top_line

【 最新ニュースをアプリでサクサク読むなら! 】

普段は温厚な隊長が豹変…消防署で行われる「審査会」とは?

幻冬舎ゴールドライフオンライン

×

睡眠不足と事務処理の停滞で、舞子も水上も疲労の色は隠せないが、四十代のベテラン隊長がこんなに気合が入っているのに二十代の自分たちが疲れたと言い出すことはできなかった。

「準備はできたか? よし、あと一回、気合を入れていくぞ」

菅平が装備を整え、訓練会場に入ってきた。

一週間後、審査会当日。

本日、消防署では「庁舎開放」が行われていて、一般市民が見学できるようになっていた。救急隊の審査会場にも地域住民が見学に訪れている。その中で、ひときわ目を輝かせて救急隊の活動訓練を見ている男児がいた。以前、ショッピングモールで心肺蘇生体験に参加した五歳の男の子・谷川伊吹と、その母親の雫が審査会を見に来ていた。

広告の後にも続きます

菅平「お父さんは、呼吸と脈拍が感じられない、大変危険な状態です。私は、救急救命士です。今から医師の指示を得て、気管にチューブを通して空気の通り道を作ったり、点滴をして心臓を動かすためのお薬を投与したいと思います、よろしいですね?」

家族役「はい、お願いします」

菅平「よし、聞け。活動方針だ。この傷病者は六十歳男性。窒息による心停止。心電図はPEA(無脈性電気活動)。特定行為で気管挿管とアドレナリンを投与し、救命救急センターに搬送する、いいか?」

赤倉・水上(声を揃えて)「よし!!」

菅平「隊員は指導医に指示要請と静脈路確保、薬剤投与。機関員は気管挿管の補助。私は現場を統括し気管挿管を行う」

赤倉・水上(声を揃えて)「よし!!」

菅平「ポンプ隊長。ポンプ隊で胸骨圧迫と搬送経路の確保を頼む。隊長は、家族への対応と時間経過を記録してください」

ポンプ隊長「了解」

五分経過。

菅平「気管挿管、完了」

赤倉「隊長、静脈路確保後、一回目の薬剤投与が完了しました」

菅平「よし、効果の確認を行え」

赤倉「隊長、心電図波形あり! 脈が触れます」

菅平「よし、再観察を行う。機関員、心電図モニターをプリントアウト。隊員、本部に報告」

赤倉・水上(声を揃えて)「よし!!」

菅平「ご家族の方、いま、お父さんの心臓が動き始めました。このまま人工呼吸を続けて救命センターに搬送します」

係員(ピーッと笛を吹く)「想定、やめ!!」

「終わりましたね」

「お疲れさまでした」

「ご苦労さま」

審査を受け終わった後、菅平、舞子、水上の三人は汗だくになり、消防署の裏庭で缶ジュースを飲みながら休憩を取っていた。

「しかし、水上さんって女性にだけでなく、子供からもモテるんですね」

汗を拭きつつ炭酸飲料を飲みながら、舞子は水上に話題を振った。

三人が飲んでいる缶ジュースは、伊吹からの差し入れだった。

「カッコいい救急隊のお兄さんに渡してください」と、受付に届けられていたものだった。もちろん買ったのは母親の雫であろう。

「あの親子、けっこう頻繁に消防署に来ているみたいですね。もしかして、お母さんの方も、子供を使って水上さんに近づこうとしていたりして」

「……今度、ウチの署の救命講習会に参加するって言ってた」

「やっぱり! 結構、本気かもしれないですね」

「さて、そろそろ事務室に戻るか。審査会が終わっても、今日は当番勤務だから、これから仕事がいっぱいあるかと思うと気が抜けないけどね」

誰より厳しい訓練をしてきた菅平が言ったとたんに、『ピー、ピー、ピー』と指令が流れてきた。

『六十五歳男性、胸痛のもよう』

【前回の記事を読む】「トロッコ問題」から解き明かす、救急隊員に求められる心構え

  • 1
  • 2

TOPICS

ジャンル