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仲間由紀恵が体現する“笑顔の裏にあるもの” 四人兄妹の母から『ちむどんどん』の母へ

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仲間由紀恵『ちむどんどん』(写真提供=NHK)

 放送中の朝ドラ『ちむどんどん』(NHK総合)において、黒島結菜演じるヒロイン・暢子をはじめとする個性豊かな子どもたちをいつも見守ってきた母の優子。演じる仲間由紀恵の慈愛に満ちた、優しい微笑みが印象的である。いまでは暢子たちだけでなく、“『ちむどんどん』の母”になりつつあるとさえ思えるほどだ。彼女の安定感が本作に与える影響は大きい。

 気がつけばもう物語は折り返し。長男・賢秀(竜星涼)、長女・良子(川口春奈)、次女・暢子(黒島)、三女・歌子(上白石萌歌)ら比嘉家の四兄妹はそれぞれに成長し、その過程でさまざまな変化を見せてきた。それに対してこれといった変化がなかったのが母の優子だ。

【写真】仲間由紀恵演じる優子の若き頃演じた優希美青

 だが、“変化がなかった”と断言してしまってはならない。“沖縄”を背景に本作が描くのは、暢子を中心とする子どもたち(=未来を担う次の世代の者たち)にウェイトが置かれた物語なのだ。設定上、彼・彼女らの個性が非常に際立っているというのもあるが、優子は子どもたち一人ひとりにスポットライトが当たるよう、少しだけ引いた位置に立って支える人物でもある。彼女はとんでもなくお人好しで、ただただ笑っている人だという印象があった。個性を押し出すべく主張の激しい演技を繰り広げる若手俳優たちと比べると、仲間の演技は控えめで、ある種の“分かりやすさ”が求められる朝ドラにしては、表情のバリエーションも乏しく感じていた。家族のために苦労する姿もたびたび見せてはきたが、“ニコニコしている”という印象が何よりも先にくる人物だったのだ。

 しかしそれは、少し前までのこと。第15週の放送では、沖縄のお盆の最終日の「ウークイ」に、これまで優子が口にすることのなかった胸の内を語る姿が描かれた。沖縄戦体験者である優子は家族みんなを失い、生きる希望をも失っていたところをいまは亡き夫の賢三(桜田通/大森南朋)に救われたらしい。当事者にしか理解できない、いや、当事者にさえ理解できない、計り知れないほどの大きな心の傷と深い悲しみを抱えて彼女は生きてきた人なのだ。

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 そういえば優子の笑顔はいつも、底抜けの明るさなどから生まれるものではなかった。彼女が笑顔を絶やさない理由は曖昧だったように思う。もちろん、愛する子どもたちが目の前にいるから、というのは大きな理由だろう。しかしその笑顔の裏には、彼女の壮絶な過去があったのだ。仲間の演技を“控えめ”だと先に記したが、彼女は物語の初登場から、優子というキャラクターのバックグランドをそっと丁寧に示し続けてきたのである。ハジけるように快活な演技を展開する若手たちを相手に、忍耐的ともいえるスタンスで静かな“微笑みの演技”を実践してきた仲間の妙演が、15週目についに結実したのである。

 仲間は、「優子は、やんばるの自然のように明るくおおらかで、慈愛に満ちた女性」と自身の演じる役を分析しており、「優子は沖縄戦を経験しています。彼女が過去に何を見て、何を感じたのか。戦時中の沖縄に関する本や当時を知る方のお話を手がかりに想像を巡らせました」と優子を演じる上でのアプローチについても述べている(※1)。優子の告白は、子どもたちにさらなる大きな変化をもたらすものだった。しかしそれは、あくまでも脚本上だけの話。演じる者の姿に真実味がなければ、視聴者を説得することはできない。けれども仲間が劇中で涙ながらに語る姿には、優子の“これまで”がすべて詰まっていた。事実、いままで優子の言動に批判的だった視聴者もあの語りを目の当たりにしたことで、優子のキャラクターは極めて一貫したものだったのだと納得した方がほとんどのようだ。さらに仲間は「思うように人とつながれない今、ドラマを見て『家族っていいな』『こういう生き方っていいな』など、温かなものを感じてもらえたらうれしいです」と結んでいる。放送開始前から彼女が願っていた方向へ、本作は進み始めているのではないだろうか。

 さて、母親である優子がこれまで口にすることのなかった過去を語ったことにより、さらに結束力を高めた比嘉家の面々。同時に、優子役の仲間由紀恵の演技によって、ドラマ全体も締まりを取り戻した印象だ。最近は恋愛騒ぎが中心で、物語の展開に緩急が必要だとはいえ、いくらなんでもたるみ過ぎだと感じていたのは筆者だけではないだろう。そこで仲間が新章への大きな転換点を作ったとも言えると思う。この母親から、そして俳優としての大先輩でもある仲間から手渡された“幸せへのバトン”を、暢子=黒島結菜はどう運んでいくのだろうか。

・参照
※1.『連続テレビ小説 ちむどんどん Part1』(NHK出版)

(折田侑駿)

 
   

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