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“人生ガチャ当たり”の男。仕事で成功を収めた夜、ありえない屈辱を味わった理由

東京カレンダー

「羨ましい」
「あの人みたいになりたい」
「別世界の人間だな…」

そんなふうに憧れられる側の人間にも、闇がある。

彼らが、どんなものを抱えているか。

あなたは、ご存じですか?

▶前回:美人だけが招待される謎のLINEグループ。そこで共有される秘密の情報とは…



ケース4:挫折を知らない男


「器用だね」
「賢いね」
「人生、トントン拍子だね」

人生において、僕はこんな類の言葉をよくかけられる。

そして、僕もそう思う。

もちろん小さな失敗や苦労はたくさんしてきたけれど、僕の人生はおおむね順調なのだ。

割と裕福な家庭で生まれ育ち、早稲田大学に進学。その後、大手不動産企業に入社した。

30歳で看護師をする美人な彼女と結婚。

31歳で第一子が生まれ、32歳で自由が丘に2LDKの中古マンションを購入した。

33歳となった今、年収は約1,100万円。

とんでもない成功を収めたわけではないけれど、全国的に見たら割と裕福な層に食い込むだろうし、人から羨まれることだって多い。

そう、僕の人生は順調だったのだ。

ある人から、あんな言葉をかけられるまでは…。


これはあまり大きな声で言えないことなのだが…。

生まれもった自頭の良さっていうのはある。間違いなくあると思う。

生まれつき美人とそうじゃない人間がいるように、世の中には、賢い人間とそうじゃない人間がいる。

どう頑張っても、早稲田大学には合格できない人間というのも存在する。

大学生時代、家庭教師のアルバイトをしていたとき、それを実感したのだ。

「この問題は、この前使った公式を当てはめれば解けるよね?」
「…」
「わかる?」
「わかんない…」
「何がわからない?」
「何がわからないか、わからない」

ご両親がお受験に熱心だった、準君。

どんなに丁寧にわかりやすく教えても、彼は一向に理解してくれかった。

本人にやる気がなくて、真面目に努力していないわけじゃない。むしろ、逆。

ちゃんと一生懸命に取り組んでいるのにもかかわらず、だ。



その事実を知ったときは衝撃だったとともに、自分が相当恵まれた頭脳を持って生まれてきたのだということを知った。

思い返せば、大学受験だって大した苦労はしていない。普通に勉強して、普通に早稲田大学の法学部に合格した。

一方で、自分よりはるかに頭の切れる人間がいるということもわかった。同じことを同じように勉強していても、理解のスピードがまるで違う。

僕はそんな一握りの天才ではないけれど、きっと上位10%くらいにはランクインする頭の持ち主だろう。

そう悟ったのは、学生時代の一番の学びだったように思う。

それから僕は、就活も、仕事も器用にこなしていった。

周囲の人間が苦戦しているのを横目に、「こうすれば上手くいくだろう」という何となくのアテがつけられた。

自頭の良さというのは、勉強だけに発揮される能力じゃない。

どんなシチュエーションにおいても、物事を論理的に考えることができ、目的を達成するために取るべき正しい手段をスピーディーに割り出せる能力の事だと思っている。



きっと、生きていくにあたって必要不可欠な能力だろう。

そんな自頭の良さに恵まれた僕は、仕事も順調にこなしていった。

しかし、ある日。

先輩から思ってもみなかった言葉をかけられる。


それは、大きな商談を目の前にしたときのことだった。

先輩が進めていた大きな案件で、急遽その日の夜に会食をすることになったのだ。

我々が接待をする側。

先方の好みを踏まえた上で、彼らを満足にもてなす店を今すぐに押さえなくてはならない。

そんなことが滅多にない我々は、どうしたものか慌てふためいていたのだが、僕はふとあることを思い出した。

学生時代、家庭教師をしていた子のうちの1人が老舗料亭・店主の息子だったのだ。

彼は現役で、国公立の医学部に合格した。

