかし同時に、彼らは決まって同じことを言う。『NBAは選手主体のリーグ。これはNBAでは非常に重要なことなんだ』と。『NBAのシステムは、“選手中心 ”。でもヨーロッパではコーチが支配しているから、ここではあなたはチームを管理できないかもしれない』。一言一句彼らの言葉どおりではないが、話のニュアンスからそんな印象を受けた」(アタマン)

 確かにNBAは、欧州のリーグよりも選手の存在感が絶大だ。複数のフランチャイズと話し合いをした結果、ユーロリーグで今季“スリーピート”達成に挑めるポジションにあるアタマンHCの心を動かすようなオファーはなかったという。
  ボローニャとCSKAモスクワでユーロリーグ4勝を誇るイタリアの名将エットーレ・メッシーナ(現アルマーニ・ミラノHC)は、サンアントニオ・スパーズのグレッグ・ポポビッチの下で5年間アシスタントコーチとして修行。ポポビッチが家庭の事情により不在だった2017-18シーズンのプレーオフ、対ゴールデンステート・ウォリアーズ戦ではヘッドコーチを務めた経験もある。

 しかし彼も、これまでサクラメント・キングスのHC就任の噂が流れるなど面接には呼ばれたことはあっても、採用に至ったことは一度もない。ちなみに先日ユタ・ジャズのHCを辞したクイン・スナイダーは、CSKAでメッシーナのアシスタントだった。

 また、スペイン代表の名物HCセルジオ・スカリオーロも、2018-19シーズンから3年間トロント・ラプターズでニック・ナースのアシスタントを務め、2019年には優勝を経験。スカリオーロはNBAでの体験について「選手のエゴをいかにコントロールするかを学んだことは非常に大きな収穫」だったと、2019年のワールドカップ優勝後に語った。だが、彼も最近のインタビューで、ラプターズ時代を振り返り「ヘッドコーチに昇格することはありえないと思っていた」と話している。
 「そんな気はまったくしなかった。ヘッドコーチの面接を受けた時でさえね。将来的にはどうなるかはわからないが、ヨーロッパ出身のコーチが、アシスタントを何年か経験することなくNBAでヘッドコーチになる道はないだろう。問題は彼らがそれに何年くらい必要だと考えているかだ。ずいぶん変わっているとは思うが、それが彼らの世界なのさ。

 組織の成長に役立つ人材であれば、選手もコーチも、そして代理人も彼らは歓迎する。しかし、指導的立場のトップにあるヘッドコーチを“外国人”の手に委ねるということには、まだ数年の時間を要する気がするね。ヨーロッパのヘッドコーチやスポーツディレクターに対しては、尊敬や配慮はあっても“世界が違う”と境界線を引かれているようなところがある。それを受け入れるか、受け入れないかだが、その事実に抗うのは意味のないことに思えるよ」

 そして、ユーロリーグで歴代最多の9勝と、欧州で最も尊敬を集める指導者であるセルビア人のジェリコ・オブラドビッチには、多くのファンが“彼の采配をNBAで観てみたい”と望んでいた。しかしゼネラルマネージャーと友人関係にあったというデトロイト・ピストンズ以外、NBAからの真剣なオファーは一度もなかったという。その彼はNBAのコーチ観について、辛辣な発言を述べている。
 「NBAにヨーロッパ人のコーチがいない理由は、NBAは“マフィア”だからだ。彼らはコーチには仕事をさせない。そしてそのことについて誰も何も言えないんだ。しかし(ヨーロッパでは)私はそんなことはまったく気にしないから、好きなようにやれる。NBAは最高のバスケットボールリーグだが、何の疑いもなく、そこでやれるヨーロッパのコーチは大勢いると断言できる。ただ、この悪循環を断ち切るのは非常に難しいだろう。明らかに彼らはヨーロッパの指導者を信用していないからね」

 オブラドビッチは、選手たちを大声で怒鳴りつけるなどかなり激しいゲキを飛ばすことで有名だ。それに必要とあらば公に自軍の選手も批判する。冒頭のアタマンのコメントにあるように「選手主体のリーグ」という掟がNBAにあるのなら、オブラドビッチのその指導法は敬遠されることだろう。
  実際問題として、NBAのアシスタントコーチにお声がかかるようなヨーロッパの指導者は、欧州のビッグクラブのヘッドコーチとしてそれなりの高給を得ている。格段に金額が下がるNBAのアシスタントコーチになるという選択は、そんな彼らにとって現実的に難しいものだと、イタリア系アメリカ人のマイク・ダントーニは以前発言していた。

 しかし前コミッショナーの故デイビッド・スターンは生前「将来的には、短い任期でチームを率いる他国籍コーチが、成功する他国籍選手の数より多くなる」と予見している。
  アタマンHCも「もしNBAの誰かが自分を(HCに)望むなら、いつだって話し合いに応じる」と語っているから、世界最高峰リーグに挑戦したいと願うのは、選手だけでなく指揮官も同じことだろう。プレースタイルやカルチャーの違いはあっても、選手同様、順応できる能力があれば成功できない理由はない。

 スターン氏が予言したような状況が実現するのはまだかなり先のことのようにも思えるが、いつかヨーロッパ人ヘッドコーチが、NBAチャンピオンとなる日を見てみたい気もする。

文●小川由紀子

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