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「読む人の人生にも踏み込む、本気の恋愛小説を書いていきたい」――凪良ゆうが、今の私に書けるものはすべて書いた、と語る傑作小説『汝、星のごとく』《インタビュー》

ダ・ヴィンチWeb

 2020年の本屋大賞を受賞し、実写映画化された『流浪の月』(東京創元社)、そして『滅びの前のシャングリラ』(中央公論新社)で2年連続本屋大賞ノミネートとなった凪良ゆうさんの、約2年ぶりの長編となる最新作『汝、星のごとく』(講談社)。風光明媚な瀬戸内の島で出会った高校生の男女が、惹かれ合い、やがてすれ違い、成長していく、濃厚な恋愛小説だ。読者に「生きること」「幸せになること」を心の奥深くに問いかけてくる一作について、お話をうかがった。

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(取材・文=立花もも 撮影=山口宏之)

――〈月に一度、わたしの夫は恋人に会いに行く〉という一文から始まる本作。近所の噂話から〈わたし〉こと暁海(あきみ)は過去に“相当なこと”をしでかしており、浮気は夫〈北原先生〉の報復らしいことがうかがえます。いったい彼女は何をしたのか。物語は暁海の高校時代にさかのぼり、地元である瀬戸内の島に越してきた転校生・櫂(かい)との出会いが語られます。

凪良ゆう(以下、凪良) 血肉の通った男女のリアルな恋愛小説というものを、一度書いてみたかったんです。私が長年書いてきたBLというジャンルは、基本的に、ハッピーエンドであることが求められますが、現実には誰もがわかりやすいハッピーエンドにたどり着けるわけじゃない、という想いが頭の片隅にありました。今作は、あらすじだけ見るとかなりベタな話ですが、どれだけありふれていても、細部を丁寧に掘り下げていけばきっとおもしろいものになると信じ、書いてみることにしたんです。

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――17歳の櫂と暁海は、とてもよく似た境遇の持ち主です。櫂の母親は恋に生き、男にふりまわされては捨てられて泣くことの繰り返し。暁海の母親は、愛人をつくって出ていった夫を執念深く待ち続けるばかり。どちらも子どもを唯一の味方として自分に縛りつけながら、いちばんの愛情は子どもに向けてくれない……。

凪良 櫂は東京に行き、物理的な距離をとることができたけど、それはマンガ家になるという夢を叶えて、金銭的な援助ができるという名目があったから。何もない暁海は、女性が自立する手段をもたない島で、自分に依存する母のそばに居続けることしかできなかった。そんな身勝手な親は捨てちゃえばいいじゃないか、と言う人も中にはいるでしょう。身一つでも、さっさと櫂のもとへ行って、2人だけで幸せになればよかった、と。それは確かに、そうなんです。でも、できない。どんな親でも愛しているから、その存在を一瞬でも足枷のように感じてしまう自分が許せないし、見捨てたらきっと一生の罪悪感を背負うはめになるとわかっている。

――どんな親でも“毒”とは思いきれない、それこそがジレンマの根源ですよね。

凪良 捨てればいいじゃん、と簡単に言ってしまえる人は、すっきりラクになれると思っているのかもしれませんね。でも、作中に書きましたけれど、はやくラクになりたいと願うことは、けっきょく、親の死を願うことと同義なんですよ。求めていた愛情とは違うけど、母親なりに愛してもくれている。迷惑ばかりかけられて、どうしようもない母親だけど、自分もやっぱり愛してもいる。だからこそそんなひどいことを願ってしまう自分が許せない。どこに行っても苦しみがふりかかってくる罠だらけの人生なんです。だったら、と、暁海は島から出ずに母親のそばにとどまり、背負い続けることを選んだ。櫂は物理的な距離をとったものの、けっきょく、どこまでも母親を見捨てることはできなかった。それが正しいとは私も思っていませんし、どんな親のもとに生まれてくるかによって子の一生がほとんど決まってしまう現実には、むしろ憤りしか感じませんが、だからこそ、捨てればどうにかなるわけじゃない、ということも描きたかったんです。

男と女、それぞれにふりかかる、社会的役割の呪い

――マンガ家として成功するため東京に出た櫂と、「いつ結婚するのか」と島の人間に聞かれ続けるだけの自分に絶望する暁海。交互の視点で描かれる2人のすれ違いは、どちらの事情も理解できるからこそ、読んでいて胸が痛くなります。

凪良 多忙な時間の合間を縫って暁海に会う時間をつくった櫂のことを、彼の立場に立てば“わかってやれよ”と思うでしょうし、彼女なら許してくれるはず、と甘えた行動をとることも決して責めることはできません。いちばん身近な人だからこそ、追い詰められているときは配慮を忘れてしまうというのは、誰にだってあることでしょう。でも暁海からしてみれば、約束もしていないのに、来るのが当たり前とばかりにいきなり呼び出されたあげく、仕事を言い訳に放置されたら、軽んじられていると感じてもおかしくないですよね。どちらも、間違っていない。だけど、正しくもない。どちらかに肩入れしそうになるけど、でも、もう一方の気持ちもよくわかる。そう思っていただけるギリギリのバランスを積み上げながら描くのは苦心しました。

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