僕は英語しか教えていなかったけれど、英語が大の苦手だったという彼は、僕を恩師として慕っていてくれている。もちろん、父親である老舗料亭の店主も僕に感謝している。

恩はある。

赤坂に店を構えるその老舗料亭は、100年以上の歴史を誇る由緒正しい店。

予約することができるのであれば、急ごしらえにしては十分に合格ラインだろう。

そう考えた僕はすぐに彼に連絡をとりつけ、なんとか個室を1部屋あけてもらうことに成功したのだ。



「お前すごいな、まじで助かったよ」

僕は先輩の窮地を救った。

「いや、たまたま知り合いがいただけなんで…」

けれど、僕は驕ることはせず、少し謙遜しながら先輩を立てた。

― よしよし、今日も僕はうまいこと立ち回ったな。

そんなふうに思っていたのだが…。

会食が終わり、取引先を満足げな気持ちで見送っていたとき。僕は得意げな表情でもしていたのだろうか…。

先輩は突然にボソリと言ったのだ。

「お前さ…。挫折とかしたことないだろ」
「…?」

急に何の話をしだしたのか、僕にはわけがわからなかった。

けれど酒が入り、緊張が一気に緩んだ様子の先輩は、止まらなかった。

「どん底から這い上がるとか、立ち直れないような挫折とか。そういうの。…経験ないだろ?」

“挫折”という言葉は知っている。

けれど、それを自分の人生に照らし合わせたことが一度もなかった。

でも、先輩の言う通り、たしかに僕は“挫折”というものを経験したことがないのかもしれない。いや、ない。

でも、それが何なのか。

挫折なんて、しないにこしたことない。どん底から這い上がったこともないけど、別にどん底にあえて行く必要もないじゃないか。

「これといった挫折はないかもですけど…」

そんなふうに思っている僕の心を見透かしたかのように、先輩は最後にこう言い捨てた。

「そういうところだよ。中途半端なところでとまってるの」


一瞬、時が止まったような気がした。



僕の人生は順調だ。上手い事いっている。

…けれど、自分よりも賢くない人間が仕事で結果をだすことがあるのは事実だった。

僕よりも学歴が低かったり、どう考えても頭が足りない人間たちが、なにやらガムシャラになって働いているのだ。

そして、稀にポンと突然に出世したりする。

「たまたまですよ~…」

そんな謙遜を言いながら…。


― そう、たまたま。まぐれだ。運だ。僕のほうが賢いんだから、大丈夫。

そんなふうに言い聞かせていたけれど…。

手をヒラヒラとさせながら去っていく先輩の背中を見つめながら、考えた。

もしかして、大きな挫折経験や野心のようなものがないというのが、僕が早く出世できていない理由とでも言いたいのだろうか―。

それからずっと、先輩の言葉が頭からこびりついて離れなかった。


でも、こればっかりはどうすることもできない。

出世はしたい。この会社でもっと上に行って、給料も上げたい。もっといい暮らしをしたい。

そんな欲はある。

けれど、そのために必死になって這いつくばろうとは、どうしても思えない。死に物狂いで働くモチベーションは湧いてこない。

そして、それってどうしようもない。

大きな挫折を経験したり這い上がった経験があれば、もっとガッツが湧いてくるらしいけど、「よし、挫折しよう!」なんて思えない。挫折は結果だ。出自も変えられない。

何となく気づいていたけれど、蓋をしていた事実。

変に賢く立ち回れてしまう能力があるからこそ湧いてこない、これでもかという凄まじい勢い。

持たざるものだけが、持つもの。

とでも言うのだろうか。

気づいてしまったけれど、どうすることもできない事実に、僕はただただ絶妙にコンプレックスを抱き、じわじわと苛まれている。


▶前回:美人だけが招待される謎のLINEグループ。そこで共有される秘密の情報とは…

▶1話目はこちら:「ヒゲが生えてきた…」美人すぎる女社長の悩みとは

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こつこつと努力することが好きな女


 
   

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