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『エルヴィス』など音楽伝記映画で語られる、ミュージシャン×マネージャーの様々なドラマ

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トム・パーカー大佐とエルヴィス・プレスリー(写真提供=Photoshot/アフロ)

 これまで何度かエルヴィス・プレスリーの伝記映画が制作された。そんななかで、バズ・ラーマン監督の『エルヴィス』がユニークなのは、プレスリーを見出したマネージャー、トム・パーカー大佐が物語の語り手になっていることだ。

【写真】『ロケットマン』のエルトン・ジョンとジョン・リード

 プレスリーとパーカーとは様々な点で対照的で、セクシーでステージでカリスマ性を発揮するプレスリーに対して、パーカーは垢抜けない商売人。プレスリーは音楽のことしか考えないが、パーカーの頭の中は金のことだけ。プレスリーのグッズを売り出す際には「I Hate Elvis」というバッジも売り出して、プレスリーを嫌う人々からも金を巻き上げようとする。エルヴィスに匹敵するくらい、パーカー大佐の存在感を際立たせることで、エルヴィスの人生の光と影のコントラストは強くなり、物語はよりドラマティックになった。パーカーはプレスリーの成功の「影」の象徴。そんなパーカーを、善人役が多かったトム・ハンクスが演じて役者としての新境地を切り開いていた。

 これまでにも、音楽伝記映画にはミュージシャンとマネージャーの微妙な関係が描かれてきた。近年で印象に残っているのは『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)のフレディ・マーキュリーとポール・プレンターだ。フレディの恋人でもあったプレンターは、フレディを独占しようと嘘を並び立ててクイーンのメンバーやスタッフからフレディを遠ざけた。その思惑に気がついたフレディに解雇されたプレンターは、フレディとの関係をマスコミに暴露して復讐する。映画では、プレンターはフレディを誘惑して堕落させる悪魔的な存在として描かれていた。

 『ロケットマン』(2019年)のエルトン・ジョンとジョン・リードの関係も愛憎入り混じっている。LAのパーティで、密かに思いを寄せていた作詞家のバーニー・トーピンが女性と仲良くしているのを見て傷心のエルトン。そこに現れるのが、スーツをパリッと着こなしたリードだ。実際に2人が出会ったのは別の場所だったらしいが、映画ではロマンティックに演出している。やがて2人は恋仲になるが、次第にリードはエルトンを支配して休みなく働かせるようになっていく。映画で描かれるリードは、愛よりもビジネス。パーカー大佐よりも冷酷にエルトンから金を絞りとる。リードはエルトンと別れた後、クイーンのマネージャーをやっていた時期があって、映画『ボヘミアン・ラプソディ』にも登場していた。フレディとプレンター、エルトンとリードの関係は、そこに恋愛感情が絡むことで複雑な人間ドラマを生み出していた。彼らの関係はラヴストーリーの変奏曲でもあるのだ。

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 一方、パーカー大佐のように、バンドで大儲けを狙ったマネージャーが登場するのが『ランナウェイズ』(2010年)だ。舞台は75年のLA。プロデューサーのキム・フォーリーは、当時は珍しかった女性バンドを作ってデビューさせれば売れること間違いなし! と目論む。そこでフォーリーは、エレキ・ギターに夢中になっているジョーン・ジェットや、デヴィッド・ボウイの真似をしてコンテストで優勝したシェリー・カーリーなど、ロック好きの女の子を次々とスカウト。みずからプロデューサー/マネージャーを務め、平均年齢16歳のガールズ・バンド、ランナウェイズを結成させる。本作はダコタ・ファニング(シェリー)やクリステン・スチュワート(ジョーン)がランナウェイズを演じたことでも話題になったが、フォーリー役のマイケル・シャノンの怪演ぶりも忘れられない。いかつい顔にアイシャドウをつけ、革ジャンを着たフォーリーはどこから見てもいかがわしいが、バンドを影で操るフォーリーは男性社会の音楽業界を象徴する存在でもあった。

 ブライアン・ウィルソンを描いた『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』(2015年)に出てくる精神科医、ユージン・ランディはマネージャーではないけれど、ビジネスパートナーとして公私にわたってブライアンに関わった。ユージンは精神的な問題を抱えたブライアンの治療をするうちに、ブライアンの作品に口を出すようになり、やがてブライアンのアルバムにライターとして参加。ユージンはブライアンを薬漬けにしてコントロールして、ブライアンの全ての仕事を取り仕切るようになる。『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』では、1960年代のブライアンをポール・ダノ、1980年代のブライアンをジョン・キューザックが演じるというユニークな演出になっていて、1960年代にブライアンが父親から受けた精神的な虐待と、1980年代のユージンの精神的支配を重ね合わせていた。ブライアンは自分を心から愛してくれる女性、メリンダと出会うことでユージンから解放され、ようやく心の平安を手に入れるのだ。

 これまで挙げてきたように、音楽伝記映画に登場するマネージャーはアーティストを追いつめる悪役が多い。そんななかで異色なのが『僕たちの時間』(1991年)だ。ビートルズがデビューして間もない1963年。初めての息子、ジュリアンが生まれたばかりのジョン・レノンは、ビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインとスペイン旅行に出かける。同性愛者のエプスタインはレノンに惹かれていて、レノンはエプスタインの鋭い感性をリスペクトしていた。そんな2人が異国でどんな時間を過ごしたのか。2人が旅行したことは事実だが、映画では自由に想像を羽ばたかせて、2人の揺れ動く関係を繊細なタッチで描き出している。レノンを演じたイアン・ハートは、3年後に『バック・ビート』(1994年)で再びレノンを演じたくらいレノンにそっくり。本作で描かれたミュージシャンとマネージャーの関係は、音楽伝記映画史上もっともロマンティックなものかもしれない。ビジネスの関係を超えて、時として愛や欲望が渦巻くミュージシャンとマネージャーの関係。そこには様々なドラマが隠されているのだ。

(村尾泰郎)

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