top_line

【 最新ニュースをアプリでサクサク読むなら! 】

作家・爪切男「正解の見つからない人生において、風俗は救いのようなもの」

日刊SPA!

作家・爪切男「正解の見つからない人生において、風俗は救いのようなもの」

 2018年にデビュー作『死にたい夜にかぎって』がヒットし、現在も活躍を続ける作家・爪切男。風俗に足繁く通い、その経験を綴ったエッセイ『きょうも延長ナリ』を上梓した。「風俗にも救いがある」という作者の思いや現代の窮屈さを氏独自の視点で語ってもらった。

◆ヤベー奴を野に放つのが密かな楽しみ

――爪さんがデビュー作を発表した頃、私と同じ会社で働いていましたね。デビュー後、爪さんが会社をやめる時「まだまだ不安定なんですが」と言っていましたが、あれは謙遜でしたか?

爪切男(以下、爪):退路を断とうと思っていました。あの業種って、作家業と会社勤めの両立がしやすい職場だったので、それに甘えないように。

――会社を辞めれば自由にはなりますが、前例やルールなしで、「型」を一人で作り上げていかなくてはいけません。難しさと楽しさを教えてください。

爪:自由が有り余っていると、意外にも窮屈さがありますよね。何でもできるって何をしたらいいのかわからないのと表裏一体なので。

格闘技なんかがそうですが、リングとルールがあるから安心して戦えるんですよ。それがない殴り合いは、怖いし見てられないですよね。

楽しさは、みんなが働いている平日の昼の時間帯に寝ていられるくらいですね(笑)。あと、精神的に辛い時でも、虚勢を張って生きることは楽しいです。なんか作家っぽくて(笑)。ずっとプロレスが好きで、見ている人に夢を与えるプロレスラーの姿に憧れてきましたから。

――爪さんは会社にいる時も、明らかに不満があったり反抗心を持っているのに、なぜかいつもニコニコしていて大衆とも程よい距離感をもってうまくやっていたことを覚えています。

爪:あれは、私の性格の悪さなんですよ。新人さんの教育係をやらせてもらうこともありましたが、どんなにヤベー奴でも辞めさせないように必死でフォローしていました。ヤベー奴を野に放つのが密かな楽しみだったんです(笑)。

◆「救い」ではなく、救いのようなもの

――風俗エッセイを書くほど風俗に通っていた爪さんですが「お金を払っているから相手をしてくれて、時間が来ればおしまい」という風俗。虚しくはないですか?

爪:確かに虚しいです。でも私は、風俗に救われていたんですよ。

人生でつらいとき、大好きなプロレス、美味いメシ、キレイな景色、友人とのバカ騒ぎ、色んなものに救われてきました。その中の一つが風俗だったんです。確実に救われたのかといったらそうではなくて、現状は何も変わってない。でもなんとかやっていけるような気にさせてくれる。風俗とは「救いのようなもの」だったんです。ステキな時間の無駄遣いというか。

――多くの人は「救いのようなもの」ではなく、「本域の救い」を求めてますよね。言い換えると「確かに救われるもの」となりますでしょうか。

爪:そうなんです。今ってネットでもすぐ「正解」が見つかる時代ですよね。私たちの世代(爪切男1979年生まれ)って、自分で得られる情報が圧倒的に少なかった分、答えがすぐに見つからない時間が長かったですよね。

――あの頃は、旅行先で写真を撮っても実際に見られるのは、旅行から帰って写真店で現像した後ですからね。正解を保留されて過ごす時間が長かったです。

爪:一方で今の若い人たちは、答えがすぐ見つかる環境で育ったので、「今の辛い状況がバチっと救われるやつを今すぐください!」って、なるんでしょうね。それで、そんな救いなどないことを知って絶望する。これから先の人生って、どうにもならないことの方が多いと思うので、救いのようなもの、ひとときの現実逃避をする方法をたくさん知っておいた方がタフに生きられる気がしますね。

◆空白や欠損が許されない時代

――いきなり救われようとするわけではない。だから爪さんの作品は、一見エログロもあるけど、よく読むと、社会的には何か欠落していて弱い登場人物たちが、ありのままで生きる姿が見えてきて、読んでいる側も救われるんだと思います。

