
ハエをゾンビ化させ、思い通りに操るのは「寄生菌」だけかと思えば、人間までもがそれを可能にしてしまったようだ。
米国の研究グループは、ミバエの脳をハッキングして、遠隔操作で操ることに成功したという。磁場でハエの神経細胞を活性化させたところ、0.5秒で交尾時に見せるポーズをとったそうだ。
脳の研究や、神経疾患の治療に役立つと期待される技術だが、国防高等研究計画局から助成を受けており、いずれは人間の思考を他人に転送するような、軍事技術としても応用されるかもしれない。
鉄ナノ粒子と磁場で神経細胞を活性化
ハエの脳をハッキングするには、まず遺伝子操作で脳の神経細胞に熱に反応する「イオンチャネル」を発現させてやらねばならない。このイオンチャネルは熱を感じると、神経細胞を活性化させる。そこでハエの脳に、「酸化鉄」のナノ粒子を注入する。これを磁場にさらすとナノ粒子が発熱するすることで、狙った神経細胞を活性化させ、ハエに思った通りのポーズを取らせることができるという。
実験では、磁気コイル上に設置したケースに脳をハッキングしたハエを入れ、その様子をカメラで観察。
磁場にスイッチを入れると、目論見通り、ハエは0.5秒で翅(はね)を広げたという。これは、ハエが交尾のときによくやるポーズであるそうだ。
Magnetic control of select neural circuits
米ライス大学のジェイコブ・ロビンソン氏は、「脳の研究や神経学的疾患の治療のために、精密で、体を傷つけないツールが求められている」と、プレスリリースで語る。
選んだ神経回路を磁場でリモート操作することは、神経科学技術における聖杯のようなもの。
我々の研究では、磁場によるリモート操作の速度を改善し、神経の速度に近づけることができた。目標に向けた重要なステップだ

人間の思考を他の人に転送できるようになる!?
ロビンソン氏らが目指しているのは、今回の技術で視覚障害者の視力を回復させることだ。この技術で視覚野を刺激してやれば、眼球を通さずに外の景色を認識させることができるかもしれない。また同様の技術で、脳に起因する運動障害を治療できる可能性もある。
なおロビンソン氏は、あの国防高等研究計画局(DARPA)が助成するMOANA計画のメンバーでもある。
ということは、今回の技術はただ研究や医療に役立てられるだけではないかもしれない。
DARPAの狙いは、脳の神経活動を読み取り、それをまた別の脳に書き込むヘッドセットを開発すること。つまり人の思考を他者に転送する技術なのだ。
この研究は、学術誌『Nature Materials』(2022年6月27日付)に掲載された。
References:Wireless activation of targeted brain circuits in less than one second / written by hiroching / edited by / parumo