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連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2022年7月のベスト国内ミステリ小説

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 詠坂雄二『5A73』、浅ノ宮遼/眞庵『情無連盟の殺人』も好みで迷ったけれど、今月は桜庭さんのバディもの&書きおろしである本書を。新大久保に探偵事務所を構える紅と橡が、それぞれ違う事件に巻き込まれるところから物語は始まる。ある出来事以降、互いの距離を測りかねている紅と橡の関係性もいいが、紅の依頼人である謎の少女にとても惹きつけられた。「弱いまま最強というパラダイムシフトを達成する」と言う彼女の背景に何を見るかは、読者によって異なるだろう。徐々に繋がっていく事件と、登場人物たちが迎える結末は鮮やかである。

若林踏の一冊:詠坂雄二『5A73(ゴ・エー・ナナ・サン)』(光文社)

 実際には存在しないはずなのにパソコンなどには表示される幽霊文字「暃」をめぐる奇妙な小説だ。「暃」の文字を付けた死体が連続して見つかる事件を刑事たちが追う、という展開は一見するとオーソドックスな捜査小説のようだが、「そもそも暃って何?」という謎かけが組み合わさることで、実に摩訶不思議な読み心地になっている。終盤の展開も相当に捻じれたもので、物語の着地点にはもう唖然とするよりほかはない。もともと詠坂雄二は変てこなミステリばかりを書く作家だけれど、その中でも本書の奇抜さはトップクラスに入るはずだ。

橋本輝幸の一冊:五十嵐律人『幻告』(講談社)

 タイムリープ×法廷ミステリという組み合わせを活かしきった、2020年メフィスト賞受賞作家の最新長編。主人公はタイムリープを繰り返し、過去パートで裁判を受けている父親が本当に罪を犯したのか、それとも冤罪だったのか真実を追究していく。行動で歴史を変えられるタイプの時間SFで、ループごとに判決が変わるのがユニーク。弁護士である著者の専門性が発揮された法曹描写と、登場人物の信念ある行動が強い印象を残す、注目作です。

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 今月から本コーナーに加わりました。普段は主にジャンルSFで活動しています。

杉江松恋の一冊:浅ノ宮遼・眞庵『情無連盟の殺人』(東京創元社)

 犯罪小説&ロード・ノヴェルの佐原ひかり『ペーパー・リリー』(河出書房新社)と迷ったのだが、ミステリー度の高いこちらを。医療ミステリー短篇集でデビューした作者の第二作は特殊設定の犯人当て小説だった。アエルズという病に感染すると一切の感情を喪失する。その患者たちは喜怒哀楽に左右されないので自分が生きるための合理的な行動しかとらなくなるのである。そうした者だけが集まっている中で殺人事件が起きたらどうなるか、という思考実験が楽しい。論理だけで生きている人間という設定を思いついた時点で作者の勝ちだろう。

 7人体制の監視塔、まずは重なった作品が1つだけというまずまずの気の合わなさぶりでした。これがどうなっていくのか。賑やかにお届けして参りますので、来月以降もよろしくお願いいたします。

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