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佐野元春に聞く、最高を塗り替えていく音楽家であり続けるための秘訣 欠かせないバンドの存在も

Real Sound

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佐野:確かに、いま音楽に限らずどのジャンルでも“批評”が成り立ちにくい傾向にあるかもしれない。でも良い批評は良い作家を作る。その逆もある。まぁ、良い関係を築けない場合は喧嘩になってしまうこともあるけどね(笑)。批評を書く場所がないなら僕が提供してもいいと思っている。

――作り手が提供した場である以上、そこに集まった言葉は批判的なものになりにくいのではないかと言われたらどう答えますか?

佐野:それがしっかり“批評”の体裁をなしていれば誰も文句は言わないと思う。いずれにしても“批評”の持つポテンシャルは侮れない。だからその可能性を見捨てるわけにはいかないと思っている。

――ちなみにこれまで読んだ中でお薦めの音楽評論関連の本はありますか?

佐野:僕が薦める音楽評論関連の本は、『アウトロー・ブルース』ポール・ウィリアムス著、『ミステリー・トレイン』グリル・マーカス著、『ロックの時代』片岡義男 編・訳、『ローリングストーン・インタヴュー集1、2』。どれもロック文化が始まった70年代の頃の本、言ってみれば古典だ。参考になるかわからないけれど。

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■佐野元春にとっての“バンド”とは

――THE COYOTE BANDの原型が生まれたのは17年前で、佐野元春 & THE COYOTE BAND名義としては、『今、何処』が6枚目のアルバムになります。それだけの年月、アルバム制作を重ねてきたからこそ、現在のような最高のコンディションに到達することができたということでしょうか。

佐野:そうだと思う。THE COYOTE BANDはライブバンドだ。結成してから4年は、ライブハウスやクラブに出ることでバンドとしてのアイデンティティを探ってきた。転機は『BLOOD MOON』だった。このアルバムができたとき先が見えた。バンドはスタジオレコーディングで鍛えられるものではなく、ライブで鍛えられる。今回の『ENTERTAINMENT!』と『今、何処』は、その経験がいい形で生きていると思う。

――50代に入る直前に新しいバンドを組んで、そこからこれだけ長く同じバンドで活動を続けている。国内のアーティストを見渡しても、海外のロックミュージックの歴史を振り返っても、あまり前例がないキャリアですよね。でも、この道筋というのは佐野さんにとって必然だった?

佐野:必然だったと思う。自分にとって音楽は生活の一部、何か表現していくときバンドは欠かせない。80年代のTHE HEARTLAND、90年代のTHE HOBO KING BAND。ふりかえれば自分の活動はいつもバンドと共にあった。

――2015年に『BLOOD MOON』がリリースされた時、ずっと偏愛してきた過去の佐野元春の作品を塗り変える新たな傑作が生まれたと思って、自分はとても感動したんです。でも、今回の『今、何処』は、その時の感動を超えてきただけでなく、いろいろな人に聴かせたくて居ても立ってもいられなくなるような興奮を覚える作品で。60歳を超えてこうして次々に過去の最高を超えてくる、全キャリアの中でも五本どころか三本の指に入るようなアルバムを作ったアーティストなんて、それこそボブ・ディランやルー・リードやデヴィッド・ボウイくらいしか思いつかないのですが、佐野さんの場合、その一つの理由はやっぱりTHE COYOTE BANDの存在なんだろうなって。

佐野:そうだね。THE COYOTE BANDになってソングライティングが変わった。バンドのみんなもいい曲を書くし自分でも唄う。ただのプレーヤーではないんだ。だから僕の曲をよく理解してくれる。年齢は離れているけれど、いい音楽の価値を共有していて、何がクールで何がアウトなのかよくわかってる。一緒にやっていてそこが楽しい。スタジオでレコーディングしているときは年齢なんて関係ない。みんなでいいアイデアを出しあう。たまに新曲ができるとバンドのみんなに聞くんだ。「この曲どう?」って。すると時々「佐野元春らしくない」とか言われることがある(笑)。きっと自分よりTHE COYOTE BANDの方が「佐野元春」についてよく知っているんだと思う。

■「いつも思うのは、あまり悲観的になるのはよそうということ」

――新作のブックレットに佐野さん自身も文章を寄せていますが、そこではTHE COYOTE BANDについて「元々独立心を持ったミューシャンでありタフな連中だ」の後に「さほど体型も変わらず、国から徴兵されることもなく」と続きます。もちろん、そこにはユーモアも込められていると思いますが、この「さほど体型も変わらず」っていう部分も実は大切なのかなって。それは、近年の佐野さんのライブを見ていてもよく思うことで。ご本人を前にしてこんなことを言うのは照れるのですが、毎回、最新の佐野元春が一番カッコいいんじゃないかって思うんですよ。最近ではルッキズムのような言葉で否定的に捉えられることもありますけど、いや、見た目も重要でしょっていう。

佐野:よく言われる。正直に言うと、一時期だるかったというか、ちょっと冴えねぇなという時は確かにあった。変わったのはアルバム『Maniju』を出したころ、2018年だったかな。テニスプレーヤーのジョコビッチの本を読んだのがきっかけだった。自分のアレルギーを知って、食事の内容を変えた。そうしたらいい感じになってきた。その頃に髪も短くして。

――ミュージシャンもある種のアスリートだとするなら、短距離ランナー型から長距離ランナー型へと意識を変革していったような感じですか?