爪:多くの人がそうだと思うんですが、人間って欠落しか愛せないんです。例えていうなら、プラモデルを説明書通りに作ることが正解なのかという話です。説明書では腕の部品だけど、それを頭につけた方がかっこいいと思ったのなら、頭につけちゃえばいい。

空白になった腕の部分はもう、そのままでもいいんじゃないかと思いますよ。人生うまいこといかないもんですから。自分に何か空白があっても、その空白こそが自分の魅力だと信じて生きていかなきゃいけないんですよ。

――空白のままでもいいし、空白になった腕の部分を家にあった爪楊枝で代用したっていい。

爪:夢を叶えて今は幸せに生きている人でも、歳をとれば体もボロボロになってきますし、大切な人たちも死んでいく。どうしても空白が生まれていくんですよね。いずれは、ありものでやっていくしかなくなるのが人生なんです。

――「ありもので済ませる」という行為を、フランスの文化人類学者レヴィ=ストロースが「ブリコラージュ」という言葉を使って語っていました。

福島の原発の冷却水が、汚染水として海に流れ出しているかもしれないという時に、流出の有無を調べるために、専用の何かではなく冷却水に入浴剤を混ぜて海に色がつくかを見ていたそうなんです。それを見て「日本人はブリコラージュ(ありもので済ませる)のがうまい」と言ってました。

爪:なんとなく、空白や欠損が許されなくて、物事の善悪をはっきりさせないと気が済まないといった最近の風潮が進むと、その日本人の特性も、今後なくなってしまう危険性があるようにも感じられますね。
Instagramはこの世に空白なんて存在しないかのようなハッピーな感じだし、Twitterは相手の空白を攻撃し合う喧嘩ばっかり。かつてSNSも救いのようなものの一つだったと思いますが、もうその時代は終わったのかなとも感じます。

◆初恋のようなもの

――風俗でかなり変態性の強いプレイをいくつもされていることは、エッセイから伝わってきましたが、友人などに内容を話して、最も引かれたのはどんなプレイですか?

爪:目隠しをされて、何をされるかわからない状況から、女の子が私の胸毛にライターで火をつけたんですけど、可愛い女の子にこの身を燃やされることに異常に興奮しました。

――命の危険が香ってくると引きますよ(笑)。風俗は一期一会だとのことで、基本的に2度は指名しないそうですが、それでももう一度会いたい嬢はいますか?

爪:正直、全員会いたいですよ。でも、妹のように可愛がっていた街娼の女の子、どうしてもそういう気分になれず、無駄話を楽しんだだけでサヨナラした女の子と、その肌に触れることができなかった抱けなかった子たちには特に会いたいです。

不思議ですね。裸のコミュニケーションを交わした相手よりも、それをしていない子に会いたくなるという。手に入れられなかったものをいつまでも想い続けるというのは、初恋と一緒なのかもしれませんね。

◆アップデートしない爪切男

――今、そして今後について何か心がけていることはありますか?

爪:私たち世代は「おじさんもアップデートしないとダメだよ」とよく言われるじゃないですか。でも、アップデートとは違う何かで、若い人たちと繋がっていけないか模索しています。

そもそもおじさんなんて、完全なアップデートはできないじゃないですか。無理にやってもどこかにボロが出るんですよ。「アップデートしたふりおじさん」にだけはなりたくないですね。

――年相応でいいんですよね。少し前に、年齢より異様に若く見える女性が「美魔女」と呼ばれて礼賛されていましたが、無理してアップデートしている姿が私には空々しく思えました。その時と似たような違和感がありますね。

爪:アップデートというと、今までの人生を塗り替えてしまうような感覚がありますからね。これまで培ってきたものを新しい色で塗りつぶすことは容易じゃありません。全てをアップデートするのではなく、できることからチェンジしてみる。まずは伝え方を工夫していくことかなとは思っています。自分の意見が正しいと思い込まず、意見が合わないからと対話を投げ出したりしない。風俗の延長のようにお金はとられないので、ゆっくりと時間をかけて考えていきたいですね。

 空白を持った人がそのままで逞しく生きる姿を描いてきた爪切男。それに救われたひとはこれまでも多くいるが、性欲のはけ口とも思われそうな風俗でさえも、同じ信念が通底していた。アップデートではなく変化をしていく爪切男に今後も注目していきたい。<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

TOPICS

ジャンル