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【小説】貴族の少年がスラムに落ちてまで探した、愛する祖父を殺した人物はまさかの…

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思わず掴みかかろうとするが、栗栖がそれを止めた。

「じゃぁっ!! てめーが魂を喰ったってんなら、その腕にじっちゃんがいるんだろ!! 出せよ、じっちゃんを!!」

鋭い瞳で、ゆっくりと後ろを振り返る―その仕草に、浩輔は少し怯えた。

「……都合のいい腕じゃねーんだよ。魂を喰う、とは言ったが、それは魂に宿る“悪”の部分だけで、“善”の部分は天に還るんだ」

人は誰もが皆、『善』と『悪』の心を持っている。善い行いをすれば魂は白くなるし、悪行を犯せば黒く染まる。だが、彼女の腕は黒い部分しか吸収できない。

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「……お嬢は……悪くあらへん……」

どこから聞こえてきたかと思えば、花魁の着用する着物を引きずりながらパックの牛乳を飲んでいる獣耳の幼女が、浩輔のすぐ隣で否定している。

「殺女(あやめ)、本当の事だ。庇う必要はねーよ」

殺女、と呼ばれた幼女は浩輔のズボンを引っ張っていたが、葬儀人―彼女に言われてからその小さな手を離した。

「では、そのチンピラは偶然居合わせただけで、都合が悪くなったので目撃者だけを殺して財宝を盗み、五日間どこかでやり過ごしていた―と、それが君の考えか」

「お前もだろ。……第三者がいる可能性が高いって言えよ」

「何事も穏便に手早く処理したいのだよ、俺は」

「第三者、見当はついているのかよ?」

「浩輔、といったか、兄弟は?」

「一人っ子、です」

「ならば、何故、海川の次期当主である君の母親は次の後継者を捨てたのであろうな?」

その赤い目が浩輔を突き刺す。だが、浩輔にとっては嘘など語っていないし、責められるのもお門違いだ。

「……隠し子、がいるとでも言うのかよ」

「んなもんいるワケッッ!!」

「それが、一番しっくりくると思うのだよ。死体検分はまだ終わっていないが、当主―君の母親の体は何人子供を産んだか、それも直に分かるだろう」

付き合いたまえ―と、桐弥は腰を上げるが、彼女がそれを遮った。

「昨夜の報酬。まだ貰ってねぇ」

ああ、そうだった―そう思い直したのか、立ったまま彼は蘭軍曹に重要なモノでも入っていそうな黒い皮でできた正方形の鞄を開けさせた。中には数枚の書類。

「土地の権利書だ」

渡され、彼女は目を通していく。下部のサイン部分には、懐かしい名前が達筆な文字で書かれていた。

「土地の権利書? なんでそんな」

「ただのコレクションだ」

「はぁ?」

父親の持っていた、この国に散らばる数々の土地や建物の権利書。彼女は、それらを見返りに軍からの仕事を請け負っている。父の残した土地の権利書、それはスラム世界に限らず、貴族世界や華族世界のものもあった。今回渡されたのは貴族世界のものだったようだ。

「ま、チンピラだったしこんなもんで許してやるよ」

「やれやれ。では、死体検分と屋敷の捜査に加わってくれるな?」

「留守番を頼みたいところだけど、浩輔も必要みてーだし。どうすっかな」

「ちょ、お前待てよ! こんな小さな子供も連れていくのかよ!?」

小さな子供―獣耳の生えた幼女、殺女の事を言っているのだろう。

「殺女はただの子供じゃねぇよ。立派な葬儀屋の一員だ」

ゆっくりと立ち上がって伸びをし、壁にかけていた白いロングコートを羽織る。腰に刀を二本差し、揃って部屋を出て、事務所の入り口に“外出中”の看板を立てかけた。

「栗栖」

「御意。電話の外線は通信機に取りつけておりますので対処は可能です」

「なら、問題ねぇな。あとは、スラム世界の連中が食料欲しさに来ない事を祈るだけだ」

「先日配布したばかりでしょう。暫くは大丈夫だと思いますが」

「大事に食ってくれてる事を願うばかりだな。どんなに貧しくても、心まで貧しくなってほしくねぇんだ」

「立派な騎士道精神だな」

「それは違うだろ」

くっくと笑う桐弥に彼女のツッコミが入る。なんとも和やかな雰囲気だが、浩輔だけは落ち着く事ができなかった。

【前回の記事を読む】屋敷で起きた凄絶な殺人事件…鍵を握るのは2人組の三下盗人

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