佐野:なんていうか、あるときから意識のアップデートが必要だった。自分が到達したいビジョンがあって、そこに身体と心をフォーカスしていった。その頃から“ヤング・フォーエバー”状態(笑)。自分の曲の引用で悪いけれど〈できるだけ遠くまで翔けてゆけ〉ってかんじだ。

――そして、同じ文章の「国から徴兵されることもなく」というところにも表れていますが、現在、日本の社会は政治的にも経済的にもとても不穏な空気に包まれています。『今、何処』を最初に聴いた時、自分はそのリリックから窺える厳しい現状認識、そして諦観のようなものに衝撃を受けたんですね。でも、こうしてお話を伺っているうちに、健全な肉体や精神があるからこそ、そうした悲観的なビジョンでさえ躍動感のある音楽として届けることができるのかもしれないと思いました。

佐野:あぁ、そうだね。いつも思うのは、あまり悲観的になるのはよそうということ。大人になればどうしたって悲観も入ってくる。理知で捉えたら世界は楽観できない状態だよね。でもポップ音楽はいつも新しい人たちの傍で寄り添うべき音楽。彼らの喜怒哀楽をそっとサポートする、そういう音楽だと僕は思っている。だから、なるべく自分のそうしたマチュアな(成熟した)感じ方を音楽に出さないように気をつけている。

――逆に言うと、いくら気をつけていても、そこからこぼれ落ちるものはこぼれ落ちてきてしまうということですね。

佐野:それはしょうがない。それを察知してくれる若くて冴えてる聴き手がいることも知っている。いつも思うのは、自分なんかよりももっと感性が豊かな、もっと想像力が豊かな聴き手が僕の音楽を聴いてくれているってこと、それを意識している。だから聴き手のことを「この辺でいいだろう」なんて軽く見積もることは決してできない。

■〈より良い明日へと“紛れていく”〉

――『今、何処』の事実上の最終曲の「明日の誓い」で歌われている言葉は、佐野さんのこれまで書いてきた曲とちょっとニュアンスが違う気がしました。比喩が少なく言葉がとても裸なこと。それと、佐野さんは常に“今”のことを歌ってきたソングライターだと自分は認識しているのですが、ここでは“明日”について歌っています。

佐野:「明日の誓い」はギターのリフを聞いてもらえばわかるとおりTHE BYRDSリスペクトのフォーク・ロック。ライブではすでにファンに披露していた曲。どちらかというと、過去のTHE HEARTLANDやTHE HOBO KING BANDのマナーの曲だ。でもここでTHE COYOTE BANDはすごくセンスのいい演奏をしている。僕も気持ちがシンプルになって真っ直ぐに唄えた。良かったのはこの曲がアルバムの最終曲として思った以上に光を放つ曲になったこと。この先ライブで演奏するのが楽しみだ。

――リリックの中の〈より良い明日へと歩いてゆく〉という、J-POPでもこれまで散々歌われてきたような言葉が、佐野さんの表現としては異質な感じもしたんですが。

佐野:そうかな。使い古したクリシェも演奏や唄い方で変わる。でもこの曲のメインポイントは〈より良い明日へと“歩いてゆく”〉ではない。〈より良い明日へと“紛れていく”〉だ。自分で言うのは野暮だけど、この表現にたどり着くまで2年かかった。

――なるほど、すごく納得しました。これだけ素晴らしい2作のアルバムを作って、バンドも非常に良い状態で、音楽家・佐野元春として今はすごく良い時期だと思いますが、この国に暮らす一人の生活者の佐野元春さんとして、これから先の5年、10年を見据えて今どのようなことを考えているかを最後にお伺いしたいのですが。

佐野:悪いけど、生活者としての佐野元春は何もないです。何もない。

――そうですか(苦笑)。どうしてそんなことを聞いたかというと、自分もこれまで50年以上生きてきて、世の中がこんなに早いスピードで変わっていくのを見るのは初めてだぞ、という実感があるんです。多分、これは錯覚じゃないぞと。なので、生活者ではなくても、一人の世界の傍観者の佐野元春として、現在の世界をどのように見ているのかが知りたかったんです。

佐野:あらゆる熱狂に気をつけるように。でも楽しく、落ち着いていこうぜ。

――おお。

佐野:本気だよ。

――でも、佐野さん自身も、たとえば特定のミュージシャンやアーティストに熱狂してきたこともありますよね?

佐野:熱狂してもどこかで醒めてる。いつでも引きかえせるようにしている。

――自分の人生を楽しむためには、熱狂には気をつけた方がいいっていうことですか?

佐野:そうだ。変な熱狂には用心するに越したことはないよ。

※1:Twitter上にあがった一般リスナーからの『今、何処』アルバム・レビューまとめhttp://www.moto.co.jp/features/where-are-you-now/impressions-album

(宇野維正)

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