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フェイクニュースが煽った「帝国日本」の戦争と破滅

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帝国日本のプロパガンダ(朝日新聞出版)<amazonで購入>

8月15日が近づくと、日本の大手メディアは毎年夏恒例の「8月ジャーナリズム」に突入する。「原爆の日」から「終戦」記念日にかけて、戦争と平和についての報道があふれ、その見出しには「祈り」の文字が繰り返される。

「年中行事」とも、マンネリとも評される集中報道の意味を、あらためて考えさせてくれるのが、京都大学東南アジア地域研究所教授の貴志俊彦さんが書いた『帝国日本のプロパガンダ』だ。

本書で取り上げられるのは、1900年から50年ほどの間に起きた大日本帝国憲法下の日本がかかわった戦争・紛争を、当時の報道と宣伝がどう表現していたかの記録である。しかし、「あとがき」にもあるように、ロシアによるウクライナ侵攻が始まる中で書き進められた本書は、現在進行形の世界の現実をなぞるようでもある。


ウクライナをめぐる戦争報道を鵜呑みにできないわけ

この本がいま、読まれるべき理由の第1は、ウクライナ侵攻に引き続き、中国・台湾や北朝鮮をめぐるアジアでも軍事緊張が高まっているなか、過去の戦争や紛争とプロパガンダという点から見れば、共通の側面があることを認識させてくれることだ。

かつての日本の新聞もそうだったが、「戦争」と「国益」の名のもとに報道機関は独自の取材と判断を停止し、属する国、そして軍の目線で報道するようになっていく。自分の国が戦う正当性、自軍の優勢を強調する報道・宣伝が続いた結果、国民は戦争を支持し、むしろ国を戦争に駆り立ていく役割を果たした。

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現在も私たちは、ウクライナとロシアなど戦争当事国はもちろん、両国に加担する米国、欧州、中国、台湾、北朝鮮、そして日本からの「戦争報道」に日々接している。テレビ映像含め、双方が「客観的な戦争報道」を主張するが、それを鵜呑みにしてはならない。程度の差はあれ、そこには自らが有利になるようなプロパガンダが挿みこまれている。本書が描く歴史は、そのことを教えてくれる。

日清戦争時の「偽」画像が現代中国のSNSも動かす

第2の理由は、今日でいうフェイクニュースの典型が戦争プロパガンダであり、その効果を最大化するのがビジュアル技術だという、現代でも当てはまる法則を知ることだ。戦争当事国は、戦況について自国の利益になるような誇張や虚偽、隠蔽を行って発表し、それが報道されて人々に届く。19世紀から20世紀にかけての写真印刷技術や映像技術の発展は、そうしたフェイクニュースを効率よくかつ効果的に伝えることに成功したことが描かれる。

日中戦争や太平洋戦争で日本軍の大本営が虚偽の発表をしていたことは有名だが、本書では、その前史というべき日清戦争、日露戦争の時代から、日本だけでなく清国、ロシア、そしてそのメディアが、自国有利のプロパガンダを繰り広げていた事実が掘り起こされる。

日清戦争当時、プロパガンダの役割を果たしたビジュアル技術は、日本では「錦絵」であり、清国では「年画」と呼ばれる版画を主とする印刷物だった。今から見ればリアリティには程遠いが、まだ写真が一般化していない時代にあっては、きわめて強い印象を読者の脳裏に焼き付けるものだった。黄海海戦で大敗した際に清国側で人気を得た年画は、「海軍大勝図」と題され、清国が日本に勝ったという想定で海戦の様子を描き、日本の軍艦が清国のそれに大破された図も掲載された。そうした事実はなく、まさにフェイクニュースといえるが、当時の清国ではこれが事実とされ、人気を博したという。

本書では、この年画の写真とともに、それが現代にも影響を与えた興味深いエピソードが紹介されている。2014年に「海軍大勝図」を含む一連の錦絵・年画が公開されると、2016年ごろから中国のSNS上では、日清戦争で清国は勝っていたという確信を持つ人たちが歴史観の修正を呼びかける動きがあり、中国の愛国心の高揚に影響したというのである。

年画という19世紀のビジュアル・フェイクニュースが、21世紀のネット世論に影響を及ぼした威力に驚きを覚える。デジタル時代の現在、映像加工技術は当時の比ではなく、被写体の有無を逆転することさえ簡単だ。さらにAI(人工知能)を使えば、どんなリアル動画でも創作、つまりは捏造できる。実際、ウクライナ侵攻では、双方の発信映像に対する加工や隠蔽の指摘があった。流れ続ける戦争や戦闘をめぐる映像がどこまで真実なのか、わたしたちは慎重に吟味する必要がある。

現代のメディアはプロパガンダを乗り越えられるのか

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