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同棲中の彼にフラれ、33歳にして婚活市場へと舞い戻った女。そこで直面した残酷な現実とは

東京カレンダー

今となっては昔のことですが、港区に沙羅という女が生息していました。

「今夜、食事会あるんだけどどう?」と言われれば飛び入り参加して、必死に“彼氏候補”を探したものでした。

ある日、ようやく彼氏ができて食事会に行かなくなりましたが、その彼にも…。

残念に思って2年半ぶりに港区へ近寄ってみると、そこには以前と全く別の世界が広がっていたのです。



港区の浦島太郎になっていた女・沙羅(33)


「ごめん沙羅。別れたいんだ」

裕二からそう告げられたのは、つい先日のことだった。…最初に彼から「大切な話がある」と言われたときは、ついにキタ~!と思っていたのに。

交際期間は約2年。裕二は45歳の経営者で、バツイチ。だけど「子どもが欲しい」といつも言っていたし、交際の先には結婚があると信じて疑わなかったのだ。

付き合い始めてすぐ、私は彼が住んでいた広尾の低層マンションへ転がり込んだので、同棲期間も2年が経っていた。

「う、嘘でしょ…。ダメだよ、そんなの。絶対に別れないから!」
「そんなこと言われても。…ごめん、沙羅」

こうして、呆気なく私たちの恋は終わった。

「とりあえず、次の引っ越し先が見つかるまではいてもいいから。でも3ヶ月以内にお願いね」
「さ、3ヶ月…!?」

SNSを中心に、フリーランスのPRをしている私。収入は月によってマチマチだけれど、良くて40万。ただ最近は案件自体が少なくなっていて、先月はたった20万だった。

それでもこの家もあるし、裕二もいた。だから平気だったのだ。

とりあえず大急ぎで、今住んでいる85平米ぐらいの家を持っていて、一緒に暮らせる彼氏を見つけなくてはならない。

「3ヶ月ね…」

このときの私は、次の彼氏を見つけるなんて余裕だと思っていた。

なぜなら、まだ33歳。容姿だって衰えていないし、これまで結構モテてきた。まだまだ私はイケるはずだ。

しかし2年半ぶりに港区の社交場へと舞い戻った私には、残酷な現実が待ち受けていたのだった…。


一緒に食事会へ行く仲間がいない…!?


裕二と別れた翌週。私は友人の美穂とともに、グランドハイアットの『オーク ドア』でランチをしていた。

彼女は港区での遊び方を教えてくれた人であり、戦友でもある。出身地も大学も違うし、年齢も1つ年上だけれど気が合うのだ。

実際、20代後半の週末はずっと一緒に過ごしてきた。美穂と参加した食事会は、まさに星の数ほどある。

「…ということで、誰かいない?今、大至急で彼氏募集中なのよ」

大きな窓から心地よい風が吹いてくる。そんな彼女の隣には、昨年生まれたばかりの凛ちゃんがベビーカーの中でスヤスヤと寝ていた。



「そう言われてもねぇ…。ご存じの通り、今は子育てが忙しくて飲みになんて行けてないし」

それはそうだろう。凛ちゃんはまだ生後6ヶ月で、手がかかる時期。それに美穂は、毎週末飲み歩いていたとは思えないほど、もう立派なママになってしまったのだ。

「美穂はいいよね、素敵な夫をゲットできてさ」
「まぁね。でもあの食事会、沙羅も一緒にいたじゃない」

彼女は羽振りがいいことで有名な、20歳も上のおじさんと結婚した。

今日もベビーカーには無造作にエルメスのケリーがかかっていて、指にはハリーウィンストンの大きな指輪が光っている。

「いいなぁ…」
「でも裕二さん、突然どうしたんだろうね。沙羅と裕二さんも、結婚するかと思ってたのに」
「それは私も思ってたよ~」

結局、フラれた理由もよくわからない。ただ単に愛情がなくなったのか、他に好きな人でもできたのか…。聞きたいけれど聞けない自分がいる。

「沙羅はスタイルも抜群だし、美人だし。また婚活市場に戻っても余裕でしょ!」

実は美穂の言葉に、まんざらでもない自分がいた。

身長163cmで、細身。脚が綺麗だと褒められることも多いし、美人だと言われてきた。Instagramに投稿する度に「お綺麗ですね」とか「美人すぎて憧れです」といったコメントがつく。

「さすがに、美穂を飲みの場に連れて行くわけにはいかないもんね…」
「行きたいけど、今は無理かなぁ。他に誰かいないの?一緒に夜遊びできる女友達」

いることにはいるけれど…。気づけばこの自粛期間中に、みんな結婚していた。そして既婚者の友達には、子どもができていた。

未婚率の上昇や少子化のニュースを疑ってしまうくらい、アラウンド35の女たちを取り巻く環境は、急激に変化していたのだ。



― あれっ。私、夜に遊んでくれる友達いなくない?

