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【小説】父の「遺書」と思われる手紙に、書いてあったこと

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不可解な死を遂げた父と、娘・瑠衣の抱えた心の傷、そしてふたりの秘め事……。倫理を、常識を、善悪をも超越した「縁」を描く衝撃の物語。※「一闡提」とは……仏法を信じることなく、成仏の素質を欠く者。 ※本記事は、安達信氏の書籍『一闡提の輩』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

一闡提の輩

中学生になってからの瑠衣は、随分変わりました。なんというか、逞しくなったようにお父さんには見えました。吹奏楽部でフルートを吹き、一年生のときから家に帰ってくるなり、先生の教え方どうのこうのと言っては、お父さんやお母さんを困らせました。

二年生の秋ごろキャプテンに選ばれてからの瑠衣は、それはそれは一段と貫禄が出てきて、合奏の前には小太鼓のバチで指揮を振りながら曲をまとめていたということを部活の先生から聞きました。お父さんは瑠衣の行動力を見て、本当は指揮者になりたいのではないかと思ったほどです。

三年生のとき、関東地区大会の吹奏楽コンクールをお母さんと聴きに行き、審査結果発表のとき部員全員が手を合わせ、真剣な眼差しで司会者を見つめてました。瑠衣の学校が「金賞」と発表されたとき、全員が立ち上がり涙を流し合ってお互い抱き合っている姿、脳裏に焼きついてます。地区代表に選ばれ、全国コンクールに出場することになり、瑠衣は今まで以上に部活に一生懸命取り組んでました。

学校創立以来の快挙ゆえ校長先生、部活の親御さんたちが聴きたくて都内のコンサートホールの前に集まって、思い思いに生徒たちを激励してました。残念ながらホールに入れるのは十名ほどで、お父さんとお母さんは聴くことができませんでした。でも、日ごろの瑠衣の真剣さから、いい演奏ができると確信してました。

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瑠衣の学校の演奏が終わり、部員たちがやり切ったという顔をしてコンサートホールから出てきて、下のロビーで待ちわびる学校関係者や親御さんたちのところに楽器を抱えながら全員小走りで駆け寄ってきました。瑠衣は、お父さんとお母さんのところに来て、「お父さん。お母さん。今日の演奏の出来、最高だったよ!」と言いながら、周りで泣いている仲間たちの肩を抱き、「ありがとう! ありがとう!」を連発してました。

多分、そのときのこと覚えてないかもしれないね。だって瑠衣の顔が、涙でぐちゃぐちゃになるくらい興奮してたから……。その姿、まるで音楽室に飾ってある「ベートーヴェン」のようでした。

全国コンクールの結果は銀賞でしたが、お父さんとお母さんは、金賞をあげたいくらいでした。中学卒業後、全国吹奏楽コンクール常連校だった鶴前総合高校に入学し、島田先生の指導のもと、部活に今まで以上熱心に取り組んでいる瑠衣の姿を見て、お父さんはプロを目指しているのではないかとおぼろげながら思ってました。

ただ、思春期を迎えた娘にどう接してよいのかわからず戸惑っていました。というのも、中学生のとき、あれほど日々の出来事を嬉しそうに語ってくれた瑠衣が、一転して寡黙になったからです。高校一年の夏ごろ、「お父さん、定期演奏会に来ないで」と言われ本当に悲しくなり、お母さんにも伝えず二階席の一番後ろで聴いていました。定期演奏会が終わるやいなや、瑠衣に見つからないよう逃げるようにしてコンサートホールを出ました。家に帰っても一切定期演奏会のことには触れず、お母さんにも黙ってました。

帰宅した瑠衣は、「ああ疲れた。今日の定期演奏会最悪だったわ」と言い制服を着替えるため階段を登りながら、「お父さん、今日ありがとう」と言って自分の部屋に向かいました。お父さんは見つかるはずがないとたかをくくってましたが、「失敗した」と落胆したものの心の中では嬉しくて仕方がありませんでした。

着替えを済ませて降りてきた瑠衣は、「来年の定期演奏会、井上隆先生が指揮してくださることが決まったわよ」と興奮していました。お父さんも、テレビのコンサートアワーの番組によく出演されている井上隆先生が、瑠衣の学校の定期演奏会で指揮を振られるなんて予想もしてませんでした。

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