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マイナーなジャンルで王道のヒーローを描くーー島田一志の『ベルセルク』評

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 世界中で愛読されるダークファンタジーの傑作漫画『ベルセルク』。作者の三浦建太郎が2021年5月6日逝去したことで未完となっていたが、かつて三浦を支えた「スタジオ我画」の作画スタッフと、三浦の盟友・森恒二の監修によって、2022年6月24日より連載が再開したことでも話題となっている。

 後世に何を伝えたのか? 9人の論者が独自の視点から『ベルセルク』の魅力を読み解い
た本格評論集『ベルセルク精読』が、8月12日に株式会社blueprintより刊行される。

 『ベルセルク精読』より、漫画編集者の島田一志の論考「マイナーなジャンルで王道のヒーローを描く」の一部内容を抜粋してお届けする。(編集部)

“現代の神話”ともいうべき傑作

 すべてを描こうとする漫画家が好きだ。“すべて”とは、森羅万象、古今東西ーーなんといいかえてもいいが、この世に存在する(あるいは、存在しない想像上のものをも含めた)“ありとあらゆるもの”を、ひとつの作品の中に封じ込めようという作家の執念に、一読者として圧倒されるからである。

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 そもそも戦後の日本のストーリー漫画を牽引してきた、手塚治虫と石ノ森章太郎のふたりからしてそういう類いの作家であったし(前者では『火の鳥』、後者では『サイボーグ009神々との闘い編』あたりを読まれたい)、80年代以降にデビューし、いまなお第一線で活躍している作家でいえば、荒木飛呂彦、藤田和日郎、そして、(さらに新しい世代では)諫山創らの名を挙げることができるだろう。

 『ベルセルク』の三浦建太郎も、そういう漫画家のひとりだったと私は思う。そう、三浦が遺した『ベルセルク』もまた、右に挙げた漫画家たちの代表作と同じように、“現代の神話”ともいうべき傑作であり、この先も多くの人々に読み継がれていくのは間違いないだろう。さて、本稿の前半では、そんな『ベルセルク』が、日本のファンタジー漫画の歴史において、どのような位置づけにある作品なのかを、あらためて振り返ってみたいと思う。そして後半では、主人公・ガッツのキャラクター造形に焦点を当て、〝ダークヒーローの条件〞について考えてみたい。

日本のヒロイックファンタジー漫画の礎

 三浦建太郎の『ベルセルク』はファンタジー作品である。などということはまあ、誰の目にも明らかだろうが、同作には、ヒロイックファンタジーの要素と、ダークファンタジーの要素が混在している。

 むろん、ヒロイックファンタジーとダークファンタジーは、同じジャンルというわけではないので、本稿では、そのふたつのファンタジーの要素が、それぞれどういう役割を持って、『ベルセルク』という作品を作り上げているのかを考えてみたい。

 まずはヒロイックファンタジーについてだが、これは通常、「剣と魔法の物語」といわれることが多い。舞台は近代科学発展以前の異世界、主人公は超人的なヒーローである(身の丈を越す大剣を振り回して魔物を倒すガッツは、まさにその典型であるといっていいだろう)。また、おおむね物語全体を貫くテーマは、善と悪の二項対立であり、基本的には最後に善が勝つ。

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