■最新作にして“始まりの物語”
「プレデター」シリーズは、高度な科学技術を駆使した武器を持つ“宇宙で最も危険な戦士”プレデターと人類との攻防が描かれ、作品ごとに新しい要素を取り入れてアップデートしてきた。
第1作から光学迷彩で姿を消すという“見えない恐怖”を人類に与え、第2作「プレデター2」ではレーザー光線で標的を撃ち抜く“ショルダー・プラズマキャノン”が登場。その後も、鋭い刃がついた切断兵器“レイザー・ディスク”など、プレデターの装備も進化している。
■“試練の狩り”の意味
8月5日にディズニープラスのコンテンツブランド「スター」で配信のシリーズ最新作「プレデター:ザ・プレイ」の舞台は、300年前のアメリカであり、主人公はネイティブ・アメリカン最強部族の女性“ナル”。
戦闘技術に長けた部族の中で育った彼女が、仲間たちと共にライオン狩りに出掛けるという場面。駆け出しのナルにとって、これは“試練の狩り”であり、クリアして仲間に認めてもらいたいという気持ちが強かったのだが、狩ることはできなかった。
それでも、無理をしてでも成し遂げようとするナルは「(試練の狩りは)狩りの腕を証明するのではなく、生き延びること」と諭される。これまでのシリーズでも、プレデターとの対決では倒すだけが選択肢ではなく、“生き延びる”ことが重要になっていた。
それゆえに、ナルが試練の狩りに行く場面で兄・タエベ(ダコタ・ビーバーズ)がかけた言葉が「ライオンに思い知らせてやれ『お前が生きてられるのは、ここまでだ』とな」というセリフだ。この言葉は、クライマックスシーンでも重要なキーワードとして効いてくる。
狩りに出たナルは巨大な足跡を発見するが、それはクマのものではないと気付く。仲間にそれをアピールしても、誰も信じてはくれない。単独行動をした時にプレデターと初遭遇し、“見えない敵”の出現と見たことのない攻撃の衝撃は、第1作を見た時と同じような感覚を味わえた。舞台は1700年代のアメリカということで、武器は弓矢や手斧といった原始的なものしかなく、高度な科学技術によって生み出されたプレデターの武器とは比べ物にならないぐらい頼りなく感じる。
しかも、プレデターは大きなクマも軽々と持ち上げるほどの怪力。人類は“生きるため”に狩りをしているが、プレデターは“狩りをするため”に生きている。ナルは知恵を使い、地の利を味方に戦いを挑むが、プレデターを狙う別の集団(人類側)という敵も現れ、一時はプレデターをおびき寄せるための生け贄にされてしまうなど、混沌とした中で物語が展開していく。
無防備に近い状況での得体の知れない敵と対峙(たいじ)する恐怖。ネイティブ・アメリカンの血を引く女優アンバー・ミッドサンダーがナルを演じていることなど、本作で強く感じられるのが“リアルさ”だ。
ストーリー序盤の頃のナルは、やや自信過剰で負けん気は強いが、どちらかというとまだまだ未熟で無鉄砲なところが目立っていたが、ライオンやクマ、そして謎の敵(プレデター)との対決で死の恐怖をリアルに体感し、“生き延びるため”に強くなっていく姿が描かれている。現代日本の社会でも兄弟や仲間、上司、先輩に認められるためについつい無茶をする…そんな場面はよくあることで、今作でのナルの姿にも共感を覚え、思わず応援したくなる人も多いのではないだろうか。
ナル役のアンバーは、初めてプレデターを見た時にかなりの衝撃を受けたというが、同時に「私はなぜか分からないけれど『あいつと戦うことができる』という気持ちが湧いてきた」とも語っており、なるべくしてナル役になったと言えそうだ。そんな配役もニクい。
「プレデター」シリーズを見てきた人にはシリーズ第1作の前日譚であり、“始まりの物語”として原点を振り返るように楽しめ、見てない人にとっては原点である今作から見始めて、その後の作品を楽しむ入口にもなる作品となっている。
これを機に、「プレデター」シリーズの恐怖と迫力、スリリングな魅力を体験すれば、しんどい酷暑の日本でもひんやりとした気分が味わえそうだ。
◆文=田中隆信