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古川琴音が「映してもらってよかった」と感じた“泣き顔”。演技に誠実な女優が、撮影現場で得たものとは?

MOVIE WALKER PRESS

幼いころからバレエを習っていたせいか、華奢ながら背筋がスッと伸び、大振りな花モチーフがついたパンツスーツに、メタリックのヒールがまばゆいサンダルも見事に履きこなしている。「プライベートではスニーカーや厚底靴を履くことが多い」という古川琴音に、トレードマークとも言える“眉の上で短く切りそろえた前髪”の理由を尋ねると、「もともとずっとこの髪型なんです。さっぱりしていて、邪魔にならないから」と笑い、「役の上でも『そのままで』とオーダーされることが多いんです」と、耳に残るあのキュートな話し方で明かしてくれた。

■「自分でも言葉でうまく説明できないような、複雑な感情が見えればいいな」
国内外でヒットを記録している一条岬の同名恋愛小説を、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(16)など、数々の恋愛映画を手掛けてきた名手、三木孝浩監督が実写化した『今夜、世界からこの恋が消えても』(公開中)。古川が演じた泉は、交通事故をきっかけに、眠りにつくと記憶を失ってしまう難病「前向性健忘」を患ってしまった親友の真織(福原莉子)のことを、クラスメイトの神谷透(道枝駿佑)と共に献身的に支える親友役だ。物語の後半に明らかになるある事情から、三木監督いわく「十字架を背負っている」というほどに、苦難に満ちた役回りを担っている。

脚本に『君の膵臓をたべたい』(17)や『君は月夜に光り輝く』(19)の月川翔と、『明け方の若者たち』(21)の松本花奈が名を連ね、“恋愛映画最強の布陣”で製作された本作だけに、「本当は、自分ももっとキラキラした青春を経験できると思っていたんです」という古川。「久々に制服を着られるというのも楽しみでしたし、中学~高校くらいの恋愛は特別だと思うので。そういう物語の中に入れるのはうれしいなあと思っていたんですけど、まさかこんなに矢面に立って苦しむ役どころになるとは思いませんでした(笑)」と本音が飛びだした。

そんな自身の役どころについて、古川は、「真織の騎士(ナイト)的な立ち位置」であり、「真織を守ることで、どこか自分の存在意義を満たしている部分もある気がします」と分析する。さらに、道枝扮する神谷がクラスメイトに流されるまま“嘘の告白”をしたことをきっかけに真織と条件付きの交際を始めたことで、「神谷に対して、同じ悩みを共有する相手ができた安堵感のような気持ちもあれば、『真織を取られてしまうかもしれない』といった嫉妬みたいな感情もあるかもしれない。自分でも言葉でうまく説明できないような、複雑な感情が見えればいいなと思いながら演じました」と振り返る。
■「まさに泉の“足掻き”が真織を支えていて、ある意味美しく映っていたし、映してもらってよかった」

三木組では、クランクイン前に役者に“覚書”を渡すのが恒例になっているとよく耳にするが、御多分に漏れず古川も、三木監督から手紙を受け取ったという。「泉を演じる上でのお守りになるような言葉がたくさん書かれていたので、自分だけのものにしておきたい部分もあるんですが…」とにっこり。手紙に基づき現場で演じ、完成した作品を観て「手紙どおりになってる!」と実感したそうだ。

「記憶って、足かせにも、背中を押す原動力にもなり得るもの。そんな『記憶が持つ複雑性にいち早く気づいてしまった少年少女の“足掻き”を映したい』という言葉が、三木監督からいただいたお手紙のなかでも一番心に響きました。綺麗な物語ではあるんですが、決して綺麗なだけではない、人間臭さみたいなものも監督が愛していることが伝わってきましたし、現場でも、苦しい記憶のなかにある美しい一瞬を逃さないように、みんなが集中していたんです」

物語の終盤、それまでは気丈に振る舞っていた泉が、感情をあらわにして泣き顔を見せる場面が登場する。「演じている時は、自分では『この苦しい顔は、あまり人に見られたくないな』って思っていたんですけど、いざ出来上がった作品を通して観てみたら、そのグチャグチャこそが美しいというか。監督が事前にお手紙に書かれていたように、まさに泉の“足掻き”が真織を支えていて、ある意味美しく映っていたし、映してもらってよかったなあと思いました。あのシーンは、現場で何回も撮り直したから、すごく記憶に残っているんです。ずっと泉が背負っていた十字架を、いったいどう降ろして、泉の物語をどう終わらせるか。ものすごく苦しい場面でしたけど、三木監督も親身になって一緒に考えてくださいました」。
古川演じる泉は、“人気デザイナーを母に持つ”という設定であり、眺めの良いオシャレな邸宅に暮らしている。「藤沢や湘南のあたりで撮影していたんですけど、泉や真織の自宅としてお借りしたおうちがすごく素敵だったんです。丘の上に建っているので、窓から見える景色もすばらしくて」。

