top_line

【完全無料で遊べるミニゲーム】
サクサク消せる爽快パズル「ガーデンテイルズ」

歩みを止めず、進化し続ける。広尾『飄香(ピャオシャン)』で体感する四川の文化と食の物語

80C[ハオチー]

泡菜の汁でマリネした牡丹海老に、同じく泡菜の汁を乳化させたソースをあしらっており、ソースは淡いマヨネーズにも似た味と質感。ほのかに香るのは、青山椒油、青柚子の皮といった柑橘香や、レモングラスに似た香りを持つ木姜油(ムージャンゆ)。甲殻類のうまみを推すのではなく、発酵の酸味と香りが生きた、あと味のキレイな海老料理だ。

料理のインスピレーションを得たのは、四川省の郫県(ピーシェン)にある「成都川菜博物館(四川料理博物館)」で見た一枚の絵。

「宋の時代の高官で文人・蘇易簡が泡菜壇子から泡菜汁を飲んでいる絵が飾られていて、『世界で一番好きな食べものは?』との質問に『私は泡菜の汁だ』と答えたとありました。それからいつか泡菜の汁をメインにした料理を、と思っていました」と井桁シェフ。旅先の想いが、見事この料理に結実した。

松雲―名菜・肝油海参(レバーとナマコの煮込み)をさらに高みに

そんな井桁シェフといえば、2018年、自らの店を経営しながら、成都で四川料理の伝統を担うレストラン『松雲澤(松云泽:ソンユンゼェァ)』の松雲門派に入門し、“老四川”、すなわち四川伝統料理を学び直している。

その『松雲澤』の名菜「肝油海参(ガンヨウハイシェン:豚レバーとナマコの煮込み)」をもとに創られたのが「松雲」。これが実に手の込んだ一品だ。

『飄香』の「松雲」。うつわは中国の名窯・景徳鎮で誂えたもの。鶏は大分県の冠地鶏を使用。添えているのはペコロスの泡菜だ。photo by 飄香

広告の後にも続きます

うつわの中央にあるのは、鶏の白レバーを鶏のムースで巻き、さらに豚のアキレス腱のまわりの皮をシート状にして巻いたもの。元来は豚レバーでつくるところを、こうすることで日本人の口にも合い、心地よい食感と質感を演出した。

一方、味付けは伝統を踏襲し、ナマコとムール貝を煮込んだソースがうまみを添える。隠し味となるのは、豚の小腸の一番下の部分にある菊脂だ。煮汁を口にすると、溶け込んだコラーゲンがしっかりと感じられる。元来の料理の品格はそのままに、複雑なうまみと長い余韻を残す、洗練の一皿だ。

花徑「杜甫草堂」の紅い壁と竹の緑をイメージしたラム肉料理

料理を語ればキリがないが、そのおいしさに思わずため息が出たのは、北海道産ワインラムの二部位を一皿に盛り合わせた「花徑」。

『飄香』の「花徑」。photo by 飄香

鹵水(ルーシュイ:香辛料が入った下味用の調味液)で調味したラムのショートロイン(背の肉:鞍下肉)は、万願寺唐辛子、おこげをのせてローストしており(写真右手前)、ヒレ肉には網脂を巻き、香辣(シャンラー)味で調味した。

そこに腐乳風味のマッシュポテトと赤米のソースが絶妙に絡み、サンテミリオンの赤ワインがぴたり。唐代の詩人、杜甫が住んだ「杜甫草堂」の紅い壁と竹の緑をイメージした、美しくも食べ終わるのが惜しくなる一皿だ。

飄香の“顔”がセレクトするアルコールペアリング

気になるドリンクはワインを中心に揃えており、より豊かな食体験のためのペアリングも用意されている。

ワインは『飄香』の顔として活躍している熊谷さんのセレクト。

まず、アルコールのペアリングは、フレンチでそのキャリアをスタートさせ、10年以上井桁シェフを支えてきた支配人の熊谷泰代さんがセレクトしている点に注目したい。普段からシェフの料理を愛し、熟知した彼女ならではの感性がここに発揮されるのは嬉しいことだ。

また、ノンアルコールペアリングは薬膳に精通した豊田さんが担当する。緑茶と菊、薄荷を合わせたオリジナルブレンドや、スパークリング仕立てにしたクラフトティー、蒙頂甘露をはじめとする四川の緑茶など、こちらも楽しいラインナップになりそうだ。

猛暑の中、到着後にサッと出していただいたのは、青花椒がほのかに香る冷たい緑茶。清涼感が心地よい。

背景にあるのは24の味付けと56の調理法。味覚の幅を広げてくれる洗練のコース

伝統的な四川料理は、24の味付けと56の調理法があるといわれる。新生『飄香』の料理は、表現こそ洗練され、アレンジもされているが、その根底にあるのは、井桁シェフが一貫して追求してきた“老四川”だ。

唐辛子の焙煎度合いや、花椒の使い分け、自家製で仕込む泡菜などの発酵食品や、甘味や酸味の表現、香りのバリエーションなど、ここには四川料理の“味のかたち”を構成する多彩な要素が揃っている。そうありながらも、現代の調理器具も活用した新しい表現や、すべての料理に込められたストーリーが、真摯に食を愛する人の心を捉えるのではないだろうか。

料理の紹介は少し難解かもしれない。しかし、ここで初めて井桁シェフの料理を食べる方には、四川料理の奥深さとおいしさと楽しさを、四川料理や文化に精通する方には歴史や文化を紐解く喜びを、常連であれば、シェフのこれまでの歩みに想いを馳せることができるだろう。

客席は8卓16席のみだ。 photo by 飄香

飄香(ピャオシャン)
東京都渋谷区広尾5-19-1 HIROO VILLAGE 1F-2(MAP
※建物の右側を進んで左手にあるドアが入口です。
TEL 03-6277-2141
営業時間 18:30に一斉スタート(18:20を目安に着席)~22:30まで
席数:8卓16席(テーブルのみ)
定休日:日・月
おまかせコース 24,200円のみ(税込・サービス料10%別)
ワインペアリング 15,000円 ノンアルコールペアリング8,000円
予約は2営業日前まで
予約専用電話 050-3145-6641(受付時間11:00-15:00)|オンライン予約(3か月先まで)

TEXT&PHOTO サトタカ(佐藤貴子)
※画像の一部は店舗提供

  • 1
  • 2
 
   

ランキング(グルメ)

ジャンル