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夜、自宅のカーテンを開けると女の同僚が…。突然押しかけてきて告げたこと

東京カレンダー

夜、自宅のカーテンを開けると女の同僚が…。突然押しかけてきて告げたこと

愛とは、与えるもの。

でも、与えすぎる愛は時に、相手を押しつぶしてしまうことがある。

愛情豊かなお嬢様・薫子(26)は、そんな“重すぎる愛”の持ち主。

「適度な愛の重さ」の正解とは……?

その問いに答えを見いだすべく、改めて恋愛と向き合った女の、奮闘物語である。

▶前回:食事会で偶然元カレに再会。「もう次の彼氏がいる」と女が告げたら、態度が豹変し…



夕方の18時を過ぎて、部屋には西日が差し込み始める。

薫子は手早くカーテンをひいて逆光を遮ると、再びパソコンに向かった。

「じゃあ、社長が帰国され次第アポイントを…」

画面の向こうでは、どこかのカフェのテラス席にいる紀香が、テキパキとミーティングを進めている。

社長が海外出張で不在の今日。秘書業務の薫子と紀香は、どちらも在宅勤務だ。

今週いっぱいで退職してしまう紀香に会えないのは惜しかったが、その一方でホッとしている自分もいる。

泣き腫らした目はパンパンで、とてもメイクなどできない。鋭いアイラインも凛々しい眉も無い顔なんて、久しぶりだった。

週末、純一郎の家に元妻のシオリ先生が入っていくのを見て以来、薫子は抜け殻のように過ごしている。そんなありさまも、きっと画面越しならバレないだろう。

だけど、紀香が開催した食事会からあんなふうに飛び出してきてしまったことについては、謝らなくてはいけない。

ひと通りのアジェンダが済んだことを確認すると、薫子は画面越しの紀香に向かって、深々と頭を下げてお詫びをした。

「あの…紀香さん。先週末はご迷惑をおかけしてすみませんでした」


頭を下げる薫子に、紀香が放った予想外の言葉

しかし紀香は、薫子の謝罪には一切反応しなかった。

「薫子ちゃん、いま家?この後も出かけない?」

「え?はい。今日は一日中家にいますけど…」

「了解」

そう言うと紀香は、取り付く島もない様子でミーティングを切ってしまう。

怒っているのかもしれない。一瞬そう思ったけれど、きっとそれはないだろう。

というのも、薫子が飛び出してしまったあの後、朋子がこんな連絡をくれていたのだ。

「あのあと紀香さん、『元カノがいつまでも自分のことを好きでいると思うな』『薫子ちゃんほどの頑張り屋さんを逃したのは、あなたの器が小さいせいでしょ』って啖呵きって、即解散になったんだよー。

あの秀明って人、薫子ちゃんに未練たっぷりだったね!」

秀明が自分に未練があるとは思えなかったけれど、自分のために紀香が怒ってくれたことは素直に嬉しい。最低最悪の1日の中で、唯一の救いだった。

そう、最低最悪の1日。

こうしてボーッとしていると、すぐにあの悪夢のような光景がフラッシュバックしてしまう。

純一郎の家に入っていく、シオリ先生の姿。結局週末は、純一郎からの連絡はなかった。

― ダメだ。業務時間は終わったけど、何かしてないとどんどん憂鬱になってきちゃう。

そう思って、紀香への送別の品でも探そうとした、その時。スマホが紀香からの着信を告げた。

業務の伝え忘れでもあったのかと思い、すぐに応対すると、スピーカーの向こうからは弾んだ声が聞こえてくる。

「薫子ちゃん、家の前見てみて!」

「え…?」

つい30分前に閉めたばかりのカーテンを開いて、外を確認する。

するとそこには、家の前の道でピョンピョンと飛び跳ねながら大きく手を振る、紀香の姿があった。

「紀香さん!?」

何度か自宅前に社用車がつけられたことがあるため、紀香が自宅を知っていることは分かっていた。けれど、まさか突然家にくるなんて。

慌てて家から飛び出した薫子は、紀香に尋ねる。

「どうしたんですか!?」

「会いたいから来ちゃった。『シェ・リュイ』のカヌレ買ってきたの。

この前のこと、直接謝りたくて。無理矢理あんな食事会に連れて行っちゃって…ごめんね」

「そんな、謝るのは私のほうです。どうぞ、上がってください!」

「ううん。本当に謝りに来ただけだから、もう帰る。

ねえ、こうして会いたい時、会いたい人に会いに来るのって、私初めてかも。結構いい気分だね。

薫子ちゃん、迷惑だった?」



「ぜんぜん迷惑じゃないです。嬉しいです」

紀香の問いを、薫子は全力で否定する。

本心だった。びっくりはしたけれど、気にかけてもらっていたことがありがたい。

すると、紀香が優しい顔で微笑む。

「そっか。じゃあ、重いか重くないかって、相手次第なんだね。

薫子ちゃんの元彼が受け入れられなかったことも、横井さんがどう感じるかは分からないね」

はっとした。これは、きっと紀香なりのフォローなのだ。

言葉が出ない薫子に、紀香は押し付けるようにしてカヌレを渡す。

「もし誰かのマネをしようとしてるなら、もったいないよ。…無理って、いつか限界がくるからね」

そう言うと紀香は、手を振って去っていく。最後に見せた笑顔がどこか寂しげに見えたのは、気のせいなのだろうか。

薫子は小さく「ありがとうございます」と呟きその背中を見送ったあと、家の中に入ってカヌレの包みを開けた。

デキる紀香のことだ。以前薫子が『シェ・リュイ』のカヌレが好き、と言ったのを覚えていてくれたのだろう。ツヤツヤとしたカヌレを目にしたら、全く無かった食欲が少し湧いてくる。