ファッショナブルな私服姿やアレンジした制服の着こなしも目を引くが、なかでも泉が最初に登場するシーンの着こなしが、古川のお気に入りなのだとか。「上はジャージっぽい服なんですが、デザインがちょっと変わっていて。制服のスカートと合わせると、ものすごく可愛いんです。泉ちゃんと違って実際の学生時代の私は優等生タイプだったので(笑)、ちゃんと校則を守ってました。スカートの丈も、ちゃんとひざ丈までありました。いまとなっては、ちょっともったいなかったかなと思います(笑)」といたずらっぽい表情をのぞかせた。

■「自分のことは一旦脇に置いといて、相手の反応に集中していると、思いがけない感情が湧き上がってきたりする」
本作では、一度寝ると失われてしまう真織の前日の記憶を「翌日の真織」に伝えるために、“日記”が重要なアイテムとして登場する。古川自身は「日記は普段つけていない」というが、スマホのカメラやボイスレコーダーを記録媒体として活用していることを教えてくれた。

「台本を覚える時は、ボイスレコーダーに自分の声で全部吹き込んで、歩きながら聴くようにしています。自分のセリフだけじゃなくて相手のセリフも入れますし、ト書きも重要な部分は入れたりしています。何回も聴いて全体の流れを予習して、最終的に相手のセリフを聞いて、自分のセリフが出てくるかどうかをテストするような感じです。あとカメラは、実家で飼っている猫の写真を撮るのに使うことが多いです」

近年、映画やドラマのみならず、CMや舞台にも活躍の場を広げる古川だが、濱口竜介監督の『偶然と想像』(21)の現場で学んだことが、役への向き合い方にも大いに影響を及ぼしているという。「濱口監督から教えていただいたことはたくさんありますが、一番大きかったのは、準備してきたものを現場で“手放す”ことの大切さを知ったこと。演じる上での優先順位が変わったというか、自分のセリフをどう言うかということよりも、いま目の前にいる相手がどういう反応をして、なにを私に伝えようとしているのかを感じ取ることに集中するようになりました」。

「自分のことは一旦脇に置いといて、相手の反応に集中していると、思いがけない感情が湧き上がってきたりするんです。『台本を読んだ時は、ここで私は泣くと思ったけど、あ、これは耐えなきゃダメだ』とか。逆も然りですよね。『この言葉に反応するつもりはなかったけど、この状況で目の前の人からこの言葉を聞くと、こみ上げてくるものがあるなあ』とか。以前よりライブ感を強く感じられるようになりました」

そんな古川に“自身を取り巻く環境の急激な変化”について聞いてみたところ、「自分では特に感じていないですし、得てきたものがちゃんと実っているのかもまだ実感できてないです」と話す一方で、「でも、技術的なものは少しずつ身についてきたかな」と自覚する。

■「常に地に足がついた状態でいたいなあと思っています」

「今年出演したブロードウェイミュージカル『INTO THE WOODS』や、これからNHKで放送される特集ドラマ『アイドル』では、歌や踊りもやりました。体を鍛えるという面では、鍛えたからこそできる表現が増えている気がしますし、知識と経験が積み重なってきているなという感覚はあります。とはいえ基本的には現場ごとにスタッフさんから共演者の方からみんな違うので、全部の仕事がゼロから始まる感じです。稽古期間が長い舞台と違って、映像の場合はクランクインを迎えるまで毎回不安だし、“飛び込む”っていう意識が強いです」

インタビューなどで自分の意見を求められる機会は格段に増えたそうだが、「最初のころは、なにも話せなかったんです」と苦笑する。「きっと、私はなにが好きで、なにが嫌いなのか、その理由が自分でもよくわかっていないまま、自分の言葉じゃない言葉でしゃべっていたんだって、ある時気付いたんです。それ以来、例えば『これ、私すごく好き!』と感じた時も『これのどんなところに私は惹かれてるんだろう?』って、その都度考えるようになりました」。

「さっき、“真織のように日記はつけていない”と言ったんですが、私の場合、『この前こういうことがあって、私はこう思った』って、親友に文字で伝えることが多いかもしれません。自分以外の誰かにその当時の状況や感情を説明することで、客観的に見られるようになって、『あ、私はこれが嫌だったんだ!』って気付けることも意外と多かったりするんです」

そんな古川の“好き”or“嫌い”をジャッジするポイントは、どこにあるのだろうか。「“自然体であるかどうか”が、いまの自分にとって一番重要なような気がしています。あるがままかどうかというのがすべての基準になっているというか。インタビューを受けている時も、ついカッコつけたことを言おうとしちゃう自分がすごく嫌いで、あとから思い出してモヤモヤしたりするんです(笑)。常に地に足がついた状態でいたいなあと思っています。いまは目の前のことに一つ一つ真剣に向き合っていきたいです」。

取材・文/渡邊玲子
 
   

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