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A24初シリーズ作品は古くて新しいハイテンションホラー 『X エックス』レビュー【茶一郎】

映画スクエア

はじめに

 お疲れ様です。茶一郎です。この7月はホラー映画が豊作も豊作という、どれも粒違いの優れた作品で比較するのも野暮なんですが。その中でも個人的な推しが今回、ご紹介する『X エックス』でございます。もう今や映画ファンにとっては一時期の「スピルバーグ新作!」くらい宣伝に利用されているA24制作の新作にしてA24初シリーズ作品がこの『X エックス』。『悪魔のいけにえ』最良のリメイクのようなザラ付いた楽しい楽しい殺戮ショーでありながら、現実のリアルな恐怖を刻みつつ、かつ「映画についての映画」になっている。とても重層的な優れたホラー作品でございます。一体、どんな作品なのか?という事で『X エックス』お願いします。

あらすじ

 映画は血塗れの一軒家を保安官が訪れている所から始まります。保安官、その一軒家の惨状を見て「一体、何が起こったんだ?」と。時は24時間前に遡りまして……1979年のテキサス。スターを夢見る女優、「X」ファクター=未知なる才能を持っているとプロデューサー太鼓判の女優マキシーンが、クルーたちと映画撮影のために田舎町へと向かいます。どうやらその映画というのはポルノ映画らしい。この映画で一発当ててやると撮影場所の農場へ行く訳ですが、その撮影場所として借りた農場の主、老夫婦の様子がどうやらおかしいという事で、この地獄の24時間が始まるという『X エックス』でございます。

どんな映画?

 70年代の乾いた日差しのテキサス。田舎町で巻き起こる殺戮ショー。この段階でだいぶセンサーが反応しますが、極め付けは撮影クルーが乗るワゴン車のショット。もうこれは『悪魔のいけにえ』だろうという、ほぼ完コピと言って良いほどのショット。まさしく本作『X エックス』は『悪魔のいけにえ』のリメイクというより、あの『悪魔のいけにえ』のテンションとあの映像の質感、ザラ付きを追体験させてくれるような、『デビルズ・リジェクト』以来、最良の『悪魔のいけにえ』オマージュ・スラッシャー映画として景気の良い作品です。また、『悪魔のいけにえ』にとどまらない、『悪魔のいけにえ』の監督トビー・フーパーの『悪魔の沼』の要素もある、当然、70年代のアメリカ映画、アメリカンニューシネマの雰囲気もほのかに感じます。

 実際、本作の監督タイ・ウェストは『悪魔のいけにえ』以上にニューシネマの傑作『断絶』を意識して脚本を執筆したそうです。一見、矛盾した表現ですが新しい「古いホラー映画」としてニューオールドな映画体験を味わえるホラーファン以上に映画ファン必見の一本『X エックス』だと思います。人体破壊、ゴア描写、ちゃんと見せてくれます非常に景気がよろしいですね。最高ですね。

編集と「老化」若さと老いの対比

 若者が訪れた田舎町で、彼らを待ち受ける老夫婦の様子が“どうやらおかしいぞ?”と。当然、スプラッタ、スラッシャーホラーとして景気が良い、怖い、楽しいんですが、他の要素も印象に残ります。どちらかと言うと、この要素の方が僕はホラーとして「怖いな」と感じましたし、優れたホラー映画だなと思いました。これが「老化」「老い」についてのホラーということですね。「老い」の恐怖を描く「老化ホラー」というジャンルが仮にあるとすれば、金字塔的『ザ・フライ』から最近のシャマランの『ヴィジット』『レリック』、ホラー映画じゃないですが『ファーザー』等と同じフォルダに入れて良い一本だと思います。

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 『X エックス』の主人公はスターを夢見る俳優のマキシーンなんですが、影の主役とも言える存在とこのマキシーンとが対比されて描かれるのが本作です。この影の主役がパールという、撮影クルーが撮影用に借りた家の主の奥様ですね。パールお婆さん。ちなみに冒頭で申し上げた通り、この『X エックス』はA24初のシリーズ作品となります。次回作は時が過去に戻りまして、このパールお婆さんが主役の『パール(仮題)』になるそうです。『X エックス』は本当に丁寧かつ、クールな編集でマキシーンとパール、パールとマキシーン、若者と老人、老人と若者、若さと老い、生と死、老いと若さ、死と生、この2つの対比を丁寧に丁寧に丁寧に丁寧に積み重ねて、ドン!と今まで対比されていた2つの世界がある映画的演出一点をもって繋がる、衝突する!こういうクールな映画が『X エックス』なんですね。

 スプラッタホラーとしては肉体破壊描写、物質的なグロテスクな映像を堪能頂けますが、同時に「老化ホラー」としては個人的にはかなりキツい、精神的にグロテスクと表現するべきでしょうか。影の主人公パールを軸とした切な哀しい「老化ホラー」として、この要素が本作をさらに映画として豊かなものにしていると思います。ちなみにこの対比されるマキシーンとパール、キャスティングに大きな、かつ残酷な仕掛けがありますので、その仕掛けは何なのか?この現実の「老化」という恐怖を際立てる仕掛け、ご注目下さい。

2つ目の対比

 マキシーンとパール、若者と老人、若さと老い、生と死の対比、もう一つこの『X エックス』には残酷な対比がありまして、それが「映画」というものそれ自体に関わってきます。そもそも『X エックス』は「映画についての映画」として始まりました。どういうことか?

 冒頭、保安官が訪れた一軒家、その暗い一軒家の中から日差しに照らされている明るい外に向かって映すショット。そのショットはまるで映画のスタンダードサイズのよう。そこからカメラがグーっと、明るい外に向かって寄っていくと、スタンダードサイズから横長のビスタサイズになるかのように明るい外の映像が広がる、という。まるで映画、スクリーンのアスペクト比率の変遷を表しているかのような冒頭から、この『X エックス』は始まって、劇中でも撮影クルーたちが16ミリカメラで撮るスタンダードサイズのポルノ映画の映像、映画内映画の映像が挿入されると。物凄く、アスペクト比、映画内映画と映画の対比、映画と現実の対比を意識させられる作品でもあります。

 「映画はまるで夢のようだ」と、夢のような世界を映す映画と、一方、現実の対比がまたまた残酷に映画の中にいる女優マキシーンと現実の世界にいる老いたパール、(映画=)夢と現実、マキシーンとパールの対比を際立てる訳です。奇しくも同年に公開・配信された『悪魔のいけにえ』の正統派続編『悪魔のいけにえ レザーフェイス リターンズ』。あちらも楽しい楽しい残虐祭りでしたし、街にやってくる若者と街に取り残された老人、老人と言って良いか微妙ですが、若者と老人が対比されていましたので、凄く類似していますが、精神的なえげつなさ、普遍性、残酷さは明らかに『X エックス』に軍配が上がると思います。全ての対比が嫌な、嫌な「老化」「老い」の描写に繋がります。

 少しお話がそれました。ポルノ映画作り自体が物語に組み込まれている、「映画についての映画」としての『X エックス』は驚くべきことに「映画作り」の楽しさも描きます。あるガソリンスタンドで、男優が車に給油をするシーンではカメラのフレーミングによって全く異なる意味を持つという、この映画撮影の楽しさ。段々、段々と撮影が進んでいくと、ある撮影クルーは映画作りの魅力に囚われていく、そんな過程も描きます。まさかの「映画についての映画」という意味で、その映画作りの楽しさを描いているのが、この『X エックス』という作品のもう一つの魅力ですね。

監督の紹介-タイ・ウェスト

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