みんな家に入り、子どもができ、夜遊びできる友達はいつの間にか消えている。愕然としていると、見兼ねた美穂がスマホを必死にスクロールしてくれていた。

「沙羅。この子と連絡取ってみたら?私たちより8歳くらい年下だった気もするけど…。まだ現役で遊んでるはず!顔も広いし、いい子だよ」

そう言うと、彼女は萌ちゃんという可愛い女の子を繋げてくれた。

そして翌週には、萌ちゃん主催のお食事会へ行けることになったのだ。…けれどもそこに参加した私は、完全に“浦島太郎”状態だった。


「お酒、飲みます♡」なんてセリフは、もう死語?


萌ちゃんが呼んでくれたのは、西麻布で開催されるという3対3の食事会だった。お相手は、スタートアップ系企業の経営者とのこと。

いつもよりカジュアルな服装を心掛けたけれど、何があるかはわからない。とりあえず靴はピンヒールにした。

しかしお店へ足を踏み入れた瞬間、自分が完全に場違いだったことに気がつく。

「遅くなってすみません…」
「あ!沙羅さんですよね、初めまして」

出迎えてくれた萌ちゃんは、ナチュラルな髪色のミディアムボブで、とにかく肌の透明感がすごい。手のひらサイズの小さな顔に、こぼれ落ちそうなほど大きな瞳。

そして洋服は、今流行りのオーバーサイズ。ゆるっとしたシルエットが、まさに今ドキの“男ウケしそうな女の子”だった。

「か、可愛い…」

思わずそう声に出してしまうと、彼女は屈託のない笑顔を私に向けてくれた。

「そんなことないですよ〜!沙羅さんこそ。美穂さんからお話は聞いてましたが、すごく美人さんですね♡とりあえず、男性陣も来てるので座ってください」

勧められるがままに奥の個室へ入ると、そこには全員Tシャツにカジュアルなパンツといった、ゆるい装いの男性3人組がいた。



「初めまして、沙羅です」
「よろしくお願いします!沙羅ちゃんは1杯目、何飲みますか?」
「じゃあ、とりあえずシャンパンを…」

港区での1杯目といえば、シャンパンに決まっている。当たり前のことを聞かれ、一瞬戸惑ってしまった私。でも、驚くのはまだ早かった。

「シャンパンか…。グラスであったかな」
「えっ!?」

今日の参加者は、男女3名ずつの合計6名。だから女の子の誰かが「シャンパンを飲みたい」と言えば、まずはボトルで1本頼む。

そして自動的に、みんなシャンパンで乾杯するというのが、港区では暗黙のルールだったはず。

「…あの。皆さんはシャンパン、飲まれないんですか?」
「あぁ。僕は車なので、ノンアルで」
「僕はハイボールかな~」
「私は薄めのハイボールで!」

お酒が飲める子=楽しくてモテる子の概念が、ガラガラと音を立てて崩れていく。男性から呼ばれた食事会では、気分が乗らなくてもお酒を飲んで盛り上げてきた。

でもみんな、平然とノンアルなどを頼んでいる。それはまさに新世界だった。



「沙羅さん。ソバーキュリアスって言葉、ご存知ですか?飲めるけど、あえて飲まない。アルコール度数0%の飲み物もあるし、無理に飲まなくて大丈夫ですよ」

萌ちゃんがそっと耳元で教えてくれたけれど、衝撃が大きすぎてどう反応すればいいのかわからない。

そして、この日の帰り道。完全アウェイだった私は、当然誰からも連絡が来ることはなく…。しょんぼりしながらマンションのゲートをくぐる。

「どうしよう…」

この素敵なゲート付きの家とは、あと3ヶ月でオサラバだ。でも今日の食事会に参加してみて、急に自信がなくなってきた。

乾杯は、シャンパンで。

こんな当たり前のルールが不正解になる日が来るなんて、思ってもみなかった。

そうは言っても、迷っている暇はない。とりあえず私は、港区の新たなスタンダードを学ぶことにしたのだ。


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