紅茶でもいれようか。そう思ってキッチンに行くと、ダイニングでは母親が座って本を読んでいた。

「お母さん、紅茶飲む?カヌレ貰ったの」

「ありがとう。でも、大丈夫」

そう答える母の姿は、見るからに元気がない。それもそのはずだった。


意気消沈している母。その理由は…

本当だったら今頃は、父とふたりで43年目の結婚記念旅行に行っているはずだったのだ。

それが、珍しく父に急な仕事が入ったことでキャンセルになってしまったため、今日は朝から一日中塞ぎ込んでいるのだった。

デートがダメになったくらいで落ち込んでいる母を見ていると、自分自身を見ているようで胸が詰まった。

自分の母親ながら、重いと思う。

娘の私でさえそう思うのだ。いい歳をして重い自分は、秀明に笑い物にされるのも無理がないように思えた。

見るに見かねた薫子は、断られたものの、少しでも元気を出してほしくて2人分の紅茶をいれる。

その時。荒々しいほどの勢いで、玄関のドアが開いた音が聞こえた。

「ただいま!」

ダイニングに飛び込んできたのは、仕事で遅くなると言っていたはずの父だ。

「百合江、思ったよりも早く済んだから、急いで帰ってきたよ」



息を弾ませる父の手には、小さな花束が握られていた。千葉の病院内の花屋で買って、ここまで握りしめてきたのだろう。

素朴なチョイスの花と、よれた包装から、父の必死さが伝わってくる。

「もう旅行はキャンセルしちゃいましたよ」

「旅行はまた今度行こう。今からでもどこかに食事に行かないか?」

「もう…。簡単になっちゃうけど、何か急いで作ります」

花束を受け取った母は、拗ねたような口ぶりでキッチンへと移動する。でもその声に喜びの色が隠しきれないのは、薫子の目にも明らかだった。

「…ねえ、お父さん。お母さんのこと、“重い”って思ったことある?」

気がつけば薫子は、父にそう尋ねていた。父は上着を脱ぎながら、なんでも無いことのように答える。

「あんな百合江だよ。そりゃあるさ」

「でも、イヤにならないの?負担に思ったことない?」

「ないよ。そんなところも含めて、百合江だからね」

そう言うと父は、鼻歌を歌いながら浴室へと行ってしまった。

テーブルには、小さな花束が置かれている。薫子はしばらくその花束を見つめた。

そして、スマホを手に取ると、弾かれたように家を飛び出したのだった。



タクシーを探しながら薫子が電話をかけたのは、純一郎だった。

「純一郎さん、今どこ?」

「急にどうしたの?家だよ。今日は在宅にしてたから」

「今すぐ会いたいの」

「え?今日?今から?今からは…ちょっと難しいかな…」

「嫌だ、会いたい」

「薫子、どうしたの」

「2週間も会えないなんて嫌なの。今タクシーに乗ったから、10分くらいで着くから」

純一郎にこんなワガママをいうのは、初めてのことだった。スマホの向こうから戸惑った声が聞こえたが、聞こえないふりをして通話終了ボタンを押す。

こんな自分を、純一郎はどう思うだろう。気がつけば、スマホを持つ手が震えていた。

怖かった。けれど、これが自分なのだ。シオリ先生とは全く違う、重くてズレた女。

そして、薫子がシオリ先生ではないように、純一郎だって秀明ではないのだ。

今振り返ってみれば、秀明と一緒にいる時はいつだって不安だった。

気だるい態度。来ない連絡。愛されているかどうか分からなくて、ずっとずっと、焦るような気持ちで追い続けた。

でも、純一郎は違う。

カフェテラスで助けてくれた時。バツイチであることを教えてくれた時。告白してくれた時。なんでもないデートの時。

いつだって薫子を見る眼差しには、温かな愛情を感じられた。

そして今、薫子が何よりも悲しく感じるのは、その眼差しを向けられていたのが偽りの自分であったことだ。

― どうせ終わりになるなら、その前に…本当の私を知ってほしい。

薫子に内緒でシオリ先生を部屋に上げていた以上、純一郎とは別れることになるだろう。それはもう、分かっていた。

だけど、どうせ別れを告げられるのなら、最後に精一杯の愛情を伝えたかった。

重い自分でもいい。純一郎が抱えきれないほどの愛を見せてからでなければ、諦めがつかないから。

タクシーが、純一郎の家に到着する。

エントランスにはすでに、怪訝な顔をした純一郎が立っていた。

薫子はタクシーを飛び降りると、純一郎のもとに駆け寄る。

そして、溢れてくる涙で瞳を潤ませながら、ずっと、ずっと、秘めていた本当の気持ちを伝えるのだった。

「純一郎さん。縛られない関係でいたいなんて、嘘だよ。

元奥さんと会わないで。私以外、見ないで…!」


▶前回:食事会で偶然元カレに再会。「もう次の彼氏がいる」と女が告げたら、態度が豹変し…

▶1話目はこちら:記念日に突然フラれた女。泣きながら綴った、元彼へのLINEメッセージ

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重さを爆発させた薫子に純一郎は…?彼が明かす、薫子に隠れて取っていた行動とその本音とは


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