年収“8ケタ”(1,000万円以上)を稼ぐ女性たち。
給与所得者に限っていえば、年収8ケタを超える女性の給与所得者は1%ほど。(「令和2年分 民間給与実態統計調査」より)
彼女たちは仕事で大きなプレッシャーと戦いながらも、超高年収を稼ぐために努力を欠かすことはない。
だが、彼女たちもまた“女性としての悩み”を抱えながら、日々の生活を送っているのだ。
稼ぐ強さを持つ女性ゆえの悩みを、紐解いていこう――。
▶前回:「会社で働くのがバカみたい!」本業と副業で年収1,100万円の事務職の女がたどり着いた答えとは?
File9. 麻実子、年収3,000万円。「大した仕事じゃないくせに」と言われ…
「買ったばかりのマノロの靴、インスタにアップしたいな~。あ、そうだ!今日、早速履こうっと」
こう思いつくと、麻実子は購入したばかりのMANOLO BLAHNIKの新作に合うコーディネートを作るべく、クローゼットから服を探し始めた。
『デザイン会社役員』これが、麻実子の肩書だ。
しかし、会社役員とは名ばかり。実際には夫が経営する会社のちょっとした事務などをするくらいで、役員らしい仕事など何もしていない。
しかも、その事務作業も大した仕事量ではなく、麻実子は時間にはかなり余裕がある生活を送ることができていた。
◆
「お金に困った生活は絶対にしない。金持ちとしか結婚しない」
生まれもって容姿に恵まれたが、麻実子の生まれ育ちは決して裕福とは言えなかった。
「麻実子ちゃん、もっとお洒落な格好すればいいのに」
友達や周りの大人たちにこう言われたことも度々あった。しかし、そう簡単に親に服を買ってもらえないことを、麻実子は小さい頃から理解していた。
お洒落をしたい年頃に、服やバッグにお金をかけることができなかった思春期の苦い思い出は、麻実子の人格形成に大きく影響した。
そして、麻実子は恋愛を意識する年齢になった時にはすでに、“男性選び”の基準を確固たるものにしていたのだった。
麻実子は容姿を武器に、大学卒業後に就職してすぐ婚活を開始。
その中で知り合ったのが、夫となった8歳上の貴樹だった。
“若くて美人”という最強のカードを持つ麻実子に、貴樹は当然のごとく一目惚れした。
これでもかというほどに、バッグや靴やジュエリーを麻実子にプレゼントした貴樹は、出会って3ヶ月後にはプロポーズ。
しかし、結婚に際して貴樹は1つの条件を出してきた。
「俺は今、自分で立ち上げた会社を軌道に乗せる岐路に立っている。仕事をしている麻実子にこんなことを言うのは申し訳ないが、どうか俺の事業を支えてほしい。絶対に麻実子には後悔はさせないように頑張るから!」
当時30代前半の貴樹は、広告代理店から独立しデザイン会社を立ち上げていた。その事業を支えるために、仕事は辞めてほしいと貴樹は麻実子に言った。
事業を立ち上げたばかりの貴樹に、自分の人生を賭けるのは不安もあった。
しかし、1人の女性として男性にこんな台詞を言われるのは純粋に幸せだったし、何よりここで支えないと「お金に困った生活は絶対にしない」という目標を達成できないと、麻実子は思ったのだった。
「うん、わかったよ。私、会社を辞めてあなたを支えていくわ」
麻実子は退職することを選んだ。
◆
結婚後。
麻実子の支えと当時の景気から、貴樹の事業は順調に成長した。
起業して3年目には黒字化を達成。青山に広いオフィスを構えるようになった。
今では数多くのデザイナーを抱え、大手企業のクライアントも多く持っている。デザイン業界の中でも、貴樹の会社は一目置かれる存在となっていた。
一方の麻実子はというと、貴樹の事業を支えながら、結婚3年目に1人息子の陽斗を出産した。
その陽斗も今年小学校に入学し、少しずつだが麻実子の手は離れつつある。
そして貴樹の事業も、社員数が増えてきていることもあり、麻実子がする作業はほぼなくなってきていた。
節税目的で貴樹の社長収入を分散している都合上、麻実子は3,000万円ほどの給与収入を得ていた。
これだけのお金があれば、服もバッグも自由に買えるが、一方でこんな思いが頭をもたげるのだった。
― もう私の支えなんていらないくらい、貴樹の事業は大きくなっているわ。私の存在意義って、一体何なのかしら…。
これだけの給与を得ていながら、今となっては大して会社に貢献していないことも麻実子は理解している。
「今まで一生懸命支えてきたから、少しはのんびりしても」と思おうとしても、自分の存在価値への問いは消せなかった。
