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「絶対に、誰にも言えない」大企業の社長が、ストレス発散のために夜な夜な大金をつぎ込むのは…

東京カレンダー

「羨ましい」
「あの人みたいになりたい」
「別世界の人間だな…」

そんなふうに憧れられる側の人間にも、闇がある。

彼らが、どんなものを抱えているか。

あなたは、ご存じですか?

▶前回:「ヒゲが生えてきた…」美人すぎる女社長の悩みとは



ケース2:恵まれすぎた男


この世には、恵まれた人間と、そうじゃない人間がいる。

僕は前者だ。

はっきりと、それを自覚している。

代々続く老舗企業の御曹司として生まれ、何不自由ない生活を送ってきた。…いや、世間からみたら不自由ないどころの騒ぎじゃないだろう。

愛育で生まれ、若葉会幼稚園からの慶應幼稚舎へ入学。実家は、白金の三光坂に構える200坪の一戸建て。

何の苦労もなく、慶應経済を卒業した。

それに何より…。僕は顔がいい、背も高い。

ギリギリ180cmには届かないけれど、身長は179cm。決して華やかではないけれど、元ミス日本候補だったという母に似た整った顔立ちは、塩顔イケメンとして持て囃された。

大学卒業後は、大手商社に入社。配属は花形、エネルギー部門だった。

大人になった僕は、モテた。いや、モテ散らかした。

お酒を覚えてからは、夜な夜な西麻布に繰り出した。ただの美人じゃ飽き足らず、アナウンサーやモデル、ちょっとした芸能人と飲んでは、男友達に自慢して優越感を覚えていた。

絵に描いたような、完璧な人生。

誰もが羨む僕──。


しかし…。

それは、突然に終わりを告げた。




僕の人生が完璧だったのは前述の通り。

完璧すぎるが故に、微妙な地方から来た同級生や、成り上がりで商社に入社した同期からは嫌われることもあった。

平和主義な僕は当時、彼らがどうして他人の成功をねちねちと妬むのか、全くもってわからなかった。

まぁ、野良犬にかまれたくらいの感覚で、そんな輩からの戯言はかわすようにしていたのだが…。

30歳になったとき、彼らの気持ちが少しだけ、わかるようになってしまったのだ。



もともと、僕は実家の家業を継ぐことが決まっていた。

これは僕が生まれる前、…いや、両親が結婚するよりも前から当たり前に決められていたことだった。

長男が家業を継ぐ。

現代においても、その風習は変わることがなかった。

けれど、僕はそれを幸運だと思っていた。商社での仕事はそれなりに楽しかったけれど、とてもじゃないけれど一生続けたいとは思えない。

難易度は低くないけれど、それなりに賢い人間なら誰でもこなせる。ただの知的なルーティンワーク。

一通り経験したタイミングで卒業し、社長として悠々自適に生活できるなんて、最高な人生だと思った。

しかも、最初から年収は2,000万以上。もちろん、一生安泰が約束されているわけじゃない。経営者として時にはシビアな判断を求められることもあるだろうが、それはそれで楽しそうだ。

僕は、自分の置かれた境遇を心からラッキーだと感じながら、みんなに羨ましがられながら、30歳で会社を退職した。

そして、専務として入社。社長業をする父と数年働き、35歳くらいで社長になる予定だ。

最初は30歳という若さで専務という肩書をもらったことに喜び勇み、そして、必死に汗水たらして働いている同期の2倍近い年収をもらっていることにこれまた優越感を覚えては、夜な夜な自慢しながら飲んで回った。

けれど、自分の心に徐々に暗雲が垂れ込める。



学生時代の友人も、商社時代の同期も、30歳を越えたあたりから自分の人生を歩き出す奴らがちらほらと出てきたのだ。

エリートサラリーマンの肩書を捨て、起業に奔走するやつ。本気で愛社精神をたぎらせ、出世を目指しひた走るやつ。はたまた会社をやめ、医者になるという夢に向かって走りだしたりするやつ…。

バカみたいに飲んだくれていた友人たちが、30歳という年齢を節目に、何かから目を覚ましたみたいに、意志を持って歩き出したのだ。

― 俺は恵まれた人間なはずじゃ…。

自分の中に経験したことのない、何かモヤモヤとしたものがわだかまるようになっていったのだ。


その感情が憧れや妬みだと自覚するまで、結構な時間を要した。

なぜなら、今まで味わったことがなかったから。人を羨んだことなんて、なかったから。

自分のやりたいことに向かって、自分の時間を使う。自分の人生を生きている彼らが、どうしようもなく生き生きして見えて、羨ましくてたまらなかった。

陳腐なことかもしれないけれど、本気で、心底、恨めしかった。

けれど、僕は夢を持つことを許されない。この会社を潰さないこと。それだけが僕のミッションなのだ。

家族と完全に断絶して家を飛び出すこともできるけれど、そんな度胸はないし、そこまでしてまでやりたいこともない。

思えば、幼いころから教育という名の洗脳を受けてきたように思う。僕は、将来この会社を継ぐ。男の子を産んで、この家を継がせる。それを永遠に続けること。それが、あなたのやるべき仕事なのよ、と。

「将来の夢は?」なんて、幼い頃でも聞かれた記憶がない。子どもの頃から、将来僕がやるべき仕事を、両親は僕に刷り込み続けていたのだ。

それに、大切に育ててくれた両親を裏切るようなことはできない。僕には、選択肢がなかったのだ。

30歳にしてそんな事実を自覚し始めると、どんどん無気力感と閉塞感に苛まれていった。

僕は、籠に閉じ込められた鳥。飛ぶことを絶対に許されない。夢や目標をもつこと、自分の人生を歩むことが許されない。

自由がない。

恵まれた人生の代償だと自分に言い聞かせようとしたけれど…、果たしてこれは本当に恵まれていると言えるのだろうか──。

そんなことをぐるぐると悩みはじめた翌年、父が懇意にしている衆議院議員の娘と、僕は結婚した。

まったく好みではない女。1ミリも欲情できない。

戦略結婚というものが、この時代にもまだ残っているのだ。

僕の残りの人生は、ほとんど消化試合と化した。



けれど、そんなある日。

僕は楽しみを一つ見つける。

同じような境遇にある幼稚舎時代の友人から、教えてもらった紹介制の交際クラブ。

大金を払う代わりに、可愛い子と束の間の幸せを感じられるのだ。

遊べる女の子なんて、正直いくらでも見つかる。だけど、僕の立場上、それが外にバレたらまずい。

この交際クラブは、違法スレスレだけれど、秘密は絶対に守られる。

僕よりうんと若い女の子と、安心して何もかも忘れられるひと時を過ごせるのだ。

もし、僕がこんなことに大金をつぎ込んでいるなんて知られたら、どうなってしまうんだろうか…。

まずい。まずすぎる。絶対にバレてはいけない。

…けれど、そんなスリルもまた、退屈すぎる僕の毎日を刺激してくれる。

自分の心境をもって、夜の経済がまわる仕組みを理解する。

こんなことにしか喜びを見出だせないなんて、数年前の僕じゃ想像もできなかっただろう…。

けれど、しょうがない。

それが真実なのだ。


どうか、どうか来世は自由な身でありますように──。

本気でそんなことを願いながら、僕は今日も、秘密の扉を開ける。



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