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同じ白内障でも片目あたり20万円超の差…「多焦点」の治療費が高額なワケ

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とはいえ、「光は波である」「光が物の背後に回り込む」といわれてもピンとこない方が多いでしょう。そこで、1つ例を挙げましょう。

暗い廊下に、少しだけドアを開けた部屋から明かりが漏れているとします。このとき、漏れる光がほんの少しだけ広がって見えることに気づいていましたか?

そう、これこそが光の回折なのです。

[図表2]スリット(切れ込み)による波の回折

光を通さない物体にスリット(切れ込み)を入れ、そこに向けて光を入射すると、スリットを通過した光は[図表2]のように広がります。この広がる光を回折光といいます。光は広がって伝わるのです。

「回折型レンズ」の仕組み

さて、では複数のスリットに光を入射させるとどうなるでしょうか? 光はそれぞれのスリットで回折しますから、スリットの向こうにはいくつもの回折光が広がっていきます。すると、今度はこの多数の回折光同士が重なり合い、強め合ったり弱め合ったりするのです。

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この、複数の波が重なって強め合ったり弱め合ったりする現象を「波の干渉」といいます。

波が干渉するとき、[図表3]に示すように、波の山と山、もしくは谷と谷が重なると、互いに強め合って強い波として観測されます。それに対して、山と谷が重なり合うと、互いに打ち消し合って波は観測されなくなります。

多数のスリットによって生じる回折光でも、このような干渉が起こります。

[図表3]2つの波の干渉(強め合いと弱め合い)の様子

では次に、多数のスリットを入れた物体に向けて光を入射させてみましょう。すると、[図表4]のように隣り合うスリットを通過して回折した波が揃って並ぶ向きでは山同士・谷同士が揃いますから、強め合った波が観測されます。

この強め合った波が観測される向きと、もとの波が進んできた向きとがなす角度(図中θ)を回折角といいます。回折角はスリット同士の間隔(図中d)によって決まります。[図表4]のようにスリットの間隔が広いときの回折角は、間隔が狭いときの回折角よりも小さくなります。

[図表4]回折波の干渉

この性質を利用すると、強め合った光を一点に集めることができます。つまり、[図表5]のように中央部のスリット間隔を広く取り、周縁に近づくにつれてスリットの間隔を次第に狭くしていくことで、スリットを回折した光を集めて強め合わせることができるのです。これが回折レンズの仕組みです。

[図表5]回折レンズ

回折レンズが「近くも遠くも見られる」ワケ

ところで、実はここまでお見せしてきた図は不完全です。わかりやすくするために、複数ある回折角のうち1つだけしか描いていないからです。

[図表4]では隣り合うスリットからの回折波がちょうど波1個分だけずれて揃う向きで強め合う様子を表現しましたが、もちろん、強め合う波同士のずれは波1個分だけには限りません。波2個分のずれでも3個分のずれでも、山と山、谷と谷が揃いさえすれば波同士は強め合うからです。

つまり、回折レンズは強め合った光を複数の角度でつくり出せるのです。

[図表6]回折角

[図表6]に示すように、隣り合うスリットからの回折波がちょうど波1個分だけずれる向きを1次回折角、2個分だけずれる向きを2次回折角と呼び、それぞれの回折角に強い光が観測されます。

したがって、スリットが全体に分布している回折レンズでは、たとえば1次回折光をレンズの遠くに集め、2次回折光をレンズの近くに集めることができます。

ですから、[図表7]のように、回折レンズは近くも遠くも見ることができるのです。

[図表7]回折型の多焦点眼内レンズの形状および集光

[前掲図表1]で示した屈折型の多焦点眼内レンズのように、中央部と周縁部での役割分担はありませんから、瞳孔が開きにくくなる年齢でも気にせずに使えます。

高額な治療費…「多焦点眼内レンズ」が抱える課題

治療費についてもご紹介しておきましょう。

ここまで解説した「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」はたしかに優れてはいるのですが、2020年3月末までは「厚生労働省の先進医療」として健康保険が適用されず、医療機関にもよりますが、片目で400,000円前後と高額でした。

ところが、2020年4月からは「厚生労働省の定める選定療養」の対象となり、まだ高額なものの150,000~250,000円で治療が受けられるようになりました。

また、多焦点レンズは、健康な眼球でも生じてしまう「グレア」(暗いところで光をまぶしく感じる現象)や「ハロー」(光がにじんで見える現象)が、単焦点レンズよりも少し強いことが報告されています。

一方、従来の標準的な治療法である単焦点眼内レンズを用いた場合は健康保険が適用できますので、片目で約40,000円(3割負担の場合)の治療費です。

つまり、多焦点眼内レンズは単焦点眼内レンズに比べて片目だけで100,000円以上も高額です。すなわち、単焦点レンズにもメリットはあるということです。

単焦点レンズと多焦点レンズの比較を[図表8]に示します。

[図表8]単焦点レンズと多焦点レンズの比較

[図表8]を見ていただければおわかりのように、どのレンズを用いてもやはりもともとの水晶体よりは不便が増えてしまいます。

「高いからいい治療」というわけではない

単焦点と多焦点…個々にあった治療選択を

先述したように、老眼鏡などの眼鏡をかける生活を非常に不便に感じる場合は、少々高額でも多焦点レンズを用いた治療が向いているでしょうし、逆に老眼鏡などの眼鏡に慣れてしまっている場合は、単焦点レンズを用いた治療が向いているのではないでしょうか。

ちなみに、もともと左右の視力に差があり、その生活に慣れてしまっている場合は、片目を遠方にピントが合う単焦点レンズ、もう片目を近くにピントが合う単焦点レンズを用いる治療を選択するケースもあるそうです。

以上のように実際の医療の現場では、治療を受ける患者さんの職業やライフスタイルに合わせて、どのレンズを適用するかが決まっているようです。正解は1つだけではありません。

鎌田 浩毅

京都大学

名誉教授

米田 誠

研伸館

専任講師

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