― 時間あるし、他に何か始めようかな…。
常々こう思っていた麻実子は、陽斗が小学校に入学したのをきっかけに、PTA役員をすることにした。
父親の育児参加が謳われて久しいが、PTAという世界は今でもザ・女の世界だ。
― 陽斗はまだ1年生だし、PTA役員の中では私は下っ端なのだから、嫌われないようにしないと…。
自分を戒めながら、麻実子はPTA活動に参加したのだった。
「PTAでは目立たぬように騒がぬように、他のママさんたちの言うことに従っておこう」
細心の注意を払った麻実子は、役員の仕事の時には間違ってもブランド物など持たず、地味な装いを心がけて参加した。
しかし、容姿がずば抜けている麻実子は、いくら地味な格好をしても女性の注目を浴びてしまう。
そして、ある日のPTA会合のあと。
「ねぇ、私たちこのあとカフェに行こうと思っているのだけれど、麻実子さんもよければ一緒にどう?」
声をかけてきたのは、部長を務める佳奈だった。
「ええ、ありがとうございます!ぜひ、ご一緒させていただきたいです」
― こういう会って、とりあえず参加したほうがいいわよね。行かないと、あとで何か言われそうだし…。
麻実子はにこやかに答え、PTAのお茶会に参加した。
お茶会は、麻実子や佳奈を入れて6名で開かれた。
― こういう場所では出しゃばっちゃいけないわよね。とにかくにこやかに、何か聞かれたらきちんと答えるようにしようっと…。
警戒しつつもにこやかに対応しようと振る舞っていた麻実子に、話を振ってきたのは、誘ってきた佳奈だった。
「ねぇ、麻実子さんはどんなお仕事されているの?」
「あ、私は夫の仕事を手伝っておりまして…」
事業内容や会社の規模などの情報は一切出さないように、サラッと答えたつもりだった。
しかし、佳奈は驚くべき一言をかけてきた。
「へぇ…麻実子さん、いいものたくさん持っているから、ご自身ですごく稼いでいらっしゃるのかなって思っていたわ」
― この人、突然何を言うのかしら…。
面食らいながらも、麻実子は動揺を隠すようにこう答えた。
「あ、いえ、そんなことも…」
辛うじて答えたが、佳奈の麻実子に対する“品定め”の視線をさりげなく、そして確実に感じていた。
「あっ、そうそう。私はね、新卒で入社した大手町の総合商社で営業をしているの。こちらの真由美さんはメガバンクにお勤めなのよ。あと…」
その言葉は、麻実子以外の5人がいかに「自分で稼いでいるか」を、とうとうと説明するものだった。
― あぁ、佳奈さんは私のことが気に入らないって思っているんだわ。それで今日、お茶に誘って色々と聞き出そうとしているのね…。
「総合商社に新卒で入社」と自ら言うくらいなのだから、佳奈は出身大学もそれ相応だろうし、相当にプライドが高いことは言葉の端々から見て取れた。
そして、バリキャリを自負している佳奈だからこそ、大して働いてなさそうなのに、いいものばかり身に着けている麻実子が相当気に入らなかったのだろう。
「麻実子さん以外はみんな、会社員として働いているから色んな人とも接するし、結構大変なのよ」
「麻実子さんはいいわよね。ご主人が相当、頑張っているんでしょう?」
麻実子を褒めつつも「ほぼ専業主婦よね」と暗につつく佳奈の“バリキャリマウンティング”は、麻実子の心をざらつかせるのに十分だった。
― あぁ…、お金と時間を使ってこんなイヤな思いするなんて!それに何?佳奈さん、他人の家庭のことなんて口出しして、あまりに品がないわ。
なぜ、あそこまで言われないといけないのか…。疲れと怒りがどっと麻実子に押し寄せてくる。
しかし、一方でこうも思うのだ。
「本当に自分の仕事に、存在に自信があったら『夫の事業を支えている』と言えるし、佳奈の雑言も聞き流せるはずだ」と。
佳奈の発言は、麻実子に失礼なことばかりだった。
しかし夫の事業のおかげで、大した仕事もせずに年収3,000万円を得ていて、自分の存在価値に自信がないのもまた事実だった。
一度湧いてきてしまった疑問は、そう簡単に消すことはできない。
そして、麻実子は思うのだった。
― もう一度、貴樹の事業に役に立つことをやろう。そして、この年収をもらうに相応しい自分になろう。
3,000万円という年収に相応しい、真の意味で自立するべき時が来たことを麻実子は理解したのだった。
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2022年8月5日